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第6章★赤騎士団長・炎のリョウマ★

第9話☆謹慎☆

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 天界国に戻り、半月くらい経つとパーティーの準備が行われていた。


 菫が女中仲間に聞いてみると、『邪神国内部の邪教を崩壊させた』記念パーティーだという。


 天界国は邪神国と同盟関係を結んでいるが、元々倭国を攻めるときに大人しくしておいて欲しい天界国側からの同盟申し入れだった。


 それまで天界国と邪神国は領土問題で冷戦状態にあり、元々それほど国交は積極的にしていなかった。


 でも、今は同盟関係のため、邪神国の要人も国賓として招くことになった。




「よう、菫。今回のパーティー、月読教崩壊を喜んでいるようで、不謹慎だよなぁ」


 城の窓の縁に座り、菫が掃除しているのを見ながら亘が言った。


「そうですね……月読教は御剣様たちが謀る前はきちんとした宗教法人でしたから、以前からの信者は納得できませんよね……」


 菫がゼンタを思い浮かべながらベッドメイキングをしていると、亘が部屋の中に軽々と入ってきてベッドに座った。


「ちょっと白騎士様、邪魔しないでよ」


「お前今回のパーティー、コウキに誘われてんの?」


 菫はきょとんとしながら掃除の手を止めた。


「誘われてないですけど」


「いいなあ。おれは今回もパーティー出席だよ」


 亘のため息を聞いて、菫は苦笑した。


「大変ね。わたしは仕事終わらせて早くベッドに入りたいの」


 菫が言った瞬間、亘は「ふーん」と呟いてニヤニヤしながら菫を見た。


「カルラは出席しねーもんな」


「……知ってますよ」


 口を尖らせた菫が呟く。


 カルラは天界国に帰還後、天満納言に挨拶したらすぐに死の監獄へと帰ってしまった。


 記憶操作の解毒薬を即効性のあるものにしたいと研究を続け、さらに目玉がたくさんついた元魔人、人体実験に失敗した者を元に戻せるよう、海野と秘密裏に連携して研究を進めるとのことで、忙しそうにしている。


「……おれもサボろうかな、パーティー」


「白騎士様が出席しなかったら、カボシ姫や貴族令嬢が泣いちゃいますよ」


 深いため息をついた亘を、菫は心配そうに覗き込んだ。


「そんなにお誘いがすごいの?」


「普通に誘われるなら良いけど、キャーキャーされるとうんざりする」


 ファンクラブがあるくらいだから、騒がれるのが嫌いな亘からしたら苦痛だろう。


 そういえば昔から亘は女性に人気があった。


 甘いマスクに甘い声、立っているだけならスラリとした色男に見えなくもない。


「いっそ、髪、剃れば?」


「もうとっくにやった。違う種類の女が追いかけてくるようになった」


「確かに、パーティーで注目されるのは嫌ですね。隅でジッとしていたい」


「昔からそうだよな、お前って。部屋にこもって本読んでるのが1番落ち着くって言ってるもんな」


「うん……最近はリョウマ様が薦めて下さる人界の本が面白くて読んでいます」


 リョウマ、という言葉に反応したのか、亘は眉をひそめて嫌そうな顔をした。


「あいつとは仲良くするんじゃねーよ。父さんを殺した男だぞ」


 菫はそれを聞いて神妙な面持ちで亘を見る。


「ごめん、亘。わたしそこは亘と意見が違うの」


「……そうかよ」


 亘は言っても仕方ない、と諦めたように肩をすくめてため息をついた。


「そうだ、今日のお昼休み、そのリョウマ様にランチ誘われているんだ」


 菫が思い出したように言うと、亘は少し眉を潜めてから口を開いた。


「早速仲良くしてんじゃねーか」


「リョウマ様、謹慎期間が長くて退屈なんですよ」


 亘はその言葉を聞いて意外そうに目を丸くした。


「そういえばあいつ、実家から勘当されて貴族の称号剥奪されたんだろ? 騎士団は辞めなくて良かったのか?」


「うん。まあ重要参考人のアコヤ様が表向き死亡しましたし、死別の形で邪神国と折り合いを付けたそうです。ご実家とは勘当されたことで逆に罪人である双頭院との癒着疑惑が晴れています」


「ふーん。ま、良かったな。おれはヒサメでも誘ってみるか。じゃあな。リョウマに喰われるんじゃねーぜ」


「はいはい」


 再び開いた窓からヒョイと飛び出した亘は、器用にジャンプして地上へと軽やかに降りた。


「ここ6階ですよ……」


 身軽な亘を見て、昔イタズラをして逃げ出す亘の面影を感じ、懐かしく思った。





 お昼休憩になり、菫は天界国城下町へと足を運び、リョウマと待ち合わせたレストランへ向かう。


「菫、こっちだ」


 店内に入った瞬間に声が響き、リョウマが私服で手を上げているのが見えた。


「リョウマ様、おまたせ」


「昼休憩の短い時間ですが、あなたに会えて嬉しいです」


 かしこまって礼をするリョウマに、菫は苦笑しながら対面に座った。


「わたしも嬉しいです。体の具合はどうですか?」


「もう傷も消えかけています。切られた頬の傷よりも、繋がれていた手足の方がつらいです。強引に引きちぎろうとしたから、捻ったみたいです」


 短髪になったリョウマの髪と、ラフな私服がとても似合っていた。


 長髪の近寄りがたかった雰囲気よりも身近に感じられて、実際女性客がリョウマのことを見てうっとりした表情をしていた。


「謹慎期間が暇すぎて、最近は鉱石を眺めたり本を読み漁ったりしています。菫様は最近どうですか?」


「リョウマ様の貸して下さった本を読み終わりました。面白かったです」


 菫は鞄から本を出してリョウマに返した。


「菫様は物語や神話、推理小説に興味があるんですね。意外でした」


「えっ、意外? そうですか?」


「はい。経済学や伝記などが好きなのだとばかり思っていました」


「そんな……帝王学で学ぶような本、一服の書として読みたくないです……」
   

「それもそうだな、ははは!」


 リョウマは楽しそうに口を開けて笑った。


 髪が短い分、より少年らしさが増した気がする。


 リョウマの悪戯っぽい笑顔は、菫の心を軽くしてくれた。


「この前会いましたが、カルラも元気そうです。菫様の休日にでも一緒に死の監獄に遊びに行きましょうか」


 リョウマの誘いに、菫はクスッと笑って悪戯するようにリョウマを見た。


「リョウマ様、謹慎中じゃないの?」


「まあ……そこは、死の監獄にお詫び行脚という名目で……」


 しどろもどろになるリョウマを見て菫も楽しそうに笑った。


「アコヤ様もお元気です。今はサギリ様やご家族で全ての月読教信者に事の経緯とお詫びの手紙を書いています」


「そうか……」


 リョウマがアコヤを思い出しているのか、目を細めて感慨深げに呟いた。


「アコヤ様がね、手紙を頻繁に下さって、わたしも返信していたら文通しているみたいになっちゃって。彼女、刺繍したり、アクセサリー作りが趣味なんですね」


「……いや、知らなかった」


「このブレスレット、アコヤ様がプレゼントして下さったの。わたしの好きな深い紅色。素敵でしょう」


 左手首に付けたブレスレットを嬉しそうにかかげると、リョウマは菫の手首を掴んで自分の方へ持っていった。


「菫様の白い肌に深紅が映えますね……綺麗だ」


「でしょう。アコヤ様のセンスが光っていますよ。彼女、すごくいいなあ。デザイナーとか、服飾系に興味ないかなあ」


 真剣に考え込む菫に、リョウマはフッと鼻で笑った。


「俺は菫を褒めたんだがな」


 そのまま指を絡めながら、リョウマは菫の手を包み込むように繋いだ。


「まあいい。今までの俺のイメージが良くないでしょう。俺の女神に信頼されるような、そんな忠犬になってやりますよ。期待していて下さい」


 リョウマは菫の手の甲にキスを落とし、そっと手を離した。


「……リョウマ様って、気障ですよね……」


「フッ。そうか? 俺は本心しか言わないんだ。当面の目標は、女神の美しい白皙の頬を俺が桜色に染めることだ」


 少年のように目を細めて笑うリョウマを見て、菫は困ったように頬に手をあててリョウマを見返した。


☆続く☆
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