上 下
5 / 102

【04】恋の衝撃 ① ーアイリスの花言葉ー

しおりを挟む
 その日の夜も、ダニエルはバーへと向かった。
 目当ての男は、相変わらず女の子に囲まれながらカードを楽しんでいる。

 今日はいつもより沢山、彼からの視線を感じる。
 やっぱりあたしに気がある?

 ダニエルは全身を集中させ、酒の入ったグラスを唇につけた。
 横顔だけでなく、指先、髪の先まで、いい女って思われたい。
 こっちに来て!口説いて!と、身体全体で誘ってみる。


「ディーじゃないか!」
 しかし釣れたのは別の男だった。

 確か名前はコニー。
 童顔のヒョロッとした細マッチョな男だ。
 あどけない雰囲気があって、年齢もダニエルより下。

 コニーはポケットから煙草をだし、一丁前にふかしてみせる。
 俺、かっこいいだろ?いかしてるだろ?とでも言うように。

 そんでもってこの男はたぶん、いや間違いなく、自分を狙ってる。

「俺に会いにきたの、ディー」
「……そんなわけないでしょ。ただお酒を飲みに来ただけよ」

 自分に自信のある男はステキだけど、自意識過剰はキライ。
 頬にキスしようとするのをやんわり避けたが、コニーはめげない。
 手を握られたので、蝿を追い払うように振りほどいた。

「俺は君に会えるのが楽しみすぎて、仕事が手につかなかったよ。ね、俺のことどう思ってる?」
「顔見知り、かな」
 馴れ馴れしく腰に手を回し、隣をキープされてしまった。

「本当にそれだけ?」
「えぇ」

「いつも一人だけど、彼氏はいないの?」
「いない」

「なら俺にもチャンスある?」
「ない」

「ハッキリいうね……男はいらないの?」
「まぁね」
「女一人でバーにきてるのに?」

 露骨ろこつに”男が欲しいんだろ”と言いたげで、ダニエルは彼の横っ面を殴りつけたくなった。

 男は男でも、あんたみたいな仕事も手につかなくなるような重いチェリーボーイじゃないのよ。
 目があっただけで肌がヒリつく、男女の遊びをわきまえてる。
 そんな軽い男を求めてるんだっての!

「ね、遊びでも大丈夫だよ。俺の家にこない?今夜は両親が不在なんだ」

 これだけ拒絶を態度で示しても、コニーは全然諦めない。

 もっと冷たく、ハッキリ言うべき?
 あんたとは遊びでも御免だって。
 でもこの手のタイプって、拒否したら馬鹿にされたと逆上しそう。

 騒ぎになって衛兵隊が出てくると困る。
 部署は違うが、近衛兵も衛兵も女王陛下と国に剣を捧げた軍人同士。

 市民の安全を守り悪を取り締まる衛兵に、軍人であるダニエルが喧嘩したなんてバレたら、減給処分ものだ。
 最悪の場合、別の部署に回されてしまう。

 せっかく近衛隊に入れたのに!
 絶対にそれだけは阻止しなければ。

 どうしようかとため息をついた時、「ねぇ」と声をかけられた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

イーティミスは、毒をあおった。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:43

魔力が足りない!?公爵閣下のご主人様からいただきます

恋愛 / 完結 24h.ポイント:56pt お気に入り:72

...私がストーカーにオトされちゃった話。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,306pt お気に入り:6

犯されたい女とお持ち帰りした青年の話(エロしかない)

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:78pt お気に入り:29

高嶺の花は摘まれたい

恋愛 / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:65

【R18】Hide and Seek

恋愛 / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:333

【R18】試される『愛』

恋愛 / 完結 24h.ポイント:56pt お気に入り:46

処理中です...