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【55】余韻 ① ー走り出したら止まらないー

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 ダニエルは苦しげに喉を上下させた。
 息苦しくてサニーの膝の上に倒れこむと、彼は優しく抱きとめてくれる。
 はぁはぁと路地裏に二人の淫靡いんびな息づかいがこだました。

「お姫様、ちょっと失礼しますネ」

 息を整えたサニーはハンカチを取り出し、スカートをベロンとまくる。
 これじゃあ、お尻が丸出しである。

 ここで二戦目は無理、本当にイヤだ。
 もう少しゆっくりできる場所で抱かれたい。
 ダニエルは眉間に皺を寄せて呻いた。

「んふふ、わかってマス。綺麗にするだけダヨ」

 サニーは表情だけでダニエルの思惑を読み取り、にこやかに笑顔を浮かべる。
 そしてお尻のほうからダニエルの女性器を拭った。

 そんな場所を男性に拭いてもらうなんて恥ずかしい。
 でも乱れた呼吸を整えるのに精一杯で、気にしてる余裕はない。
 水、水が飲みたい……。


 情交の余韻に浸るダニエルに、サニーは小さな包みを取り出した。
 そして「あーん」と黄色い玉を、口元へ押し付けてくる。

檸檬レモンの飴玉だよ、スッキリします」

 今は飴玉よりも水が欲しいのだけれど。
 しかしダニエルは促されるままその飴を口に含んだ。

 唾液を集めて飴を啜ると、口の中に檸檬の酸味と甘みが広がる。
 確かに気分はすこしスッキリした。

 が、それもほんの僅かな間で、飴が小さくなる頃には強烈な睡魔が襲ってきた。

 奇妙だ、と頭の中で警鐘が鳴る。
 こんな場所で突然、眠くなるなんて。

 サニーは甘いマスクでダニエルを見下ろし、瞼にチュッとキスをした。
 そして「おやすみ、ダニエル。また……」と笑ったのだ。

 男の蕩けるような笑顔が、ぐにゃりと歪む。
 しまった!あの飴に睡眠薬が……。

 悟った時には、後の祭り。
 ダニエルの意識は眠りの森へと沈んでいた。


 サニーはダニエルが眠るのを見届け、再び後片付けを始める。
 余韻に浸りたいのはヤマヤマだが、今は時間が惜しい。

 彼女を横抱きにして、下腹やドレスに流れ落ちた愛液を拭う。
 そしてハンカチをポケットに突っ込み、お姫様抱っこで持ち上げた。

 路地裏から大通りへ出ると、ユージンが待ち構えている。
 サニーに気づいた彼は馬車の扉を開き、頭を下げて主人を出迎えた。

「きゃっ!」
「わ、かっこいい……」
「残念、女連れよ」

 それまでユージンに見惚れていた道行く人々が、突然現れたサニーにギョッと驚き、だだ漏れの色気に足を止め、感嘆の溜息を漏らした。
 そしてついでのようにダニエルにも目をやり、下卑げびた顔を浮かべる。

 セックス直後だと思われているのだろう、間違ってないけどな!
 ヤリ殺したと思われたかも、今夜はしてないから!!

 サニーは不機嫌を隠し、颯爽さっそうと馬車に乗り込んだ。


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