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~後日談・番外編~
追憶に沈むー3ー
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冷たくなった手に縋りついて嘆き続ける少女に耐えかねて声をあげたジオを黙らせてノクトは見守り続ける。
どんなに頭を働かせてもいい言葉は見つからなかった。
なんと声をかけても少女を傷つけてしまうような気がした。
小さな背が寂しげに震える。
おさまりかけた涙は少女が冷静さを取り戻して行くのと比例しているように思えた。
悲しみに震えていた体が今度は不安と孤独に震えてる。
ノクトはギョッとするジオを視線だけで黙らせてペタンと座り込んでしまった少女の隣にしゃがみこんだ。
そしてそのままやんわりと少女の手に自分の手を重ねて執事の手から引きはがす。
思ったよりも抵抗はなかった。
おさまったはずの涙が再び溢れ始めたことに気付かないふりをしながらほんの少しだけ小さな手を包むように力を込める。
「……よく、頑張ったな」
自然と零れ落ちた言葉に少女は俯いていた顔をあげてノクトを見た。
零れそうなほどに大きく目を見開いてノクトを凝視していた顔はすぐにくしゃりと歪められた。
何かを堪えるように引く結ばれた唇。垂れ下がった柳眉、はじめて握り返してきた小さな手。
「もう大丈夫だ。なにも心配しなくてもいい」
ポタポタと溢れ続ける涙を右手でそっと拭う。
重ねたままの左手は縋るように強められた力に応えるようにやんわりと握り返してやった。
それでも少女の涙は次々に溢れて来て止まらない。
ノクトは少しだけ困った顔をしながら小さな頭をそっと自分に引きよせた。
コツンと少女の額が胸板に柔らかくぶつかる。
声を出して泣けばいいのに。
それとももう枯れてしまったのだろうか。
そう思ってしまうくらいに少女は嗚咽を噛み殺しながら涙を流し続けた。
いつの間にか小さな手は縋るようにノクトの服を掴んでいて、慣れない手つきで頭を撫でればもっとと頭をすり寄せてくる。
一体自分は何をやっているんだろう。
そう思いながらもノクトは少女を抱く力を強めながら腕の中で肩を震わせる少女に優しく囁いた。
「大丈夫だ」
ハッと顔をあげた少女の目にノクトは映っていない。
それでもノクトは優しく少女の髪を梳いてやりながら囁いた。
「大丈夫だ」
「は、い」
か細い声が力を持つ。
「だいじょうぶ、です」
震える唇がぎこちない弧を描いた。
涙でぐちゃぐちゃになった顔にぎこちない笑みが彩る。
ジオが背後で息を呑んだ気配がした。
そのくらいに鮮やかに少女は笑って見せた。
ぎこちなくても不格好でも、こちらがハッとさせられるような笑みを浮かべて見せた。
それは少女がこの短い時間のあいだに前進した証で、喜ぶべきことのはずなのにノクトの胸に黒い靄が落ちる。
自然と深まる眉間のしわに少女の笑顔が強張った。
ノクトは胸をよぎった不快感を吐きだすように息を吐いて、幾分か柔らかな表情で少女に手を差し出す。
「……一緒に来るか?」
迷わず重ねられた手に小さな笑みを浮かべて少女を抱き上げた。
背後でジオがなにやらギャンギャン吠えた気がしたが無視して歩きだす。
問題はいろいろと山積みだが、とりあえずこの少女が安心できる場所が見つかるまで側にいよう。
そしていつか、伯爵ご自慢の天使のような笑みが見られる日が来ればいい。
お前がもう大丈夫だと心からの笑みで言えるようになるまでは伯爵のかわりに俺が守ってやるよ。
だから、安心して笑え。
追憶に沈む
(…あのときの少女が大人になってまだ俺の側にいる)
(雛鳥みたいにずっと俺の後ろを着いてまわってたチビが)
(いつの間にか俺の妻として隣に立ち笑っている)
(それが何よりも誇らしい……なんて言えばお前はどんな顔をするだろうか)
どんなに頭を働かせてもいい言葉は見つからなかった。
なんと声をかけても少女を傷つけてしまうような気がした。
小さな背が寂しげに震える。
おさまりかけた涙は少女が冷静さを取り戻して行くのと比例しているように思えた。
悲しみに震えていた体が今度は不安と孤独に震えてる。
ノクトはギョッとするジオを視線だけで黙らせてペタンと座り込んでしまった少女の隣にしゃがみこんだ。
そしてそのままやんわりと少女の手に自分の手を重ねて執事の手から引きはがす。
思ったよりも抵抗はなかった。
おさまったはずの涙が再び溢れ始めたことに気付かないふりをしながらほんの少しだけ小さな手を包むように力を込める。
「……よく、頑張ったな」
自然と零れ落ちた言葉に少女は俯いていた顔をあげてノクトを見た。
零れそうなほどに大きく目を見開いてノクトを凝視していた顔はすぐにくしゃりと歪められた。
何かを堪えるように引く結ばれた唇。垂れ下がった柳眉、はじめて握り返してきた小さな手。
「もう大丈夫だ。なにも心配しなくてもいい」
ポタポタと溢れ続ける涙を右手でそっと拭う。
重ねたままの左手は縋るように強められた力に応えるようにやんわりと握り返してやった。
それでも少女の涙は次々に溢れて来て止まらない。
ノクトは少しだけ困った顔をしながら小さな頭をそっと自分に引きよせた。
コツンと少女の額が胸板に柔らかくぶつかる。
声を出して泣けばいいのに。
それとももう枯れてしまったのだろうか。
そう思ってしまうくらいに少女は嗚咽を噛み殺しながら涙を流し続けた。
いつの間にか小さな手は縋るようにノクトの服を掴んでいて、慣れない手つきで頭を撫でればもっとと頭をすり寄せてくる。
一体自分は何をやっているんだろう。
そう思いながらもノクトは少女を抱く力を強めながら腕の中で肩を震わせる少女に優しく囁いた。
「大丈夫だ」
ハッと顔をあげた少女の目にノクトは映っていない。
それでもノクトは優しく少女の髪を梳いてやりながら囁いた。
「大丈夫だ」
「は、い」
か細い声が力を持つ。
「だいじょうぶ、です」
震える唇がぎこちない弧を描いた。
涙でぐちゃぐちゃになった顔にぎこちない笑みが彩る。
ジオが背後で息を呑んだ気配がした。
そのくらいに鮮やかに少女は笑って見せた。
ぎこちなくても不格好でも、こちらがハッとさせられるような笑みを浮かべて見せた。
それは少女がこの短い時間のあいだに前進した証で、喜ぶべきことのはずなのにノクトの胸に黒い靄が落ちる。
自然と深まる眉間のしわに少女の笑顔が強張った。
ノクトは胸をよぎった不快感を吐きだすように息を吐いて、幾分か柔らかな表情で少女に手を差し出す。
「……一緒に来るか?」
迷わず重ねられた手に小さな笑みを浮かべて少女を抱き上げた。
背後でジオがなにやらギャンギャン吠えた気がしたが無視して歩きだす。
問題はいろいろと山積みだが、とりあえずこの少女が安心できる場所が見つかるまで側にいよう。
そしていつか、伯爵ご自慢の天使のような笑みが見られる日が来ればいい。
お前がもう大丈夫だと心からの笑みで言えるようになるまでは伯爵のかわりに俺が守ってやるよ。
だから、安心して笑え。
追憶に沈む
(…あのときの少女が大人になってまだ俺の側にいる)
(雛鳥みたいにずっと俺の後ろを着いてまわってたチビが)
(いつの間にか俺の妻として隣に立ち笑っている)
(それが何よりも誇らしい……なんて言えばお前はどんな顔をするだろうか)
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