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FILE3『無自覚と功罪』
3・密約
しおりを挟むだが、言われてみれば確かに犯人が気にかかる。ぼくは考え込んで頷いた。
「確かに犯人が気になるな」
「そうだろう? さすが大谷くん、話がわかる」
嬉しそうに身を乗り出した仙石に対して、司は椅子に深く腰掛け直して腕を組んだ。
「俺は反対。山岡がいいと言っているのに、外野が穿り返して、引っ掻き回すのはおかしいよ。山岡に迷惑がかかると思う」
司が冷静な声で言ったが、表情は仙石に対して困惑しているような感じだった。
「迷惑? どうしてだ。悪いことをした者はそれなりの罰を受けるのが筋だろう?」
心底不思議そうな顔をして、仙石は首を傾げながら司に聞いていた。
「ハルカは……たくみもかな。正義感が強すぎる。突っ走って後悔するのがオチなんだから、もう少し思慮した方がいい。せめて中ちゃん先生に相談してからにしよう」
「なかちゃんせんせい?」
間抜けな声を出してしまったが、司は笑いながら教えてくれた。
「中川 泰仁先生。ほら、保健医の」
「ああ、あのキノコ頭の先生か」
佐久間とけんかをして頭をぶつけたとき、しきりに病院へ行けと勧めてきた先生だ。髪の毛にボリュームがあって、顔が小さく見えた気がする。
「中ちゃん先生は探偵倶楽部の顧問なのだよ。保険医だから、ほとんどこの部室にくることはないのだがね。彼は運動倶楽部の相手で忙しいのさ」
仙石が教えてくれた。結局ぼくと仙石の意見と、司の意見が平行線だったので、今日は帰ることにした。そして金曜日、中川先生に相談することになった。
解散になり、司がトイレに行っている間、仙石がぼくに近寄ってきた。
「大谷くん、司はあの通りの優等生だ。犯人を捜すことを、モラル的な意味で最後まで反対すると思う。そこで、司に秘密で我々だけで犯人を特定してみないか。もちろん、制裁などは考えていない。けれど、山岡さんに迷惑をかけたことを、反省させ謝らせても良いだろうと私は思っている」
仙石の言葉に、ぼくは頷いた。
「賛成。そうしないと次もその犯人は何かしらの悪戯をするかもしれない。次の悪戯を阻止するという点でも、おれは犯人を特定しても良いと思う」
「司がああ言った以上、説得するのは難しい。あいつこそ一度言いだしたら絶対に意見は変えないんだ。だから、私たちだけで……」
似た者同士なのだろう。ぼくは頷いた。司がトイレから帰ってくる間に、決めなくてはならない。
「司には言わず、こっそりと犯人捜しをしよう。君の意見は何かあるかい?」
「……わかっていることは、新聞倶楽部の会報の裏に、画鋲で丁寧に修学旅行費が留めてあったということだけ。面白半分の悪戯にしては悪質だよ。ねちねちとしているから、恐らく、怨恨ではないかとおれは思ってる。明日から注意して山岡の周辺を見ているよ。おれが見た限り、山岡は一部の女子から変なやっかみを買っているから」
仙石は少し驚いたように目を丸くし、「怨恨なんて言葉、良く知っているね」と呟いた。
「司にはばれないように調査を頼む。あれはああ見えて、結構鋭いんだ。大谷くんが調べていることを勘づくかもしれない」
「わかった。注意するよ」
司に隠し事をするのは少し気が引けたが、いじめだとしたら気分が悪い。ぼくと仙石は、ひっそりと調査をする密約を交わした。
3・続く
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