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~後日談・番外編~
白夜夢幻ー5ー
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にっこりと笑う男の子に何も言えずにただ縋るように彼を見た。
どうして?
どうしてとめないの?
あの子は大事な子どもでしょう?
お願いだから、止めて。
こんな怖いところから早く連れて出してあげて。
もう助けてほしいなんて思わないから、だからあの子だけでも安全なところに連れて行ってあげて。
たくさんたくさんそう願うのに、彼は男の注意を引きつけるように挑発じみた言葉を紡ぎ続ける。
伝わると思ったのに、彼なら止めてくれるとそう思ったのに、届かない。
苦しくて悲しくて、だけどすぐ側に男が居る私がまだどちらかといえば彼ら側にいる男の子を守るためにできることなんてなくて。
ぎゅうっと唇を噛みながら縋るように彼を見ることしかできないのに、彼は応えてくれない。
それなのに私を見た瞳があまりにも悲しそうで、苦しそうで、私はよけいに身動きが取れなくなる。
苦しくて情けなくて泣きそうで、私が俯いてしまったその瞬間にすぐ近くでカチャリと嫌な音が聞こえた。
何の躊躇いもなく男の子に向けられた銃口。
いつの間にか随分近くまで来ていた男の子は大人の男の人だって泣いて取り乱すような状況なのに真っ直ぐに男を睨みつけている。
「アンタ、なにがしたいの?姉ちゃんをどうしたいの?」
とても静かな声だった。
銃口を向けられている子どもの声とは思えないくらいに静かで内側にとても激しい何かを秘めた恐ろしい声だった。
怖いと思うのに、その激しい何かが私を想う男の子の心だと無意識に思いこんでいるらしい心は奇妙な誇らしさと嬉しさに包まれる。
けれどすぐにそのじんわりと私の心に灯った光はゾッとする狂気じみた男の声にかき消された。
凍えた声が恍惚と私の名前を呼ぶ。毒を塗りたくった手が私を捕まえようと伸ばされる。
「ダメ!姉ちゃん、ソイツのところに行っちゃダメだ!!」
男の子の声に反応するように男の指に力が入る。
後少し、ほんの僅かでも力が加われば簡単に鉛弾が飛び出して男の子を赤く染める。
それはきっと私の選択に掛かっている。わたしが、あの子を選べたあの指は簡単に―――。
そんなこと男の子だって分かっているのに、実際に男の子の顔すれすれに弾丸が通り過ぎて頬っぺたに傷をつくっているのに。
「姉ちゃん!!
俺のことおぼえてなくていいから、忘れててもいいから、ソイツのとこに行かないで……!!」
「ルナ。来い」
張り上げられた声にどんどん我慢ができなくなる。
低い声で紡がれる名前に助けてと叫びそうになる。
必死に伸ばされる小さな手を――――…。
「姉ちゃん…!!」
立ち込める嫌な匂いと大きな音に立ち止まりそうになる私を小さな手が力強く引っ張っていく。
怖くて訳が分からなくて、だけど、掌から伝わってくる温もりに安心して、力強さが心強くて。
ぐいっと強く引っ張られた先に見た逞しい背中に声をあげて泣いてしまいそうなくらいに安心した。
「姉ちゃん、だいじょうぶだよ!」
怖いのと安心したのと訳が分からないのとでぐちゃぐちゃな私を男の子が必死に励ましてくれる。
こんな状況で怖いのは男の子も同じなのに、年上でしっかりしないのは私なのに、一生懸命に言葉を紡いで笑顔をつくって私を安心させようとしてくれる。
なんにも覚えてないのに、それでもいいって手をのばしてくれる。
絶対に連れて帰るんだ!って笑ってくれる。
それだけでなんだかとても救われた気がして、居場所を取り戻せた気がして、状況も忘れて私は笑っていた。
どうして?
どうしてとめないの?
あの子は大事な子どもでしょう?
お願いだから、止めて。
こんな怖いところから早く連れて出してあげて。
もう助けてほしいなんて思わないから、だからあの子だけでも安全なところに連れて行ってあげて。
たくさんたくさんそう願うのに、彼は男の注意を引きつけるように挑発じみた言葉を紡ぎ続ける。
伝わると思ったのに、彼なら止めてくれるとそう思ったのに、届かない。
苦しくて悲しくて、だけどすぐ側に男が居る私がまだどちらかといえば彼ら側にいる男の子を守るためにできることなんてなくて。
ぎゅうっと唇を噛みながら縋るように彼を見ることしかできないのに、彼は応えてくれない。
それなのに私を見た瞳があまりにも悲しそうで、苦しそうで、私はよけいに身動きが取れなくなる。
苦しくて情けなくて泣きそうで、私が俯いてしまったその瞬間にすぐ近くでカチャリと嫌な音が聞こえた。
何の躊躇いもなく男の子に向けられた銃口。
いつの間にか随分近くまで来ていた男の子は大人の男の人だって泣いて取り乱すような状況なのに真っ直ぐに男を睨みつけている。
「アンタ、なにがしたいの?姉ちゃんをどうしたいの?」
とても静かな声だった。
銃口を向けられている子どもの声とは思えないくらいに静かで内側にとても激しい何かを秘めた恐ろしい声だった。
怖いと思うのに、その激しい何かが私を想う男の子の心だと無意識に思いこんでいるらしい心は奇妙な誇らしさと嬉しさに包まれる。
けれどすぐにそのじんわりと私の心に灯った光はゾッとする狂気じみた男の声にかき消された。
凍えた声が恍惚と私の名前を呼ぶ。毒を塗りたくった手が私を捕まえようと伸ばされる。
「ダメ!姉ちゃん、ソイツのところに行っちゃダメだ!!」
男の子の声に反応するように男の指に力が入る。
後少し、ほんの僅かでも力が加われば簡単に鉛弾が飛び出して男の子を赤く染める。
それはきっと私の選択に掛かっている。わたしが、あの子を選べたあの指は簡単に―――。
そんなこと男の子だって分かっているのに、実際に男の子の顔すれすれに弾丸が通り過ぎて頬っぺたに傷をつくっているのに。
「姉ちゃん!!
俺のことおぼえてなくていいから、忘れててもいいから、ソイツのとこに行かないで……!!」
「ルナ。来い」
張り上げられた声にどんどん我慢ができなくなる。
低い声で紡がれる名前に助けてと叫びそうになる。
必死に伸ばされる小さな手を――――…。
「姉ちゃん…!!」
立ち込める嫌な匂いと大きな音に立ち止まりそうになる私を小さな手が力強く引っ張っていく。
怖くて訳が分からなくて、だけど、掌から伝わってくる温もりに安心して、力強さが心強くて。
ぐいっと強く引っ張られた先に見た逞しい背中に声をあげて泣いてしまいそうなくらいに安心した。
「姉ちゃん、だいじょうぶだよ!」
怖いのと安心したのと訳が分からないのとでぐちゃぐちゃな私を男の子が必死に励ましてくれる。
こんな状況で怖いのは男の子も同じなのに、年上でしっかりしないのは私なのに、一生懸命に言葉を紡いで笑顔をつくって私を安心させようとしてくれる。
なんにも覚えてないのに、それでもいいって手をのばしてくれる。
絶対に連れて帰るんだ!って笑ってくれる。
それだけでなんだかとても救われた気がして、居場所を取り戻せた気がして、状況も忘れて私は笑っていた。
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