29 / 32
佐々木さんは困っている
4
しおりを挟む髪の毛がはみ出ないよう二人共しっかり帽子を被っていたのは幸いだ。
そうでなければ工藤くんのサラサラとした柔らかい髪はきっと何度も佐々木の頬を撫でただろう。
もしもそうなったら佐々木はどんな反応をするだろうか。
(うわ、心臓ヤバい……)
佐々木は工藤くんの髪の毛の感触を知っていた。
何度も佐々木の肌を擽り、何度も手で梳いたのだから。
まだ、体が覚えている。
(顔、赤くなってないかな……)
鏡がないので佐々木は気づいていないがその顔は赤いというよりも少し青ざめていた。
どちらにしろ部屋が暗いせいで確かめようがないが。
(ごめん、工藤くん…… すごく助かってる…… すっごい感謝してるんだけど……)
本当は至近距離でぽちぽむちとマウスをクリックする工藤くんから逃げ出したい。
最近になって自分の汚れた欲求に気づき、また欲に負けてしまった佐々木は未だ自己嫌悪の沼にずぶずぶとハマっていた。
そんな今の佐々木にとって工藤くんの存在はとても複雑なのだ。
真面目に仕事を教えてくれている年下の好青年と比べ、本当私って最低……と心臓はバクバク(緊張)とチクチク(罪悪感)の間を行き来し、とにかく忙しない。
(ううう…… 煩悩よ、去ってくれ……)
それでもちゃんとメモはとっていた。
さすがにあまりにも工藤くんが近くて全然集中できなかったです……というのはいくらなんでも情けなさすぎる。
そんな風に必死に煩悩と戦っていた佐々木は画面に集中し過ぎて工藤くんがどんな顔をして自分を見下ろしていたのか気づかなかった。
「……で、あとは特にイレギュラーなことがなければ簡単に対処できます」
「は、はい……」
「大丈夫そうですか? あと、わかんないとことか……」
「う、うん…… 大丈夫、です。ありがとうございます」
少し不自然なほどどもってしまった。
誤魔化すように愛想笑いを浮かべ、ぺこぺこと頭を下げる佐々木に工藤くんは笑った。
「大げさですよ」
佐々木が聞いた中では一番快活な青年らしい笑い声だ。
思わず顔を上げて工藤くんを見上げる佐々木の視界に工藤くんの邪気のない笑みが映った。
ディスプレイの明かりに照らされた笑みは年相応に微かに照れているようにも見える。
そのことに何故か佐々木は安堵し、途端に緊張の糸が切れたような脱力感に包まれた。
工藤くんとの距離は未だ近いはずなのに、とにかくこのとき佐々木はホッとしてしまったのだ。
「……あともうちょいで帰れそうですね」
工藤くんがディスプレイに表示された時計を覗く。
佐々木も釣られたように時間を確認し、ほんの数分しか経っていないことに驚いた。
体感的には一時間ぐらい経ったような気がしていたのだ。
「そういえば……」
もう後は帰るだけだとホッとしていた佐々はそのときすっかり油断していた。
0
あなたにおすすめの小説
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる