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佐々木さんは困っている
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しおりを挟む以前この部屋で佐々木に作業を教えてくれた同性のスタッフと違い、いくら細く見えても異性である工藤くんは当たり前だが佐々木よりも体格がよく、必然的に二人は身を寄せ合うようにして画面を覗き込むことになる。
「あとは、ここを……」
「な、なるほど……」
メモ帳と見比べながら、佐々木は蚊の鳴くような声で相槌を打つ。
そうでないと間が持たない。
(こ、心の準備が……)
立ったままの工藤くんは身を屈みながら、マウスを動かす。
当然二人の肩は触れ合うことになり、危うく頭が打つかりそうな瞬間もあった。
「もうここまでやったら後は印刷するだけです」
佐々木の顔を覗き込み、にっこり微笑む工藤くんに佐々木はなんともぎこちない笑顔を返した。
「ね? 難しくないんで、佐々木さんもすぐ覚えられますよ」
「わー…… 本当だ、私でも、できそう……」
近すぎて佐々木は自分の息が荒くなっていないかと不安になった。
比喩でもなく本当に互いの吐息が触れ合いそうなほど距離が近い。
不可抗力であることはわかっているが、ストレスが半端ない。
(自意識過剰……なのか?)
そんなストレスでいっぱいいっぱいの佐々木と違い工藤くんはまったく慌てることなく自然な態度である。
逆に自分が恥ずかしいほどだ。
(いやいや、でも、あんなことした後だし…… 意識するのは仕方ない、よね……?)
この暗く狭い部屋で互いの肩が触れ合い、時には吐息が耳を掠める距離はただの同僚同士というには少し不適切ではないかと思う。
よくよく考えればあの工藤くんがこんな風に身を寄せてくるのは不自然だ。
彼らしくない。
だが、大げさなほど工藤くんの存在を意識している佐々木はその不自然さにまったく気づけなかった。
(ううう… なんか、なんか…… 私めっちゃ変態みたいじゃん……!)
工藤くんはすごい。
こんな間近で見ても顔にこれと言った欠点もないどころか、肌など確実に佐々木よりも綺麗だし、汗臭いどころかほんのり爽やかな香りすら漂ってるのだ。
(さ、最近の若い子って、すごい……)
一旦そこに意識してしまうともう駄目だ。
匂い、嗅覚が一番記憶を呼び起こすと言うが、まさにその通りである。
佐々木はまんまと工藤くんの匂いで記憶が蘇ってしまった。
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