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【04】恋の衝撃 ② ーアイリスの花言葉ー

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 低い声、上質なビロードのように滑らかで、恐ろしく艶がある。
 ダニエルが振り返ると、あの男がカウンターに来ていた。

 えっ!?でかいんだけど!
 ダニエルはまず彼の身長の高さと、近くで感じる圧倒的な巨軀きょくに驚いた。

 190cmは余裕で超えている。
 男性の中でも背が高い部類に入るだろう。
 170cmのダニエルより、ふた回りも大きい。
 いつも遠目からだったから、こんなにも身長が高いとは思わなかった。

「さ、サニー!」
 コニーは男に話しかけられ、尻尾を振る忠犬のように反応した。
 嬉しくて堪らないってかんじ。

 男からみても、やはり魅力的な男なのだろう。
 そして思いがけず、彼の名前をゲット。

 サニー……サニーか。
 ギラつく太陽みたいなこの男にはぴったり。

「よぉ、コニー。久ぶりだな」
 男はシャツのポケットから煙草を取り出し、くわえる。
 マッチに火をつける姿がサマになってて、ダニエルもコニーも見惚れた。

「お、俺、最近はいつも此処に来てるんッすよ!でもサニーは色んな奴に囲まれてるから……」
 なるほど、気後れして話しかけられなかったってわけね。

 彼が元々居た卓に視線をやると、敵意剥き出しの女の子達と、野次馬根性丸出しの男達と目が合う。
 男達は皆んな顔が整っており、体格も良く、身形みなりもそこそこ上質。

 なるほど、コニーが嬉しそうな理由がわかった。
 彼はあのイケてるグループのリーダー格で、彼等の仲間に入れて貰えそうだから喜んでいるのだろう。
 旅行者のダニエルは地元のコミュニティなど知らない。
 だが、きっとそんなところね。

「そうか、気づいてやれなくて悪かったな。あっちで一緒にカードしないか?…………キミも一緒に」
 お互いに曖昧に目を合わせなかったが、話しかけられ、視線がかち合った。

 その瞳をみた瞬間、原色の青紫色をしたアイリスの花が浮かんだ。
 真っ直ぐ伸びた茎に咲く、特徴的な花弁はなびら
 中心の黄色い模様が、彼の髪色と重なる。

 確かアイリスの花言葉は”吉報”、”良き便り”。
 それから”恋のメッセージ”。

 雷に撃たれるとか、キューピットの矢が刺さるとか。
 恋に落ちる瞬間をそう表現するけれど、それに近い衝撃があった。
 細胞がざわめき立ち、呼吸がとまる。
 同時に、言葉にできないほどの失望と苛立ちも広がった。


「ディー!行こうぜ?」
「…………やめとく」
 よくわからない感情で激しくドキドキする胸の鼓動を抑え、ダニエルはツンとした表情だけは崩さずに、踵を返した。
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