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第1章★敵国潜入★
第5話☆シンメトリー☆
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「おい、コウキが挨拶してんぞ。会場の外でやれ」
「ワタル様あ」
ルージュが慌ててワタルを見ると、甘えたような猫なで声を出した。ワタルと菫は思わず同時に眉を潜めて同じような表情をした。
「この下女が私をいじめるの。赤騎士団長の妹である私を。こんな何もない下女が。何か言って下さい、ワタル様」
ワタルの腕にしなだれかかり、瞳を潤ませて見上げるルージュを、ワタルは嫌そうに腕を払いのけようとしたが、それは叶わなかった。
「お前、何いじめたんだよ?」
ため息交じりにワタルは菫を睨んで言った。
「いじめてないですよ。女中のわたしがこのパーティーにいることがおかしいそうです」
じっとワタルの目をみて菫が言った。ルージュが穴が開きそうなくらい菫を睨み付けている。ワタルは何となくそれで察したのか、肩を竦めた。
「くだらねー。権力に囚われていないコウキの方がまだましだな」
ポツリと呟いたワタルの声は、菫には届いたがルージュには届かなかった。
「おれは天倭戦争の後、騎士団に入団して団長になったポッと出の庶民ですよ。今じゃこんななりだが、元は貧民街で育ったようなろくでなしです。おれのような貧乏人に媚びていていいんですか? 格式高い代々赤騎士団長の家系様が?」
「わ、ワタル様! ワタル様は実力で白騎士団長の座を勝ち取ったのですわ。これから格式ある令嬢と結婚なさって、家柄を上げれば良いのです。例えば、私みたいな……」
ルージュは慌ててワタルを見上げると、甘えながら腕に絡みついた。
菫はその様子を見てついクスッと笑う。
「良かったですね、素敵な結婚相手が見つかって」
からかうような菫の口調に、ワタルは菫を思わずにらみつけ(ばーか)と声に出さず呟いた。
「身分違いですよ、ルージュ様。リョウマもあなたも、代々騎士の家系、しかも代々貴族でしょう? おれは元庶民ですからね。それに……」
甘い声で抑揚を付け嗜めるワタルを、ルージュは残念そうに見上げる。
「さっきからおれに引っ付いていていいの? 姫様に見られたら大変ですよ」
最後は甘く囁くようにルージュの耳元で呟くワタルに、ルージュは頬を染めてくすぐったそうに身を攀じった。
「今日姫様はパーティーに参加してないから、大丈夫よ。今宵はあなたを独占させて頂戴、ワタル様」
姫様、というのは天界国王の娘だろうか。
話を聞くに、姫様もワタルのことを慕っているのかもしれない。
(性格はともかく、顔だけならわからなくもないか……)
菫はワタルを横目で見て心で呟く。
天倭戦争当時、白騎士団長はかなり強い騎士だったと記憶している。彼は菫を攫おうと狙ってきたが、菫が総括していた直属の部下、隠密部隊が手をかけ返り討ちにした。
その後釜がワタルなのだろう。
天倭戦争のときは騎士団ですらないワタルに用はなかった。
貧民街出の者さえも騎士団になれたとは、当時の戦争の打撃を物語っていた。
天倭戦争では天界国もかなりの痛手を負った。騎士団も壊滅状態だったため、白騎士団を一般公募で集めたことは大きな話題になっていたので知っていた。
菫は二人の会話を聞きながら情報を整理していた。
☆続く☆
「ワタル様あ」
ルージュが慌ててワタルを見ると、甘えたような猫なで声を出した。ワタルと菫は思わず同時に眉を潜めて同じような表情をした。
「この下女が私をいじめるの。赤騎士団長の妹である私を。こんな何もない下女が。何か言って下さい、ワタル様」
ワタルの腕にしなだれかかり、瞳を潤ませて見上げるルージュを、ワタルは嫌そうに腕を払いのけようとしたが、それは叶わなかった。
「お前、何いじめたんだよ?」
ため息交じりにワタルは菫を睨んで言った。
「いじめてないですよ。女中のわたしがこのパーティーにいることがおかしいそうです」
じっとワタルの目をみて菫が言った。ルージュが穴が開きそうなくらい菫を睨み付けている。ワタルは何となくそれで察したのか、肩を竦めた。
「くだらねー。権力に囚われていないコウキの方がまだましだな」
ポツリと呟いたワタルの声は、菫には届いたがルージュには届かなかった。
「おれは天倭戦争の後、騎士団に入団して団長になったポッと出の庶民ですよ。今じゃこんななりだが、元は貧民街で育ったようなろくでなしです。おれのような貧乏人に媚びていていいんですか? 格式高い代々赤騎士団長の家系様が?」
「わ、ワタル様! ワタル様は実力で白騎士団長の座を勝ち取ったのですわ。これから格式ある令嬢と結婚なさって、家柄を上げれば良いのです。例えば、私みたいな……」
ルージュは慌ててワタルを見上げると、甘えながら腕に絡みついた。
菫はその様子を見てついクスッと笑う。
「良かったですね、素敵な結婚相手が見つかって」
からかうような菫の口調に、ワタルは菫を思わずにらみつけ(ばーか)と声に出さず呟いた。
「身分違いですよ、ルージュ様。リョウマもあなたも、代々騎士の家系、しかも代々貴族でしょう? おれは元庶民ですからね。それに……」
甘い声で抑揚を付け嗜めるワタルを、ルージュは残念そうに見上げる。
「さっきからおれに引っ付いていていいの? 姫様に見られたら大変ですよ」
最後は甘く囁くようにルージュの耳元で呟くワタルに、ルージュは頬を染めてくすぐったそうに身を攀じった。
「今日姫様はパーティーに参加してないから、大丈夫よ。今宵はあなたを独占させて頂戴、ワタル様」
姫様、というのは天界国王の娘だろうか。
話を聞くに、姫様もワタルのことを慕っているのかもしれない。
(性格はともかく、顔だけならわからなくもないか……)
菫はワタルを横目で見て心で呟く。
天倭戦争当時、白騎士団長はかなり強い騎士だったと記憶している。彼は菫を攫おうと狙ってきたが、菫が総括していた直属の部下、隠密部隊が手をかけ返り討ちにした。
その後釜がワタルなのだろう。
天倭戦争のときは騎士団ですらないワタルに用はなかった。
貧民街出の者さえも騎士団になれたとは、当時の戦争の打撃を物語っていた。
天倭戦争では天界国もかなりの痛手を負った。騎士団も壊滅状態だったため、白騎士団を一般公募で集めたことは大きな話題になっていたので知っていた。
菫は二人の会話を聞きながら情報を整理していた。
☆続く☆
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