夢幻の花

喧騒の花婿

文字の大きさ
16 / 42
FILE2『嘘で塗られた自分の体』

6・亜紀ちゃんと倶楽部

しおりを挟む
「ところで柏木。あの転校生と仲良いみたいだけど、どう?」


「どうって?」


 亜紀ちゃんが小声になって柏木くんの前の席に座った。大谷くんは、自分の席に座って空を眺めていた。



 何を考えているのだろうか。今後の逃亡先のことだろうか。大谷くんは、悪い人なのだろうか。でも、悪い人がハンカチを貸してくれたり、人を元気付けたりしてくれるのだろうか。



「だから、転入早々佐久間とけんかしたり、ちょっと怖い感じがするじゃない。背高くて、大人っぽいし、冷たい感じもするし。都会の人はみんなああなのかな」


「いい奴だよ。猪俣もしゃべってみればいい」


 穏やかに笑いながら言う柏木くんは、多分大谷くんのママが『逃亡犯』だということを聞いていないのだろう。



「やーよ。怖い人だったらどうするのよ」


「それを判断するために会話をするんじゃないか」


 亜紀ちゃんは髪をいじりながら柏木くんを睨み付けて「却下!」と短く言っただけだった。


「それより愛美、金曜日って倶楽部の日じゃない。そんな体調で、出られるの?」


「あ」


 倶楽部のことを忘れていた。塾だけだから何とか大丈夫だと思っていたけれど、今日の倶楽部は帰らせてもらおうかと考えてしまった。


「まあ、でも今日は顧問の田中先生いないし、うちらだけで働く人訪問をするだけだから、一時間くらいで終わると思うけど」


「今日の働く人は、誰なの?」


 夏休み前にやった働く人訪問は、お菓子工場の工場長だった。個人経営のお店で、裏に小さな工場があり、そこで取材をした。


 五十代くらいのおじさんで、取材をしているときも煙草を吸っていたのを思い出して、衛生的ではないと判断し、私はそのお店のお菓子はもう買わないことにしていた。



「今日は小説家だって。この町にも、そんな有名人がいたんだね」


「小説家? すごい、何ていう名前なの? どういう作品を書いているの?」


「さあ? あたし国語の教科書と携帯小説くらいしか読まないし、知らない」


 亜紀ちゃんは興味無さそうにしていたけれど、私は少し楽しみになった。お腹の調子も良くなってきたような気がした。



 新聞倶楽部は、放課後の五年三組が部室となって活動をする。毎月一回会報を出して、全教室に配ることが主な活動だ。


 五年生が六人、六年生が四人の、計十名で新聞倶楽部は成り立っていた。私と亜紀ちゃんで『我が町の働く人』というコーナーを担当していて、一ヶ月に何度か取材をしに行く。今回は、学校にその小説家が来てくれるそうだ。



 小説家と言っても、あまり有名ではないようで、『文藝カルラ』という小説誌に一本だけ連載を持っている推理作家だった。


6.続く
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

痩せたがりの姫言(ひめごと)

エフ=宝泉薫
青春
ヒロインは痩せ姫。 姫自身、あるいは周囲の人たちが密かな本音をつぶやきます。 だから「姫言」と書いてひめごと。 別サイト(カクヨム)で書いている「隠し部屋のシルフィーたち」もテイストが似ているので、混ぜることにしました。 語り手も、語られる対象も、作品ごとに異なります。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

処理中です...