33 / 45
~後日談・番外編~
この感情に名前はつけないー後ー
しおりを挟む
夜色のコートを羽織って暗く冷たい夜を走る。
それでも恐れることなく、迷うことなく、走れるのは目の前に輝く鈍色があるから。
「雑魚が手間かけさせてんじゃねぇ!」
綺麗だ。
無駄が一切省かれた流水のような動き、重く力強い斬撃、傲慢なほどに相手を見下しながらも一瞬の隙も見せない姿。
この人は剣を振り回しているときが一番カッコよくて綺麗だと思う。
そんなバカなことを考えながらもニナの体は勝手に染みついた動作を繰り返して同じように敵を薙ぎ払っていく。
横目で敵が切り伏せられていく姿を眺める余裕があるくらいにニナの負担は軽い。
そもそも相手をする質も量も違う。
ニナと組むときジオは敵を無駄に挑発する。
自分より弱く体力のないニナに目がいかないように「名前を上げたいやつはこっちに来い」彼が唇を釣り上げてそういうだけで多くの者が目をギラつかせてジオのほうへと群がる。
それに気が付いたとき、悔しくて悔しくて何度もバカにするな!と噛みついた。
今だって悔しい気持ちがないわけじゃない。
だけど、少しずつ、本当に少しずつ背中を預けてもらえることが増えてニナを認めていないわけじゃないということも一緒に過ごす時間のうちで分かった。
それにこうして彼が戦う姿を眺めるのが嫌いじゃない自分にも気が付いてしまったから、ニナは喉の奥に引っかかっているモヤモヤと文句を飲み込んで剣を振る。
それとは比べ物にならないご褒美を手にするために。
「ニナ、終わったか?」
「とっくに」
「だったら手伝いに来い!!
てめぇは普段お世話になってるセンパイを労わろうって気がねぇのか!!」
「暴れたそうなセンパイにストレス発散の場を提供した後輩の心遣いです」
「アホか!こんな雑魚じゃ逆にストレス溜まるつの!!
……後で一勝負付き合えよ」
「は?職権乱用ですよ」
「センパイ命令だ!サボリ魔に代わって誰が書類処理してやってると思ってる!」
低く唸る不機嫌な声にわざと大きなため息を吐いてクルリと背を向ける。
背中越しにぎゃあぎゃあ喚くジオの声を聴きながらゆるみきった表情でニナはそうっと愛刀の柄を撫でた。
「おい!聞いてんのか!?」
「うるさいですね。ちゃんと聞いてますよ。
私が一本とれたらなにかご褒美くださいね」
「はぁ?それじゃ簡単すぎんだろ。三本だ」
「え?」
「お前、前よりずっと強くなってるぜ。よく頑張ってんじゃねぇか」
頭に乗せられた手が、柔らかく和んだ瞳が、ニヤリと釣り上げられた唇が、
まっすぐに自分に向けられていることが嬉しい。
他の誰よりも、この人が自分を認めてくれることが嬉しくて、死にそうなくらいに幸せだ。
剣士として。女の子として。ニナというひとりの人間として。
この人のそばにいられることを、この人の瞳に映っていられることを、誇りに思う。
だからまだ、
この感情に名前はつけない――
――もう十分幸せだから
(っ、セクハラです!気安く触んないでくださいっ!)
(セクハラ!?俺にだって選ぶ権利っつーもんがあんだぞ?つかお前、セクハラって……)
(死ね!本気で死ね!最低!ボスに言いつけてやる!!)
(うわっ!こら!暴れんな!!剣を抜いてんじゃねぇ!つーかボスに訴えたとこで鼻で笑われてしまいだぞ!?恥の上塗りだぞ!?)
(………コロス!!)
(わわわわ悪かった!だからその据わった目やめろ!な?お前もイチオウ女の子だろ!?)
(わかりました。センパイ、永眠してください♪)
(それ言い方変わっただけーーー!!!)
それでも恐れることなく、迷うことなく、走れるのは目の前に輝く鈍色があるから。
「雑魚が手間かけさせてんじゃねぇ!」
綺麗だ。
無駄が一切省かれた流水のような動き、重く力強い斬撃、傲慢なほどに相手を見下しながらも一瞬の隙も見せない姿。
この人は剣を振り回しているときが一番カッコよくて綺麗だと思う。
そんなバカなことを考えながらもニナの体は勝手に染みついた動作を繰り返して同じように敵を薙ぎ払っていく。
横目で敵が切り伏せられていく姿を眺める余裕があるくらいにニナの負担は軽い。
そもそも相手をする質も量も違う。
ニナと組むときジオは敵を無駄に挑発する。
自分より弱く体力のないニナに目がいかないように「名前を上げたいやつはこっちに来い」彼が唇を釣り上げてそういうだけで多くの者が目をギラつかせてジオのほうへと群がる。
それに気が付いたとき、悔しくて悔しくて何度もバカにするな!と噛みついた。
今だって悔しい気持ちがないわけじゃない。
だけど、少しずつ、本当に少しずつ背中を預けてもらえることが増えてニナを認めていないわけじゃないということも一緒に過ごす時間のうちで分かった。
それにこうして彼が戦う姿を眺めるのが嫌いじゃない自分にも気が付いてしまったから、ニナは喉の奥に引っかかっているモヤモヤと文句を飲み込んで剣を振る。
それとは比べ物にならないご褒美を手にするために。
「ニナ、終わったか?」
「とっくに」
「だったら手伝いに来い!!
てめぇは普段お世話になってるセンパイを労わろうって気がねぇのか!!」
「暴れたそうなセンパイにストレス発散の場を提供した後輩の心遣いです」
「アホか!こんな雑魚じゃ逆にストレス溜まるつの!!
……後で一勝負付き合えよ」
「は?職権乱用ですよ」
「センパイ命令だ!サボリ魔に代わって誰が書類処理してやってると思ってる!」
低く唸る不機嫌な声にわざと大きなため息を吐いてクルリと背を向ける。
背中越しにぎゃあぎゃあ喚くジオの声を聴きながらゆるみきった表情でニナはそうっと愛刀の柄を撫でた。
「おい!聞いてんのか!?」
「うるさいですね。ちゃんと聞いてますよ。
私が一本とれたらなにかご褒美くださいね」
「はぁ?それじゃ簡単すぎんだろ。三本だ」
「え?」
「お前、前よりずっと強くなってるぜ。よく頑張ってんじゃねぇか」
頭に乗せられた手が、柔らかく和んだ瞳が、ニヤリと釣り上げられた唇が、
まっすぐに自分に向けられていることが嬉しい。
他の誰よりも、この人が自分を認めてくれることが嬉しくて、死にそうなくらいに幸せだ。
剣士として。女の子として。ニナというひとりの人間として。
この人のそばにいられることを、この人の瞳に映っていられることを、誇りに思う。
だからまだ、
この感情に名前はつけない――
――もう十分幸せだから
(っ、セクハラです!気安く触んないでくださいっ!)
(セクハラ!?俺にだって選ぶ権利っつーもんがあんだぞ?つかお前、セクハラって……)
(死ね!本気で死ね!最低!ボスに言いつけてやる!!)
(うわっ!こら!暴れんな!!剣を抜いてんじゃねぇ!つーかボスに訴えたとこで鼻で笑われてしまいだぞ!?恥の上塗りだぞ!?)
(………コロス!!)
(わわわわ悪かった!だからその据わった目やめろ!な?お前もイチオウ女の子だろ!?)
(わかりました。センパイ、永眠してください♪)
(それ言い方変わっただけーーー!!!)
0
あなたにおすすめの小説
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を
さくたろう
恋愛
その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。
少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。
20話です。小説家になろう様でも公開中です。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
届かぬ温もり
HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった·····
◆◇◆◇◆◇◆
読んでくださり感謝いたします。
すべてフィクションです。不快に思われた方は読むのを止めて下さい。
ゆっくり更新していきます。
誤字脱字も見つけ次第直していきます。
よろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる