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6話【右手】

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αの男が俺をお姫様抱っこしたまま奥の部屋へ続く扉を開ける。
そこは··············大理石を使用した床、高級感溢れる真っ白な壁の通路で両壁には暗い赤色の扉が幾つもあったが【使用中】【未使用】と書かれたプレートがドアノブに掛かっている状態だ。


【使用中】となっている部屋の中では今頃、αとΩがここに来たを行っているんだろう。

「··················································。」

このαは手当するという言葉通り、手当てしてくれるだけだろうか····。
手当て、という言葉がただ俺を奥の部屋に連れて行く為の口実だとしたら??
···············今からでも逃げるか?
いや、、、
俺より可愛いΩは会場に沢山いたし···それは無い·····か。
自分で思っておいて悲しくなる。
ほんと···βに生まれたかった··········。


【未使用】と書かれたドアの前で立ち止まると、近くに立っていた主催者のスタッフに「此処が一番高い部屋か?」と俺を抱えたままαは尋ねる。
高い部屋と聞いた俺は現実逃避から思考を戻して目の前のドアを見た。
「      ぇ"、、」と、思わず声が出る。
そのドアだけ何故か他の部屋のドアとデザインが違い、上品な真っ黒のドアでプレートの文字は金色で彫られていた。

理解が·····追い付かない。
何故、傷の手当てだけなのに自分は一番高い部屋にαと一緒に入る事になっているのか·········。
(これは·····俺がΩだから理解出来ないとか、、そんな次元の話しじゃない)
「あのっ、」
慌ててそのαに声を掛ける。
「             なに?」
少し間があったが返事が返ってきた。
「傷の手当てするだけですよね·····?」
顔を見上げて尋ねると、
「そうだ」と、目が合わないまま短い答えが返ってきた。

αはスタッフに「この子に代わりの服と傷の手当てが出来る道具を。その後は此処に誰も近付かせないで」とチップを渡す。
「畏まりました。ごゆっくりお寛ぎ下さい」
チップを受け取ったスタッフは深い会釈をして立ち去る。

ドアが開き中へ入ると⎯⎯⎯⎯⎯⎯··········



床がフローティングで、大きいカーペットはイギリスのウィルトン発祥の伝統的なウィルトン織りの落ち着いたデザインが施された·········足で踏んでしまうのが申し訳なくなる程の素晴らしいものだ。
ソファーやテーブル、椅子等の家具は上質な素材を使用した高級アンティーク。
壁には有名な画家が描いたような絵が三点飾られており、窓は吹き出し窓で外は絶景という俺には一生縁が無い部屋だった。


(傷の手当てだけなのになんで?)


理由が分からず混乱しているとαはお姫様抱っこから俺をおろし、向かい合わせにする。
そして「大人しくしてて」と、落ち着きと色気を感じさせるバリトンボイスが耳元で囁く。
「ッ、」
その色気に当てられたのか頬が熱くなり、自分自身でも真っ赤になったのが分かった。

返事を返す代わりに頷くと、そのαは俺の背中に手を伸ばし、メイド服のチャックがジィ⎯⎯⎯⎯⎯⎯·····と音を出して下ろされていく、、、
抱きしめられた様な感じがして俺の心臓は五月蝿い位脈打つのが速い···············。
相手にも伝わってるんじゃないか?これ·····。

動きそうになる俺に「破片が入ってたら大変だろ、動いたら駄目だ」と、そのαは言う。
チャックが全て下ろされ、メイド服が床に落ちる。
「~~~~~ッ、、」
自身が今、身に付けているのは·····ガーターベルトと太腿まである黒のストッキング。あとは黒のレースの紐パンだけ、、、
初対面にこんな姿を見られて恥ずかしくて堪らない··········。
「  も、、もぅ·····良いですか?」
「ああ。シャワーはそこだから」
αはバスルームを指差す。
俺は「お借りします」と軽く頭を下げてシャワーを浴びに向かう。




◇┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◇




(··········なんか、、凄く甘くて良い匂いがあの人からするのは···なんでだろ?香水?柔軟剤??いや、そもそも何でここまでする?)


シャワーを浴びながら色々考えてみたが、αが考えてる事をΩの自分が考えた所で理解不能だった。
(此処で悩んでも埒が明かない、、)
それよりはシャワーを浴びた後の事だな·····。
服は後で新しいのを届けて貰えそうだったから、それを着て··········あのαにはお礼を伝えてさっさと退散しよう。
これ以上何か起こっても困るし·····。

俺がいようがいなくなろーが、ホールにはまだ可愛いΩも沢山いる。
俺みたいなゲテモノじゃ無くて良いだろ、、、
こんな汚れた奴なんか····················。
あのクソ野郎の事を思い出して胃が痛む。

「········································。」

シャワーを浴び終えてバスタオルで身体を拭くが、
バスローブが見当たらなかったので取り敢えず、拭いたバスタオルを身体に巻いてαのいる部屋へ向かう。
「シャワーありがとうございます」
「あぁ、」
αの男は高級なソファに座り、何かを考えている様な表情で外の景色を見ていたようだが、俺が声を掛けると整った顔が此方を向く。
(顔が整ってる人はどんな表情も絵になるな)
「えっと、、服着たら俺帰ります。今日はありがとうございました」
改めてお礼を伝えた。

すると、それに対する返答では無く、
「俺の事、覚えてないの?それともわざと?」と何故か苛立った様子で尋ねられる。
(え?)
「貴方の事··········ですか?」
思い返すが、やっぱり思い出せない·····。
「すみません、カッコイイのでモデルさんや俳優さんかと勝手に思ってました」
俺の返答に相手は深い溜め息をつく。

(覚えてないのは申し訳ないとは思うけど、、、なら早く教えてくれたって·····)
嫌な気持ちになった。
「溜め息つくくらいなら教えてください!」
αの男が座るソファの前まで俺は行き、目の前に立つ。すると·····腕を引っ張られて俺は組み敷かれ、両腕は相手に拘束されてしまった。
「·····どいて下さい」
相手を睨みつけるが、相手は無視し放す気は無い。

(このαは何がしたいんだ?)

その時···············、、、

コン、コン、コンとドアをノックする音が耳に入る。驚いた俺はビクッと身体が反応し、αの男は俺を放さないままドアの外にいるスタッフへ「入れ」と言う。
「ちょっ、と、、早く放し⎯⎯····ん"んっ?!?」
話している途中で強引に唇を奪われる。
一瞬·····何をされてるのか理解出来なかったが、相手の舌が俺の唇を無理矢理こじ開けて口の中へ入ってきた時、キスをされている事に気付く。

(なんで?手当てだけって言ったのに·····やっぱり俺が一応Ωだから?ただの気まぐれ?)
人生で二度目のキスでさえ強引で···良い思い出じゃ無い。
ほんと、、、自分は運がない···············。

必死に放れようと足掻くのに·····力が相手の方が強くて離れられない。。。
足掻いている間にも相手の舌が、俺の上顎や歯茎をなぞり、舌を絡ませてきてビリビリとした甘い刺激が襲ってくる。
「ひゃ   っ    ひゃ··めて··········ッん  ン"   」
やめてと懇願しても辞めて貰えない。
深いキスで目には涙が溜まり、息が苦しい。

その間にスタッフが部屋の中に入って来た。
「失礼します。相手の方の服と救急箱を此方に置いておきます」と、一言言うと我関せずという風でお辞儀をして部屋を出て行く。

(スタッフ!これは助ける所だろ?!!くそっ!!)

強姦されそうなんだぞ、こっちは!!と、苛立った俺は相手の唇を思いっきり噛んだ。
「ッ、」
相手の端正な顔は痛みで歪み、口の中で鉄の味がする··········。
痛いはずなのに、それでも相手はキスをやめない。
(なんでやめないの?)
血が混じった唾液が唇から滴り、俺はキスから来る快楽で全く力が入らない。


「                  怜·····」

「?!」
男が俺の名前を突然呼ぶ。
「    はぁ  ッ、   はっ···    な      、  ん で ·····?知って··········??」
荒い呼吸の中、俺は相手に尋ねる。
すると、相手はキスを辞めて俺の右手の甲にキスをした。
「 まだ、分からない?」
「はっ····、···わ···分かる訳ないだろ·····はぁ··········こんな···行為で·····ッ、、ふざけるな!」

相手の欲しい答えじゃ無かったのか相手は深い溜め息をつき、右手の甲に貼ってある血で滲んだシールの端を噛むと勢い良く剥がし、噛み跡を隠していたシールは床に落ちる。
「なっ、?!」
この人何がしたいんだ!?
頭イカれてるのか?

その痕は····


痕は⎯⎯⎯⎯⎯⎯·····


「··················································。」


·····まって、
待って欲しい。

なんで右手のシールをわざわざ剥がす??
そこに痕があるのを知っているのは·····


「                   ま、まさか····、」


いや、でも·····そんな事って···············
目の前の人が??
有り得ない·····此処は漫画やドラマとかじゃない。
「あの時、よくも逃げてくれたな」
相手は拗ねたような、怒った表情を浮かべている。

忘れよう、忘れようと必死になって·····
そしたら、いつの間にか本当に顔さえ思い出せなくなった人、、、、



俺の   、  初恋の人···················







「 ⎯⎯⎯⎯⎯⎯お   ざ  き·····せん···ぱ··い    」




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