ごめん、もう食べちゃった

埴輪

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じゅう

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 苑子の悪意に、雪子は頭上の手を振り払い、堪らずその場から逃げ出した。
 あまりにも酷い姉の言葉に胸が痛くて痛くて仕方がなかった。

(なんで、なんで……!)

 逃げるように部屋に戻り、鍵をかける。
 部屋に溢れかえるようにして置いてあるお気に入りのぬいぐるみを八つ当たりのように放り投げた。
 女の子らしい小物がたくさん飾られている雪子の部屋はめちゃくちゃになり、長い毛足の絨毯の上に色んな雑貨が落ちていく。
 母から貰った高価な宝石入れが音を立てて棚から落ち、中に入っていたアクセサリーが散らばって漸く雪子は暴れるのをやめた。
 そして手近にあったカラフルなクッションを抱きしめる。
 雪子の様子に異変を感じた母が扉の外から控えめに声をかけて来るが、シーツを頭から被った雪子の耳には届かない。
 そうやってずっと雪子は嫌なことがあると部屋に籠り、一人で大泣きしていた。
 雪子を助けてくれる人が来るまで、ずっと。

(もう、いや……)

 誰か助けて欲しい。
 もうどうすればいいのか分からないのだ。
 ずっと雪子は我慢してきた。
 物心つく頃からずっとだ。
 周囲に姉と比較され、傷つきながらも頑張って来た。
 病気がちで、ろくに外で遊べなかった雪子と違い、昔から姉の苑子は自由気ままになんでも出来た。
 友達も多く、苑子が誕生日のたびにたくさんのプレゼントを貰っているのを雪子はずっと羨ましく思っていた。
 たぶん、その頃から雪子は苑子に対して劣等感を抱くようになったのだろう。
 入退院を繰り返し、まともに友達もいない雪子を尻目に苑子は遅くまで外で友達と遊び、そして母から何も咎められることもなかった。
 ピアノ教室に通えば厳しいと評判の女の先生と仲良くなって、とても綺麗なドレスを発表会用にこっそり譲ってもらっていたことを雪子は知っている。
 ふわっとした長くて綺麗な髪にリボンを結び、ドレスを着て自慢する姉の姿は本物のお姫様のようだった。
 当時同じ教室に通っていた雪子には何もなく、仕方がなく母のお下がりを譲ってもらうこととなったのだ。
 その前に才能があったはずの姉は教師に惜しまれながら先に辞めた。
 飽きたという理由のみで。

 才能と時間があった姉と違いあまり練習ができかった雪子。
 姉が去った後の教室で皆に比べられているような気がして、雪子も耐えられずにすぐに辞めた。
 他にも数えきれないほど苑子は恵まれていた。
 何も持っていない雪子と違い。
 幼い頃はそれが悔しくて悲しくて仕方がなく、熱が出るまで泣いて母や近所の幼馴染を困らせた。

(お姉ちゃんは、私の気持ちが分からないんだ……)

 欲しくて仕方がないものを無条件で与えられる苑子。
 そして、その有難みを知らず、簡単に手放してしまえる苑子に雪子の気持ちなど分かりっこない。

 気づけば誰よりも愛されていた苑子はどんどん傲慢になって、いつしか嫌われるようになった。

 誕生日で貰ったプレゼントを結局いらないと返し、友達が家に迎えに来ても無視をする。
 ピアノ教室にもあんなに先生に贔屓されていたのに、突然飽きたと言って勝手に辞めた。
 皆から褒められていた長い髪を気づいたらバッサリ切って、周囲を困惑させて笑っている。
 苑子は昔からそうだ。
 皆に好かれているのに、皆を裏切る。
 人の気持ちなど考えない。
 その無神経で我儘な性格に雪子がどれだけ傷ついたことか。

 嫌われるのは当然だ。
 そして、そのとばっちりを雪子は何度も受けた。

 小学生のときには苑子の妹ということでやたらとちょっかいをかけられ、気づけば口下手の雪子は孤立していじめられたりもした。
 それが嫌で親に頼んで違う中学に入っても、過去のいじめのせいで上手く人付き合いができず、結局まともに話せる友達はできなかった。

 全部苑子のせいだ。

 それでも、雪子は耐えていた。
 でも、それももう限界だろう。

 全てを許そうとした雪子の気持ちを苑子はぐちゃぐちゃに踏み潰したのだから。







 朝から食欲がないと母に告げば慌てて熱を測られそうになり、病院で診てもらおうと心配するその姿に雪子はうんざりした。
 幼い頃から病弱で、何かと過保護な母は雪子をまるで赤ん坊のように扱う。
 姉に対してはまったく干渉しないというのに。

「本当に大丈夫? 無理しないで休んだら?」
「うん…… ただ食欲がないだけだから」

 玄関先でも続く会話に苛立ちながら、雪子は早く家から出たかった。
 昨日の夜からずっと部屋に籠って泣いていたせいか、目が腫れている。
 何度も心配した母に部屋をノックされたが、雪子は全てを無視した。
 いつものようにまた姉が何か意地悪をしたのかと扉の外で微かに母が姉を叱る声も聞こえたが、ちっとも心は晴れず、むしろ余計に雪子は泣いた。

「せめてサラダぐらい食べたら? スープとか…… 雪子の好きなカフェオレとか?」
「……ごめん、本当に食欲ないの」

 引き留めようとする母を怒鳴らないように意識しながら、雪子は自分でも分かる暗い顔で靴を履いた。

「いってきます……」

 いつもギリギリまで寝坊しているだらしのない姉と万が一でも顔を合わせたくなかったのだ。

 だが、玄関を開けてすぐに雪子は後悔した。

「あ、おはよう」

 満面の笑みを浮かべた失恋相手が目の前にいたのだから。

「秋くん……?」
「ごめん、朝早くに」

 声が上ずっていないのか、こんなときでもくだらないことを考えてしまう。
 青白かった頬が一気に赤く色づくのが自分でも分かった。
 反射的に目の前にする秋くんの爽やかな笑顔に胸がときめいてしまう。

「えっと…… 苑子先輩は……」

 すぐにそのときめきは痛みに変わってしまったが。

「……まだ、寝てると思う」

 ぽわっと周りから幸せオーラを放ち、そわそわと視線を彷徨わせて姉について尋ねる秋くんは好意を隠そうともしない。
 ずっと、その素直で明るい性格に惹かれて遠くから見つめていた。
 だからこそ嫌でも秋くんが姉に本気なのが分かって辛い。

(どうしてお姉ちゃんなんだろう……)

 姉には敵わないと思いながらも、その鬱屈とした気持ちを拭い去るのは難しい。
 それでも幸せになってほしいと、苦しい思いを押し殺して姉に本音を伝えた。
 それが無惨な結果に終わり、改めて姉の苑子の理解しがたい冷徹さと残酷さが身に染みたのだ。
 思い出すだけで、苑子の馬鹿にしたような声が蘇り息が苦しくなる。

「あ、ちょっと早く来過ぎたかな……?」

 きっと、苑子と登校する約束をしていたのだろう。
 約束の時間が過ぎても来ない苑子にどこか不安気な顔で佇む姿がなんだか飼い犬みたいで可愛かった。

「……また寝坊してると思うから、先に行った方がいいと、思う……」

 秋くんの顔を見ると必然的に昨日の光景が目に浮かび、雪子はつい視線を反らしてしまう。
 それでもなんとか話かけることが出来て、雪子はこんな状況にも関わらず胸が熱くなった。
 赤く火照た顔でちらっと秋くんに視線を移せば、じっとこちらを見て来る真っ直ぐな視線とかち合う。

「……な、なにっ」
「んー? あ、ごめん。じっと見ちゃって」

 少し屈んでいた腰をあげ、秋くんは悪戯っ子のように微笑んだ。
 その笑顔や距離の近さに心臓が破裂しそうだ。

「なんか、昨日とイメージ違うなって。こうして喋ってると」

 爽やかに、どこか照れたように秋くんは言った。

「大人しそうなイメージが強かったけど…… なんか、可愛いな~って」
「かっ……!?」
「うん。可愛い。あっ、でも…… 目、腫れてる?」

 大丈夫かと、顔を覗き込まれ、近すぎるその距離とさらりと言われた言葉の破壊力に雪子の足がふらつきかけたときだ。

「おい」

 不機嫌な幼馴染の声が雪子と秋くんに降りかかった。



* *


 秋は堂々と目の前に立つ男の顔を見て首を傾げた。

(誰だ、こいつ)

 身長は同じぐらいだろうか。
 着ている制服も同じだ。
 ネクタイの色の違いを見て、秋はすぐに一個上の「先輩」だということに気づいた。

「は、春、斗くん……」

 雪子の驚いたような声に、秋は警戒心を解く。
 知り合いかと軽く会釈すると切れ長の目で睨まれた。

「そいつに何してんの」

 なんとも顔立ちの整った男に不審者のように睨まれながらも、秋は持ち前の性格の良さでにっこりと笑って返す。
 雪子の様子を見れば知り合いだと分かる。
 どんな関係かは知らないがとりあえず穏便に対応するべきだろうと冷静に思ったのだ。

「雪子……さん、の知り合い?」

 ふと、雪子のことをなんと呼べばいいのか考えたが、無難にさんづけにした。
 堅苦しい気もしたが、正直雪子との距離感を秋は計りかねているのだ。
 恋人の妹というなんとも微妙な立ち位置にいるので将来のことも考えればここは出来るだけ友好的な関係を築きたいと秋は考えている。 
苗字で呼ぶのもなんだかよそよそしいし、かと言って呼び捨ては馴れ馴れしすぎるだろうなと一応の配慮をした結果だ。

「……だったら何?」

 そんな秋の配慮なども知らず、目の前の男は感情を伺わせないような無表情で睨んで来る。
 むしろより一層目力が強くなったような気もした。
 一体何が男の気に障ったのか分からないが、初対面であまりにも失礼じゃないかと秋は笑顔の裏でむっとした。
 そんな笑顔と無表情で対立する二人の間にピリピリとした緊張感が漂う。
 真ん中に挟まれた形の雪子は顔を青褪めさせ、震えていた。
 祈る様に両手を握りしめて、おろおろと長身の二人を上目遣いで伺う。
 零れ落ちそうな大きな目が次第に潤み始めている。

(……いや、早くなんか誤解解いて欲しいんだけど)

 ちらっと横目でその様子を見ていた秋は笑顔が若干引きつき始めていた。
 唯一この場で二人を知っている雪子が何か言わないと延々とこの奇妙な睨み合いが続きそうなのだ。
 意外と短気な秋はもしも雪子が苑子の妹でなければ確実に不機嫌を顔に出していただろうなと思った。

「……で? こいつ、誰なわけ?」

 と、秋が何か言葉を発する前に目の前の男が面倒臭そうに雪子に視線を向けた。
 さらっとした黒髪に、涼し気な切れ長の目。
 どこか冷たそうな無表情といい、なんとも雰囲気のある美形だ。
 よく犬属性とか、爽やかと称される秋とは対照的である。
 そんな冷たい雰囲気の男に温度のない声で話しかけられた雪子は目に見えて怯えていた。
 どこか強張っているようにも見える。
 雪子をよく知らない秋には分からないし、興味もなかった。
 だが、いつまでも口ごもって何も言わない様子には正直困っている。
 人見知りっぽいとは思っていたが、ここまでとは思わなかった。

「……さっきからそいつに絡まれているみたいだけど?」
「……はぁ?」
「あ、ち、ちがっ」

 男の言葉にさすがの秋の笑顔もひきつる。
 思わずガラの悪い声が出た。
 慌てたように説明をしようとする雪子になんとか我慢している状態だ。
 さすがに苑子の家の前で変な騒ぎは起こせない。

「この人は…… その、お姉ちゃんの……」
「苑子の?」

 だが、男の口から苑子の名前が出たことに秋の顔が歪む。
 初対面の気に食わない男の口から恋人の名前が自然と出たことが気に喰わない。

「お姉ちゃんの…… あの……」

 核心をなかなか言わない雪子への苛立ちもあった。
 目の前の男が誰かは知らないが、早く誤解を解いて欲しいし、自分のこともさっさと説明でもなんでもして欲しいと思った。
 一体何を口ごもる必要があるのだと、秋は崩れかけた笑顔をなんとか保ち、雪子のもごもごとした言葉を遮るようにして男に言い放った。

「俺、苑子先輩の彼氏です」



* * *


 どうやら雪子はもう出たようだ。
 欠伸をしながら、ダイニングに入ってとりあえずテレビをつけた。

「苑子」

 随分と機嫌の悪そうな母親の呼びかけにさっさと出れば良かったと苑子は自分の選択の過ちに気づいたがもう遅かった。

「ねぇ、あんたまた雪子に何かしたの?」

 いつの間にか見ていた朝のワイドショーは消され、目の前で深刻な顔で自分を睨みつけて来る母親の声だけがダイニングに響く。
 トーストされていない食パンをもそもそと食べながら、苑子はいつもの通りに適当に流した。

「別に」

 どうせ、何言っても変わらないため、苑子はただ相槌を打つだけでいい。

「嘘つかないで。昨日からあの子、何も食べずにずっと部屋に籠って泣いていたのよ? 今朝も全然ご飯に手をつけないし……」
「ふーん」

 ちらっとテーブルの上を見れば確かに皿に載った熱々のオムレツやベーコン、スープが美味しそうに湯気を立てている。
 ミルクたっぷり入ったカフェオレが一口もつけられずに放置されてもったいないなと苑子は思った。
 苑子と雪子の好みは似ている。
 好きな食べ物も色も服もキャラクターも。

 こっそりとこのまま飲まれず捨てられるだろうカフェオレを引き寄せた。
 苑子の呑気な様子に母親の眉間の皺が深くなる。
 なんて卑しい子だろうと母の目を見なくとも何を考えているのか手に取るようにわかったが苑子はまったく気にしていないかった。

「あんたもいい年なんだから、もうちょっと大人になれないの?」

 砂糖もちゃんと淹れられた愛情たっぷりの母特製カフェオレは美味しい。

「……雪子は生まれつき身体が弱いのよ? あんたと違うのよ?」

 雪子のために淹れたとしても美味しさに変わりはない。
 内心でいつもの母の話出しにまたかという言葉をなんとかカフェオレと共に流し込んだ。

「お願いだから、いい加減大人になってちょうだい。あの子の何が気に入らないか分からないけど、あんたはお姉ちゃんなのよ?」

 だんだんと母親の声が甲高くなっていくのが分かったが、それはいつもと同じである。
 カフェオレで味気ない食パンを流し込み、残された雪子の朝食に手を付けようとすれば手が腫れるぐらいに強く叩かれた。
 駄目か、と思い他に食べれそうなものがないかとテーブルの上に視線を彷徨わせる。

「……本当に、どうしてあんたはそんなに冷たいの? 雪子はあんなに大人しくて、優しくて、可哀相な子なのに……」

 正直母親の話はまったく聞いていないが、だいたい言っていることはいつもと同じだ。
 テーブルの上にドレッシングがかかったサラダがあったが、それを取り分ける気にはなれなかった。

「雪子は昔から我儘も言わないで、お母さんの言うことをちゃんと聞いていたけど、あんたは昔から思いやりがなくて、何をやってもすぐに飽きて、途中で放り出して……」

 後でコンビニで何か買おうかなと思いながらもとりあえず食パン一枚を完食する。
 それかお昼の売店まで待つか。
 朝は食パンだし、お昼はおにぎりにしようかと苑子は考えていた。

「雪子が病気がちで、友達がいないのを知ってわざと家にお友達を呼んだり、プレゼントなんて大量に貰ってきたりして…… それがどれだけ雪子の心を傷つけたか、分かる?」

 一体いつの話だろうかと思いながら、苑子はとりあえず神妙に頷いてみた。
 だいたい母親が話すのは昔のことが多い。
 アルバイトをするようになり、自分で電話代も食事代も稼ぐようになった苑子は昔以上に手がかからなくなり、昔以上に母にも雪子にも構わないようにしていたからだ。
 時折思い出したように帰宅時間の遅さや朝帰り、いつまでも治らない好き嫌いについて叱られるぐらいだ。
 それでも機嫌が良ければ苑子が三日ぐらい家に帰らなかったことにも気づかないのだから本当に気まぐれである。
 だから今の苑子に本格的に何か言うときは必然的に昔のことを掘り出す。
 今の苑子のことを母親は何も知らないからだ。

 苑子だって成長するのだ。
 昔のように誕生日プレゼントを貰って帰ったその日に親に怒鳴られて泣きながら返しに行ったり、お菓子やケーキを捨てられたり、唯一手元に残った手作りのリボンを妹にあげるはめになったり、というヘマをもう二度としたりしない。
 友達の目の前で妹を仲間はずれにして可哀相だと思わないのかと頬っぺたを叩かれれば嫌でも学習する。
 どんな能天気な馬鹿でも目が覚めるというものだ。

「ピアノ教室だって…… 才能と根気がないからってすぐに止めちゃってね。本当に、あんたにはお金をかけるなんて溝に捨てるようなもんよ」

 ぼんやりとそういえばなんでピアノを止めたんだろうと考えて、ちらっと母親の背後の食器棚に視線を向ける。
 ガラス張りのそこにいつもと変わらない短い自分の髪を見てなんとなく曖昧な記憶が思い浮かんできた。

 ピアノは正直嫌いではなかった。
 むしろ好きだったのだろう。
 妹が同じ教室に入り、その頃から月謝のことで母親にぐちぐち言われても続けたいと思うぐらいには好きだったと思う。

(なんで止めたんだっけ)

「聞いてるの?」

 母親の棘のある物言いに、少しぼうっとしすぎたなと苑子は反省した。

「とにかく、あんたがどうせまた雪子に意地悪したんでしょう? 全部あんたが悪いんだから、謝りなさい」
「……」
「いい? あんたはお姉ちゃんなの。あの子を守って、全部譲ってやる義務があるの? 分かった?」
「はーい」

 苑子はもぐもぐと味のしない食パンを呑み込んだ後、とりあえずいつもの様に頷いた。
 それに一応満足したのか、早く食器を片付けて出て行ってと催促する母親に素直に頷く。
 食器と言ってもマグカップだけだから楽なものである。
 機嫌が悪そうだし、下手に逆らってまたヒステリックに怒鳴られたり、物でも投げられたら堪らない。
 ここら辺の扱いは匙加減が必要なのだ。 

(……って言われても、ね)

 返せとか、譲れとか、意地悪するな、と母はいつも同じことを苑子に言うが。

 そもそも別に雪子のものではないのだ。
 いつだって雪子の欲しがるものは苑子のものだっただけに過ぎない。
 妹が姉のものを欲しがる。
 ずっと、それは変わっていない。 

(いつものことか)

 下手に反論してまた部屋の中の物を捨てられたりしたら堪らない。

 母親のあれは一種のヒステリックであり、気にするだけ損であることを苑子は長年の経験で知っている。
 昔の母親はもうちょっと違った気がする。
 それも昔すぎて、苑子は覚えていない。
 今の母と、まだ雪子が生まれていなかった頃の母。
 果たしてどちらが母親として正しいのか、それとも世間一般の母親というものは皆苑子達の母みたいなものなのか。
 その正解も分からないのだから。

 母は昔から妹の雪子が大事で、姉の苑子のことが嫌いなのだ。
 もしくは関心がないことを苑子は知っている。

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