幸福論

のどか

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~後日談・番外編~

この感情に名前はつけないー後ー

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夜色のコートを羽織って暗く冷たい夜を走る。
それでも恐れることなく、迷うことなく、走れるのは目の前に輝く鈍色があるから。









「雑魚が手間かけさせてんじゃねぇ!」

綺麗だ。
無駄が一切省かれた流水のような動き、重く力強い斬撃、傲慢なほどに相手を見下しながらも一瞬の隙も見せない姿。
この人は剣を振り回しているときが一番カッコよくて綺麗だと思う。
そんなバカなことを考えながらもニナの体は勝手に染みついた動作を繰り返して同じように敵を薙ぎ払っていく。
横目で敵が切り伏せられていく姿を眺める余裕があるくらいにニナの負担は軽い。
そもそも相手をする質も量も違う。
ニナと組むときジオは敵を無駄に挑発する。
自分より弱く体力のないニナに目がいかないように「名前を上げたいやつはこっちに来い」彼が唇を釣り上げてそういうだけで多くの者が目をギラつかせてジオのほうへと群がる。
それに気が付いたとき、悔しくて悔しくて何度もバカにするな!と噛みついた。
今だって悔しい気持ちがないわけじゃない。
だけど、少しずつ、本当に少しずつ背中を預けてもらえることが増えてニナを認めていないわけじゃないということも一緒に過ごす時間のうちで分かった。
それにこうして彼が戦う姿を眺めるのが嫌いじゃない自分にも気が付いてしまったから、ニナは喉の奥に引っかかっているモヤモヤと文句を飲み込んで剣を振る。
それとは比べ物にならないご褒美を手にするために。

「ニナ、終わったか?」
「とっくに」
「だったら手伝いに来い!!
 てめぇは普段お世話になってるセンパイを労わろうって気がねぇのか!!」
「暴れたそうなセンパイにストレス発散の場を提供した後輩の心遣いです」
「アホか!こんな雑魚じゃ逆にストレス溜まるつの!!
 ……後で一勝負付き合えよ」
「は?職権乱用ですよ」
「センパイ命令だ!サボリ魔に代わって誰が書類処理してやってると思ってる!」

低く唸る不機嫌な声にわざと大きなため息を吐いてクルリと背を向ける。
背中越しにぎゃあぎゃあ喚くジオの声を聴きながらゆるみきった表情でニナはそうっと愛刀の柄を撫でた。

「おい!聞いてんのか!?」
「うるさいですね。ちゃんと聞いてますよ。
 私が一本とれたらなにかご褒美くださいね」
「はぁ?それじゃ簡単すぎんだろ。三本だ」
「え?」
「お前、前よりずっと強くなってるぜ。よく頑張ってんじゃねぇか」

頭に乗せられた手が、柔らかく和んだ瞳が、ニヤリと釣り上げられた唇が、
まっすぐに自分に向けられていることが嬉しい。
他の誰よりも、この人が自分を認めてくれることが嬉しくて、死にそうなくらいに幸せだ。
剣士として。女の子として。ニナというひとりの人間として。
この人のそばにいられることを、この人の瞳に映っていられることを、誇りに思う。
だからまだ、

この感情に名前はつけない――
――もう十分幸せだから
(っ、セクハラです!気安く触んないでくださいっ!)
(セクハラ!?俺にだって選ぶ権利っつーもんがあんだぞ?つかお前、セクハラって……)
(死ね!本気で死ね!最低!ボスに言いつけてやる!!)
(うわっ!こら!暴れんな!!剣を抜いてんじゃねぇ!つーかボスに訴えたとこで鼻で笑われてしまいだぞ!?恥の上塗りだぞ!?)
(………コロス!!)
(わわわわ悪かった!だからその据わった目やめろ!な?お前もイチオウ女の子だろ!?)
(わかりました。センパイ、永眠してください♪)
(それ言い方変わっただけーーー!!!)

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