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【65】結局 ① ー首の皮一枚で、繋がった?ー

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 ボォォォォォォォォォォーーと汽笛が豪快に鳴り渡り、真っ黒な煙を空に吐き出す。
 魂を刺激する甲高い音に、ダニエルはついつい作業の手を止め、走り出す蒸気機関車に見惚れた。

 澄み渡った秋空の下、敷かれたレールを進んでいく黒い車体は何処へ辿り着くんだろう。
 ちょっぴり不安で、でもワクワクする冒険が待っているような気がした。


「……っ!!!」

 勢いよく客室の扉がスライドし、新しく臨時上司となったハルボーン中佐がチェックにやってくる。

「なにサボってるんだ、マッキニー准尉!早く点検を終わらせろ」
「はい!申し訳ありません!!」

 ハルボーン中佐のゲキは淡々としてて、ちょっと怖い。
 ダニエルは慌てて手を動かした。


 一等客室、しかも王族が使用する部屋ともなれば、それなりの広さになる。

 この車両の客室だけとびきり豪奢ごうしゃで、光沢ある木材が汽車の丸みを帯びた天井へ向かってアーチを描き、シャンデリアがぶら下がる。
 赤いダマスク柄の座席に床にはペルシャ絨毯が敷き詰められ、片面は折り畳み式の二段ベッドとなっていた。

 ダニエルは座席の下からハシゴを取り出し、二段ベッドの上段にかけた。
 網棚収納はさらにその上にあるからだ。

「絨毯の下は確認したか?」
「ま、まだです!」
「マッキニー准尉、貴様は近衛隊で何をしていた!宮殿でも、確認しろと言っただろう」

 そういえば……言われました、掃除のバイト中に。
 絨毯の下からシャンデリアの上まで隈なく点検しろと、指示を受けたんだった。
 三歩あるけば忘れる、己の鳥頭が憎い。

「こっちはまだですか。手伝いますよ」

 新しく相棒、且つ先輩、且つ目付役になった赤毛のデキる男エド・ワトソン少尉が隣の車両を点検し終えて、此方を手伝いにきた。

「親衛隊はスピード命だ。宮殿警護と違ってのんびりできないから、覚悟しておけ」
「はいっ!!」

 ハルボーン中佐の小言は地味にボディーにくる。
 つくづく今までは甘やかされていたんだと自覚した。


 ーー結局、ダニエルは近衛隊をクビにはならなかった。
 だが宮殿警護からは外され、今は首都セーラスから西へ向かう蒸気機関車に乗っている。





「そうねぇ……ではダニエル・マッキニー准尉には近衛隊として王子の護衛任務を命じましょう」

 あの日、決死の覚悟で土下座したダニエルに、女王陛下はそう仰った。

 サニーはダニエルの反応と陛下の決定に目をパチクリさせたが、「フラれちゃったかぁ」と苦い笑いをこぼす。
 そんな息子を女王がフォローした。

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