18 / 41
FILE2『嘘で塗られた自分の体』
8・嫌いじゃないから!
しおりを挟む
高田さんはすでに遠くへ行っていた。早足の彼女は、背筋もピンと伸ばして姿勢良く歩いている。歩く度にサラリと黒髪がなびいてとても綺麗に見えた。
「高田さん、待って!」
「……何? もう要件は伝えたけれど」
ふいに振り返った高田さんの表情は冷たく、口はへの字に曲がっていた。怖いけれど、きちんと言わなければ、高田さんだって嫌な思いのままになってしまう。私は勇気を振り絞って声を出した。
「あの、さっき亜紀ちゃんが言っていたことだけど……私、違うから。高田さんのこと、嫌いじゃないから!」
決意したことを言ったので、少し大きな声になってしまった。私の声は廊下に響き渡り、たまたま歩いていた下級生たちに驚かれてしまった。
高田さんは私を見て深くため息をついた。
「別に私は気にしていないわ。わざわざそれを言いにきたの?」
「え、う、うん。高田さんに嫌な思いをさせちゃったから……」
私は彼女の顔を正面から見られなくて、うつむいていた。少し怖いけれど、嫌いじゃない。それだけは、高田さんに誤解させてはならない。人に嫌われていると分かっただけで、自分を出せなくなってしまう人もいるから。
「猪俣さんを振り切って私の元に来てしまったら、猪俣さんが良い気はしないでしょう。そういうのを考えて行動しなさい。私とは特に仲が良いわけではないんだから、一番の友達のことを考えてあげなさい」
いつまでも冷たい目で見られているような気がして、私は恐る恐る顔を上げてみた。高田さんは思いの外穏やかな表情をしていた。
「亜紀ちゃんは一番の友達だけど、高田さんだって私の友達だもの」
「……馬鹿ね。そういうの、八方美人って言うのよ」
「ふふ、美人になれるなら、それでもいいや」
高田さんは、また小さく「馬鹿ね」と呟いて笑った。八方美人って悪いことなのかな。皆と仲良くしたら、何か悪いのかな。私にはわからない。
「良かったわね、修学旅行費が見つかって」
「ありがとう。まさか、新聞倶楽部の会報の裏に貼ってあるなんて、思わなかった。佐久間くんが見つけてくれなかったら、またママにもらわなくちゃならなかったから」
高田さんは少し眉を潜めてから苦笑いをした。
「あれは佐久間じゃ……」
「え? 何、高田さん?」
「いえ、何でもない。とにかく、見つかって良かったわね」
高田さんは少し悪戯っぽく笑うと、私に手を振ってその場を後にした。その後ろ姿は、まるで羽根が生えていて、ふわりとどこかへ飛んで行きそうなくらい、私には機嫌良く見えた。
8.続く
「高田さん、待って!」
「……何? もう要件は伝えたけれど」
ふいに振り返った高田さんの表情は冷たく、口はへの字に曲がっていた。怖いけれど、きちんと言わなければ、高田さんだって嫌な思いのままになってしまう。私は勇気を振り絞って声を出した。
「あの、さっき亜紀ちゃんが言っていたことだけど……私、違うから。高田さんのこと、嫌いじゃないから!」
決意したことを言ったので、少し大きな声になってしまった。私の声は廊下に響き渡り、たまたま歩いていた下級生たちに驚かれてしまった。
高田さんは私を見て深くため息をついた。
「別に私は気にしていないわ。わざわざそれを言いにきたの?」
「え、う、うん。高田さんに嫌な思いをさせちゃったから……」
私は彼女の顔を正面から見られなくて、うつむいていた。少し怖いけれど、嫌いじゃない。それだけは、高田さんに誤解させてはならない。人に嫌われていると分かっただけで、自分を出せなくなってしまう人もいるから。
「猪俣さんを振り切って私の元に来てしまったら、猪俣さんが良い気はしないでしょう。そういうのを考えて行動しなさい。私とは特に仲が良いわけではないんだから、一番の友達のことを考えてあげなさい」
いつまでも冷たい目で見られているような気がして、私は恐る恐る顔を上げてみた。高田さんは思いの外穏やかな表情をしていた。
「亜紀ちゃんは一番の友達だけど、高田さんだって私の友達だもの」
「……馬鹿ね。そういうの、八方美人って言うのよ」
「ふふ、美人になれるなら、それでもいいや」
高田さんは、また小さく「馬鹿ね」と呟いて笑った。八方美人って悪いことなのかな。皆と仲良くしたら、何か悪いのかな。私にはわからない。
「良かったわね、修学旅行費が見つかって」
「ありがとう。まさか、新聞倶楽部の会報の裏に貼ってあるなんて、思わなかった。佐久間くんが見つけてくれなかったら、またママにもらわなくちゃならなかったから」
高田さんは少し眉を潜めてから苦笑いをした。
「あれは佐久間じゃ……」
「え? 何、高田さん?」
「いえ、何でもない。とにかく、見つかって良かったわね」
高田さんは少し悪戯っぽく笑うと、私に手を振ってその場を後にした。その後ろ姿は、まるで羽根が生えていて、ふわりとどこかへ飛んで行きそうなくらい、私には機嫌良く見えた。
8.続く
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
0
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる