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【19】休憩 ① ーおかわりしてもいいデスかー

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 胸や腹にかかる白濁から、生臭い卵白っぽい匂いが漂ってくる。
 それを不快にも思わず、ただただダニエルはバスタブの淵に腕をかけ荒い呼吸を繰り返した。

 エクスタシーとでもいうのだろうか。
 深い快楽のくさびが身体中にささり、なかなかおさまらない。
 もうお腹の中には何もないのに、まだジンジンしている。

 サニーも荒く息を吐き出しながら、ダニエルが溺れないよう、しっかり腕を支えてくれた。

 射精後、倒れ込んで一息つきたいのは彼も同じだろう。
 だがダニエルを膝の間に入れ、腰に腕を回し、優しく抱きとめてくれる。

 ダニエルは安心して、その胸の中に身を預けた。


 冷めかけたバスタブの水が、火照った身体には心地良い。
「ディディ、あがろう。このままじゃ二人とも風邪ひきマス」
「…………ん」

 おさまらない身体の火照りと重い疲労感で、ダニエルはサニーの呼びかけに視線だけを返す。

 溺れてもいい、風邪をひいていい。
 だってもう指一本動かせない、声をあげるのも億劫おっくうだ。


「ディー、寝ちゃダメだよ」
 サニーはダニエルのこめかみに一つキスをして、両膝裏に腕を回した。

 そしてお姫様抱っこして、バスタブから出してくれる。
 器用に手の甲でシャワーの蛇口を回し、汗や体液を流してくれた。


 タオルで身体を拭くこともなく、お互い素っ裸で浴室を出る。
 サニーはのしのしとリビングを通りぬけ、ベッドにダニエルを横たえる。

「ディディ、水を飲む?」
 ダニエルは目を瞑ったまま、微かに頷いた。


 サニーは柑橘類が浮いた水を口に含み、口移しでダニエルに飲ませてくれる。
 レモンとオレンジの爽やかな香りがした水が喉を潤し、全身に広がった。

「…もっと」
「かしこまりました、俺のお姫様」

 サニーは何度も口移しで水を飲ませてくれる。
 乾いた大地に降る、恵みの雨のようだ。


 だが困ったことに、飲ませる度に彼の掌がダニエルの肌の上をすべる。
 頭を撫ぜ、髪を梳き、手の甲で頬をスリスリし、鎖骨から鳩尾を通って、好きだと言った腹の縦筋を摩る。
 それだけで、植え付けられた欲望の炎が再燃してしまう。

「サニー、くすぐったい……」
 薄く目を開くと、サニーはベッドサイドに腰掛け、ダニエルを見下ろしていた。

 影を帯びた男の艶っぽさに、未だ注がれ続けてる色欲の眼差しに、ダニエルの肌はカッと熱を帯びる。


 サニーは身を屈め、ダニエルの睫毛にキスを落とした。
「ディディ、睫毛も綺麗だね。長くてクルンとカールしてる」

 指先だけで頬を撫でられ、くすぐったくも気持ちがい。
 顎先をくすぐられ、ダニエルはうっとりと目を細めた。
 喉を鳴らす猫になった気分。
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