44 / 160
【44】五年前① 〜思春期に〜
しおりを挟む
「五年前という時期に、何かこころあたりは?」
ハルボーン中佐に訊ねれ、ダニエルは少し考えこむ。
「その時分に帰省しましたが、特段なにも……」
サニーとユージンの目が光る。
「どうして帰省したんですか?マッキニー准尉は十年前、軍に入隊後、ご家族とは疎遠だったんですよね?」
「えぇ。ポーラが首都セーラスの寄宿舎にはいることになったので、迎えに行ったんです。ちょうど近衛隊に配属されたばかりだったし、その報告も兼ねて」
「迎えに?当時、ど田舎のマッキニー領には蒸気機関車が走っておらず、街まで出るには馬車での移動だった。だとしても十五歳の少年が姉に迎えにきてもらうのは少々過保護すぎる気がするんですが」
「当時、弟は不安定だったんです。失恋したって言ってました……食事も喉を通らないほどで、急に暴れたり自暴自棄になってお酒に逃げることもありました。寄宿舎への入校も、荒れた生活を立て直すためだと聞いてます」
「思春期にはありがちなことですね」
ユージンの言葉にダニエルは頷いた。
子どもと大人の狭間、多感な時期。
親の支配から抜けたくてもがき苦しんだ覚えは、ダニエルにもある。
「そこから女遊びが始まったんダネ」
「せっかく入ったのに、寄宿舎で覚えたのはタバコと博打、女遊び。あれじゃあなんのために行ったんだか……」
「貴族の坊々としては実に健全な学生生活だ」
サニーの言葉に、ダニエルとユージンは呆れる。
その視線を感じて彼は「俺は学業に励んでいたけど~」などと冗談にもならないことを言う。
無視してユージンが「それで……ご両親や妹さんに変化はありませんでしたか?城内の様子は?」と訊ねた。
「母は特に…父は飲酒量が増えたと。城内の使用人達は半数ほど入れ替わってました。あと妹は久しぶりに帰省したら、冷たくなってましたね。家を出た時は”行かないで”って泣いてくれたんですけどね。それを振り切って家を出たから、たぶん捨てられたと思ったんでしょう。入隊後も実家を避け幼い妹を省みなかったので、嫌われるのは当たり前ですけど」
「それなら近衛隊配属の報告も、家族は喜ばなかったんじゃないか?」
「えぇ、まぁ……」
そんな野蛮な仕事より、金持ちの家に嫁ぎなさい。
今なら貰い手があるけど、数年後には行き遅れよ。
母は顔を見ればそればかりだった。
表情を暗くするダニエルにサニーは彼女が何を言われたのか察した。
困窮した貴族が真っ先に売るもの、それは娘だ。
豊満な肉体を持つ彼女なら、援助を申し出るスケベな年寄りは沢山いるだろう。
彼女が軍に入ったのは、サニーにとっては良かったかもしれない。
ハルボーン中佐に訊ねれ、ダニエルは少し考えこむ。
「その時分に帰省しましたが、特段なにも……」
サニーとユージンの目が光る。
「どうして帰省したんですか?マッキニー准尉は十年前、軍に入隊後、ご家族とは疎遠だったんですよね?」
「えぇ。ポーラが首都セーラスの寄宿舎にはいることになったので、迎えに行ったんです。ちょうど近衛隊に配属されたばかりだったし、その報告も兼ねて」
「迎えに?当時、ど田舎のマッキニー領には蒸気機関車が走っておらず、街まで出るには馬車での移動だった。だとしても十五歳の少年が姉に迎えにきてもらうのは少々過保護すぎる気がするんですが」
「当時、弟は不安定だったんです。失恋したって言ってました……食事も喉を通らないほどで、急に暴れたり自暴自棄になってお酒に逃げることもありました。寄宿舎への入校も、荒れた生活を立て直すためだと聞いてます」
「思春期にはありがちなことですね」
ユージンの言葉にダニエルは頷いた。
子どもと大人の狭間、多感な時期。
親の支配から抜けたくてもがき苦しんだ覚えは、ダニエルにもある。
「そこから女遊びが始まったんダネ」
「せっかく入ったのに、寄宿舎で覚えたのはタバコと博打、女遊び。あれじゃあなんのために行ったんだか……」
「貴族の坊々としては実に健全な学生生活だ」
サニーの言葉に、ダニエルとユージンは呆れる。
その視線を感じて彼は「俺は学業に励んでいたけど~」などと冗談にもならないことを言う。
無視してユージンが「それで……ご両親や妹さんに変化はありませんでしたか?城内の様子は?」と訊ねた。
「母は特に…父は飲酒量が増えたと。城内の使用人達は半数ほど入れ替わってました。あと妹は久しぶりに帰省したら、冷たくなってましたね。家を出た時は”行かないで”って泣いてくれたんですけどね。それを振り切って家を出たから、たぶん捨てられたと思ったんでしょう。入隊後も実家を避け幼い妹を省みなかったので、嫌われるのは当たり前ですけど」
「それなら近衛隊配属の報告も、家族は喜ばなかったんじゃないか?」
「えぇ、まぁ……」
そんな野蛮な仕事より、金持ちの家に嫁ぎなさい。
今なら貰い手があるけど、数年後には行き遅れよ。
母は顔を見ればそればかりだった。
表情を暗くするダニエルにサニーは彼女が何を言われたのか察した。
困窮した貴族が真っ先に売るもの、それは娘だ。
豊満な肉体を持つ彼女なら、援助を申し出るスケベな年寄りは沢山いるだろう。
彼女が軍に入ったのは、サニーにとっては良かったかもしれない。
10
あなたにおすすめの小説
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。
それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。
14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。
皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。
この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。
※Hシーンは終盤しかありません。
※この話は4部作で予定しています。
【私が欲しいのはこの皇子】
【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】
【放浪の花嫁】
本編は99話迄です。
番外編1話アリ。
※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる