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【29】母と弟 ① ー諦めの境地ー

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 翌日、ダニエルは床屋へ行きコーンロウの編み込みをほどいてもらった。

 ダニエルの髪は多毛剛毛おまけに天然パーマくるんくるんで、いつだって箒みたいになる。
 今回は数週間編み込んでいたので、いつにも増して大爆発だ。

「す、すごいね」
 ボリューム満点の頭を前に、床屋のおじさんは苦笑い。

「いつものでお願いします」
 ダニエルのオーダーに店主は、慣れた手つきで爆発した髪をポニーテールにした。
 オイルをまぶしたくしで頭髪を整えれば、いつもの髪型ポニーテールの完成。



 その足でダニエルは母と弟と待ち合わせのホテルへ向かった。
 借金しているくせに、高級ホテルのレストランで待ち合わせするあたりが、見栄っ張りな母らしい。

 レストランに入ると、二人のテーブルには既にアフタヌーンティーセットが並んでいた。

 三段のケーキスタンドが五つ。
 サンドイッチ、スープにアミューズ、ケーキ、スコーン、果物、チョコレート、マカロン。
 女性好みの甘い食べ物ばかりだこと。

 優雅にすする紅茶はきっと最高級ランクの品ね。
 ここの支払いもダニエルに任せる気なのだろう。


「姉上!」
 ダニエルに気づいたポーラが手を挙げる。


 自分と同じターコイズグリーンの瞳を持つ弟。
 自分と同じミルクティー色の髪。
 自分よりましな天然パーマはフワフワで、以前アリが”庇護欲そそられる”と評していたのを思い出す。

 母譲りの美貌と適度なベビーフェイスは二十歳を過ぎた今でも残っており、巷では”美少年”と持て囃されている。

 ポーラは金の無心をすることに負い目があるのか、渋い表情のダニエルに申し訳なさそうに視線をそらした。

 だが機嫌をとっておかなければいけないことに気づき、慌てて立ち上がり、ウェイターを押しのけてまで椅子を引いてくれた。
 こんなことで絆されたりしないけど、ありがたく座らせてもらう。


 席に着くと、向かいの席の母は開口一番、「あら、ダニエル。そのみっともない頭はなんなの」と言った。

 軍に勤めている娘、しかも半年ぶりの再会なのに、「久しぶり」でも「仕事は大丈夫?」でもなく、小言なのが憂鬱だ。

「相変わらず、逆さにしたブロッコリーみたいな頭しているのね」
「姉上、久しぶりですね。軍の仕事は大丈夫?宮殿配属になったと聞いていたけど……」
「そうよ、貴女。せっかく真っ赤な騎士服を見れると思ったのに、それなの」

 ダニエルが着ているのは、陸軍用の一般的な軍服である。

「二人ともお久しぶりです。元気そうで何よりです」
「そんなことより、次会うときは騎士服を着て来てちょうだい。その軍服は野暮ったくてダメよ」
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