ごめん、もう食べちゃった

埴輪

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じゅうろく

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 苑子は性格が悪く、悪趣味である。
 自他ともに広く認知されている事実だ。

 そんな苑子に惚れた秋はじっとスプーンを口に含んだままの苑子の横顔を見つめている。
 大好きな恋人に乞われるがままに話した雪子との会話。
 今の秋には相反する二つの感情と思考が鬩ぎ合っている。
 冷静で良心的な方の秋は改めて雪子へのあの対応は最低だったと反省していた。
 だが、愛と情熱に生きる方の秋は口にスプーンを銜えたままうーんと困ったような苦しいような愉しいような何か考えている風の苑子の様子が新鮮で可愛いな、今だけスプーンの代わりになりたいなと切に真面目に不埒なことを願っていた。
 ストローなども無意識に噛んでいたし、今もカリカリカリカリと真珠のよう前歯でスプーンを齧る苑子は小動物的で可愛らしい。
 お上品とはいえない癖かもしれないが、そんな子供っぽい苑子の仕草に秋はきゅんきゅんしてしまう。
 そして意図せずに秋の襟の下に隠れた首筋や鎖骨、肩や背中に乳首、太ももの内側に薄っすらと痣のように残っている噛み痕が疼いた。
 苑子に噛まれた箇所が徐々に熱を帯びたように熱くなる。
 苑子の歯並びの良さにすらぽっとなってしまう秋はもう救いようのない馬鹿であった。
 初恋が運命の悪戯で成就してしまったせいで別のベクトルで拗らせてしまった大馬鹿者だ。

(苑子先輩…… 俺のこと、また噛んでくれないかな……)

 苑子に噛み癖があると知っているのは自分を含めてこの世に何人いるのかと思考を飛ばしつつも秋は背筋を伸ばして真剣な顔で苑子の返事を、反応を待っていた。

 当の苑子はそんな秋の熱視線を無視しながらも、少々予想外の出来事に混乱していた自分をなんとか抑えた。
 正直いえば苑子は秋の話に素で引いていた。
 思わず雪子に同情してしまったほどだ。

 だが、そこは根性がひん曲がっていることに自他ともに定評のある苑子である。
 ほんの一瞬の同情の後、次いで胸の内にもくもくと満ちたのは圧倒的な優越感である。
 秋に無様な姿を見られたという羞恥も、春斗みたいなむっつりに嵌められた屈辱も、苑子のおかげで雪子が幸せになるという状況に対する怒りも。
 今は爽快と言ってもいいぐらい綺麗さっぱり消え失せたのだ。
 むしろ一瞬でも雪子に同情した自分を意外と人間が出来ているなと苑子は心の片隅で感心した。

 今の心境として当てはまるのは「よくやった、秋くん」という称賛だ。






 ちらりと横目で秋を見れば、その顔を真っ赤にして一心不乱に苑子の唇を、横顔全てを余すところなく凝視している。
 気持ち悪いほどうっとりとした視線に鳥肌を立てながら、苑子は本気でこの忠犬、いや、大事な大事な彼氏にご褒美をあげなければならないと思った。
 お詫びではなく、ご褒美が相応しい。
 そうなれば、苑子の行動は早い。
 身を乗り出そうとして、ふと手に持った容器の存在を思い出す。
 半ば存在を忘れていた食べかけのゼリーを見て、苑子は悪戯を思いついた。
 物凄く、くだらない内容だ。

「食べたい?」

 苑子の視線を追う秋に見せるように手に持ったそれを傾けた。
 残り一口となったゼリーを器用に掬い、ぷるぷると震える半透明のそれを唇に寄せる。
 そのまま口に入れるのかと思えば、それは秋の目の前に差し出された。

「あげる」

 所謂あーんのポーズに秋は目を白黒させる。

「……え!? い、いいんですかっ」
「うん。最後の一口だけど……」

 苑子は満面の笑みを浮かべながら慌てる秋の反応を楽しんでいた。

「秋くんは、特別だから」
「!?」

 特別という甘美な響きに秋は頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。
 秋の胸の内に葛藤という名の嵐が吹き荒れる。

(本当に食べていいのかな? いや、滅茶苦茶食べたいけど! てか、むしろもっと別のものがたべ……いやいや! 贅沢になりすぎだろう俺っ そ、苑子先輩を、食べたいなんて……! でもでも苑子先輩のあーんとかめっちゃ可愛いし、なんか唇……じゃ、なくて…… ゼリーがぷるぷる……) 

 様々な葛藤で額に汗を薄っすらと滲ませる秋に苑子は自分の調子が戻るような、いや上がるような高揚感に悪戯心がどんどん増していくのを自覚していた。
 語尾の甘さはもちろんわざとだ。
 今の苑子はかなり機嫌がいい。
 そして後のことはまったく考えていない。
 もう秋とは別れた前提でいたことすら忘れていた。
 そんな面倒なことはさっさと忘れ、苑子はこてんと首を傾げてうるうる上目遣いで秋にちょっとだけ哀し気な顔を見せる。
 どう見ても媚に媚びている女の顔だが、世の女が歯ぎしりしそうなぐらい隙がない。
 つまり、文句なしに可愛いのだ。
 元から苑子馬鹿な秋には堪らないだろう。

「……食べたくないの?」
「たっ、食べたいっす!」

 しゅんと、落ち込む苑子など滅多に見られない。
 落ち込むどころか駄々をこねるという大変珍しいものを先ほど秋は見ていたのだが、これはそれらとは比較にならないほどの破壊力がある。

 苑子は秋が突然のラッキーに慌てていることを知っていた。
 純情な秋を揶揄い、思春期特有の脆い理性を弄ぶことが心底楽しく、罪悪感など欠片も湧かなかった。
 いい加減腕が疲れた苑子は恐る恐ると顔を近づけて来る秋の口元にぷるんっとしたゼリーを押し付ける。

「あーん♡」

 上目遣いで、舌足らずに苑子が甘えて落ちなかった男はいない。

「いっ、いただきますっ!」

 無駄にお行儀の良い秋はさっきまでの躊躇いが嘘のように大口を開けてスプーンを銜えた。
 もはやゼリーを食べているのか、スプーンを食べているのか分からないほどの勢いだ。

(ふん。ちょろいちょろい)

 苑子はにやにやと笑う。
 勢い良く咥えすぎたせいで先端が喉の奥に当り噎せている秋がより苑子の笑いを誘った。

「げほっげほっっ…… ヴェッ」
「ねぇ? 美味しかった? 最後の一口」
「はっ、はい……」
「よしよし」

 苦しそうに涙を浮かべる秋の少し硬い髪を撫でつつ、そっとその膝に手をつく。
 ぴくっと苑子の手の感触に反応する筋肉。
 素直な秋の身体は嫌いではない。
 今は特に。

「秋くん」

 なんだかとっても、エロい気分の今は。
 目の前の秋はとても都合の良い存在だった。

「エッチなこと、しよっか?」

 さすがに本番は自重しようと思う。



* *


 苑子先輩がエロい。

「んっ、んぅ」

 はふはふと自分の乱れた呼吸音がどこか遠い世界の出来事のようだ。
 秋の意識は苑子の薄っすらと染まった目元や濡れた睫毛に夢中だった。
 下から秋の唇に吸い付いたり、舐めたり齧ったりと遊んでいた苑子は必死に理性で身の内側で滾る熱と衝動を抑えようとする秋に悪戯し愉しんでいる節すらあった。

「まだ、大人しくしててね」
「っ、はい」

 苑子のシャンプーの匂いも、石鹸の匂いに混ざる仄かな体臭も、全て秋は記憶している。
 昨日の体験はそれだけ秋にとって強烈であり、幸福に満ちたものだった。
 苑子が秋の首に腕を回そうとする。
 もっと近くに、キスがしやすい体勢を探しているのか、膝立ちになり寄りかかってくる華奢で柔らかな肢体を秋は恐る恐る抱き込んだ。
 無意識にその匂いを嗅ぐように苑子の首筋に鼻を埋める。
 苑子は擽ったそうに笑うだけで拒まなかった。
 くんくんと本当の犬のように甘えた仕草を見せるくせに、秋の下半身は俗物的なまでに昂っている。
 胡坐をかいているせいで、まったく隠れていない秋の股間を苑子はこれからどう甚振ってやろう、いや、可愛がってやろうかと悩みながら手を伸ばした。

「っ……!?」

 恍惚の表情で苑子の匂いを嗅いでいた秋は敏感にその手の感触を感じ取り、思わず苑子の顔を凝視した。
 くすくすと笑う苑子は昨日とはまた違う雰囲気を醸し出していて、秋は冷や汗をかきながらも期待してしまう。

「……本当、秋くんっていい子だね」

 ぎゅうっと繊細な苑子の手が盛り上がったテントをわし掴む。

「私の言うこと、なんでも聞いてくれる。彼氏っていうよりも、ワンコ飼ってるみたい」

 密着した身体は制服越しでも互いの熱が十分すぎるほど伝わり、秋は自分の鼓動が苑子にも伝わっていないかとか、今更ながら汗をかいた自分の匂いなどが気になったりした。
 実に可愛らしい、秋らしい悩みだ。

「もう、こんなに大きくなってる」
「くっ……」

 苑子の細められた目がじっくりと秋の下半身を捉える。
 つうっと爪で引っ掻くように膨張したそれを苑子はなぞり、布越しにぴくぴくと震える男性器の反応を愉しんだ。

「っぁ、そ、その、こっ、せんぱい」
「女みたい」

 ちらっと上目遣いで見れば、まるで喘いでいるかのように必死に耐える秋の顔が目に入った。
 涙目になりながら、秋は苑子の言う通りに大人しくしている。

「気持ちいい?」

 今にも舌なめずりしそうな、苑子の嗜虐的な笑みに秋はドキドキした。

「ちょっと触っただけで、もうぱんぱん…… 女みたいに喘ぐし、泣いているし…… なーんでも言うこと聞いちゃうし」
「せ、せんぱい」
「本当、秋くんって変態だよね」
「うっ……」

 苑子は笑いながらも秋の性器を布越しに弄る。
 そして荒い呼吸を繰り返す秋の耳を舌と歯で嬲りながら、その性的興奮を無理矢理引き出し昂らせた。
 無理矢理といっても秋はもう苑子がその気になっていない段階から既に危険な兆候を見せていたため、苑子はただ軽くそれを撫でるだけでよかった。

ちゅく、ちゅくっ

 時折思い出したように秋の口内を舌で蹂躙し、必死に答えようとする秋からわざと逃げて遊んだりもした。
 ディープキスなど、半ばファンタジーのような性知識しか持っていない秋には早すぎたし、苑子の唇が離れた途端にショックを受けたように顔を歪める秋がとても面白かったのだ。
 苑子の舌を絡めとろうと、餌を強請る犬のように舌を差し出す秋に苑子は生意気だとばかりにその首筋を噛んでやった。
 秋にとってはご褒美かもしれないが。
 大事なところを苑子に握られた秋はただただ翻弄されるしかなかった。

「はぁ、はあ……っ」
「痛い? 気持ちいい?」

 唾液で濡れた唇を舐めながら、苑子は手の動きを速める。
 じじ……とジッパーを下げる苑子の手を押しとめようと咄嗟に秋は手を伸ばした。
 が、ぺちんっと苑子に手を叩かれてしまいそれ以上制止できなかった。
 窮屈なそれのせいで上手くジッパーが下がらず、秋は快楽とは違う痛みに呻いたが、苑子は容赦なく乱暴に力づくで下ろしていく。

「もう、秋くんちょっと縮めて。開けらんない」
「すっ、すいません」

 ぶらぶらと上下左右に手を動かす苑子からの理不尽な叱責に秋はしゅんと項垂れたが肝心の屹立したものはぴんぴんしていた。
 途中、皮が挟まらなかったのは幸運だ。

 ジッパーを下げると灰色のパンツが目に入った。
 びっしょりと濡れているのが分かり、苑子は意地悪そうに秋を見上げる。

「漏らしちゃった?」
「ちっ、ちがっ……!」

 もちろん冗談だ。
 苑子なりのジョークである。
 ぐいぐいと乱暴に勃起した性器を取り出す苑子には恥じらいも気遣いもない。
 もわんっと、パンツの中で蒸れたそれを苑子の白い手がためらいもなく触れている。
 背徳的な光景に秋は眩暈がしそうだった。
 ぴくぴくと嬉しそうに脈打つ正直な下半身に赤面し、半泣き状態の秋の方がよっぽど乙女の風情がある。

「うわっ、べとべと…… さいあく」

 羞恥と背徳感、罪悪感に耐えている最中に苑子のぼそっと漏れた呟きが秋の耳に入らなかったのは幸運だ。
 秋という男は基本的に運とタイミングが良い。
 苑子と違い日頃の行いが良いからだろう。
 日頃の行いが悪い苑子は一瞬だけ元気が有り余っている秋の下半身のぬめぬめした手触りにうわーと顔を顰めたが、気を取り直してその根元を握り、扱いてやる。
 中に溜まっているであろう精液を絞り出すように、感覚的にいえば牛の乳しぼりをしているつもりで苑子は手を動かした。
 その動きはやさしさとは程遠く、苑子も丁寧にしてやる義理も義務も思いやりもなかったため、とっとと射精しろとばかりにしこしこと雑に扱いた。
 しこしこというよりも、もはやごしごしという方が相応しいだろう。
 濡れているからまだしも、通常モードでこれをやられれば繊細な男性器を持つ世の男は悲鳴を上げるかもしれない。
 それぐらい苑子は容赦がなく、また秋の反応が良すぎた。

「はは、こんな乱暴にやっても、気持ちいーんだ?」
「うっ…… ッ、はぁっ、はぁっ……」

 痛いと伝えたいのに、秋の口から洩れるのはいじらしい喘ぎだ。
 例え伝えたとしても、苑子は止めなかっただろう。
 秋の頭は必死に痛い痛いと訴えているのに、当の秋の生殖器はなんの誤作動か喜んでいるのだから。

「秋くんって、マゾっ気があるよね」

 その反応に苑子は小馬鹿にするように嘲った。

「っ、そ、そんなこと……」
「自覚がないの? こんなに汁垂らしといて?」

 真っ赤に染まりつつある秋の視界に苑子の手に収まりつかないぐらいに膨張し硬くなった自身の分身が映る。
 涎を垂らし、苑子の手に歓喜しているのが丸わかりで、秋は近づく射精の快感のせいもあってか本当に痛いのか気持ちいいのか訳が分からなくなってきた。
 痛いはずなのに。
 だって、苑子はぎゅうぎゅうと、もうそれは牛の乳しぼりというよりも雑巾を絞っているぐらいのあれな扱いをしているのだ。
 痛いはずだ。
 実際に痛い。
 でも、気持ちいい。
 痛くてもいいから、苑子にもっと触って欲しい、意地悪でもいいからぎゅうってして欲しいと秋は脂汗なのかなんなのか分からない汗をかきながら馬鹿になった頭で思った。
 そして自身に襲い掛かる射精感を必死に耐えていた。

「ほーら、もうイきそう」

 ぬめぬめした性器を扱きながら、苑子はもうすぐ秋が限界を迎えることを悟り、尿道に爪をたててやった。
 元から敏感な秋の性器はその刺激で一気に脈打ち一回り膨らむ。
 まったく手を付けていなかった秋の睾丸が収縮し、ぞくぞくするような刺激が秋を苛む。

「て、手を…… もう、俺っ、我慢できな……ッ!」
「本当、イくの早いよね、秋くんは。若いから? それとも、痛くされるとより感じちゃうから?」
「ち、ちがっ」

 歯が軋むほど噛み締め、秋はなんとか射精を耐えようとした。
 苑子の手の中に吐き出さないため、もしくは健気にも「大人しくして」という苑子の戯言を守ろうと秋は必死だ。

 だが、どこまでも苑子は意地悪で、そしてろくでもないものに興奮する厄介な嗜好の持ち主だった。

「……すごい、こんなに硬くなって破裂しそうなのに、まだ頑張れるんだね」

 苑子は秋が苦しそうに耐えようとする姿に興奮していた。

「秋くん」

 ふぅーふぅーと必死に呼吸を整える秋の顔は真っ赤だ。

「さっき、私に聞いてたこと…… まだ覚えてる?」

 秋のことが好きかどうか、秋は苑子に聞いた。

「ね? 信じられないかもしれないけど」

 甘く、溶けてしまいそうな声で苑子は秋の理性を溶かす。
 そこには揶揄いと、頑固な秋を陥落してやろうという底意地の悪い欲も含まれている。

「私ね、君のこと」

 ぎゅっと、その根元を握りしめ、歯形がついた耳元に囁く。

「好きになっちゃったかも」

 なーんてね。



* * *


 まん丸に目を見開き、予想通りに今までの秋の我慢はなんだったのかと思うほど、呆気なく秋は射精した。

 びゅるびゅると、発射された白濁が苑子の手にかかり、濡らす。

「そ、そにょ、こ…… せん、ぱい……?」

 呂律が上手く回らないのは射精による快感のせいだけではない。
 秋は本当に、恋する乙女のような表情で信じられないとばかりに苑子を見た。
 その視線を受け止めながら、苑子は手にかかった白濁を見せつける。

「あーあー…… 汚れちゃった」

 あまりにも秋の表情が可笑しくて、苑子はけらけらと笑う。
 苑子は怖いぐらい真剣な秋の視線から目を逸らしつつ、手にかかった精液を口に含み、こくんとわざとらしく呑み込んでやった。

(うぇー…… まずー)

 それにつられるように秋の喉仏が大きく上下する。
 精液のまずさと喉に絡みつく感覚にうんざりしながら、苑子は嘯く。

「秋くんのこと、好きになっちゃった」

 精液とともに、「たぶん」という台詞も呑み込んだ。



* * *


 昼休みはとっくに終わっている。
 遠くでチャイムが鳴る音を聞きながら、苑子は椅子に座りながら秋の下手くそな愛撫を受けていた。

「んっ……」

 いつ、誰が来るかもしれない中で行われる秘め事。
 ぴちゃぴちゃと、粘液が擦れる音。

「ふうっ、ふうっ」
「んぅ、んっ…… っぁ!」

 鼻息の荒い秋の呼吸音と時折零れる苑子の甘い吐息だけが二人しかいない音楽室に響いていた。

 苑子の片手にはぐちゃぐちゃになったショーツが握られている。
 秋一人だけが絶頂を迎えたことがなんとなく不満で、目の前で挑発するようにスカートを捲りゆっくりとレースのついたそれを下した。
 その結果が、今の現状だ。

「せ、んぱいっ、き、きもちいい、ですか?」

 生温かく湿った吐息が苑子の敏感なところを擽り、薄い陰毛を撫でる。
 秋の滑った舌が馬鹿の一つ覚えのように苑子の陰部を舐めていた。
 椅子に腰かける苑子の白い太ももは跪く秋の肩に置かれている。
 スカートに皺が出来ないようにたくし上げ、秋の初愛撫クンニを受け入れていた。
 ぎゅっと自分の股間に埋もれているその短い頭髪を掴む。
 稚拙な愛撫でも、一番敏感な性器をいじくりまわされる快感に苑子の背中から静電気に似た刺激が駆け昇る。
 だが、まだ決定打に欠ける。
 経験豊富な苑子はこの先のもっと強い刺激と快感を知っている分物足りなさを感じていた。
 舐めるだけではなく、ちゃんと感じるところを吸ってほしい。
 興奮した秋の吐息がかかり、ぴくぴくと襞が収縮する。
 ギラギラとした目で秋がそれを観察しているのが分かった。
 いくら自分から脱いだとはいえ、あまりじろじろ見ないで欲しい。
 咎めるように髪を引っ張れば秋の口から恍惚のため息が零れる。

「苑子先輩のここ、すっげー綺麗……」

 なんて、目が腐っているとしか思えない、もしくはフィルターがかかりすぎた秋の世迷言に苑子はくすくすと笑った。
 こんな場面で笑わせないでほしいと思いつつ。

「目ぇ可笑しいんじゃない?」

 ぎゅっと太ももで秋の顔を挟んでやると、顔を真っ赤にして苑子を見上げて来る。

「可笑しくないです…… 苑子先輩は全部が綺麗です」
「夢見すぎだよ秋くん。美化しすぎ。私だっておしっこするし、うんちもするし。今秋くんが舐めたとこだって、おしっこ臭かったでしょう?」

 秋があまりにも苑子に対して盲目で、好きすぎる現状が可笑しくて仕方がなかった。
 わざとらしく下品なことを言っても、ちっとも揺るがない。
 それどころかちょっと興奮しているような節もある。
 そこはあまり深く掘り下げない方がいいかもしれない。

「初めてだから仕方ないけど……さ」

 秋を見下すのは気分がいいと思いながら、苑子は唾液やらその他の液で濡れた秋の唇を撫でた。

「へたくそ」
「うっ……」

 苑子の評価にしょぼんと見えない耳を垂らす秋の口に指を突っ込む。

「がっつきすぎ。気持ちいいけど、これじゃイけない」
「しゅ、しゅみましぇん……」
「しょーがないから、やり方教えてあげる」

 人差し指と親指で秋の肉厚な舌を摘まみながら、苑子は太ももを大きく開脚させた。
 舌を引っ張り、自身の陰部に導く。

「舌の先尖らして…… そう、そんな感じ。周りから舐めて…… んっ、そう…… っぁ、もっと、ゆ、くり…… んっ、もっと、じらして……」

 ぴちゃ、ぢゅる……

 苑子の指示通りに秋は舌を尖らせて襞の皺一つ一つ確認するように丹念にじっくりと舐めていく。
 そうすると苑子の声にとろけるような甘さが滲む。
 ぴくぴくと痙攣し始める陰部に汗ばむ白い太もも。
 苑子の性器の匂いに秋の興奮は最高潮だ。

「ん、いぃ…… はぁんっ、もっと、っん、こん、どは…… くちびるで、はむはむして…… あっ、んっ!」

 じゅるじゅると秋の唾液だけではない苑子の淫液が溢れて来る。
 愛撫に夢中になりながら、秋は苑子の声を聴き洩らさないように健気に耳を傾ける。
 そして、いつの間にか秋の片手はそそり立つ自身の性器を掴んでいた。

「そう、んっ、っあ、ぁ…… す、すって、はぁ、んん、いっ、ぱい……っ のんで……」

 溢れ出る愛液を秋は躊躇いもなく、むしろ貪るようにして啜り呑み干していく。
 苑子の嬌声に歓喜しながら、秋の片手は高速度で自分の性器を扱いていた。

(苑子先輩、すき、愛してる…… ずっと、ずっと先輩と…… 俺…… 苑子先輩と……!)

ちゅうちゅうじゅるじゅるじゅっじく……

「っぁ、ん、あき、くんっ」

 秋の頭を抱え込み、苑子は陶然とその耳元で喘ぐ。

(先輩と、苑子先輩と、一緒にイきたい……)

 秋は自分の強すぎる欲望に眩暈がしそうだった。
 自慰をしながら、苑子の陰部に顔を埋める。
 そのとき、秋の鼻先が今まで触れかった苑子のクリトリスを掠った。

「ひゃっ!」

 焦らしたおかげでぷっくりと赤く充血したそこは秋からの愛撫を待ちわびているかのようだ。
 本能のままに秋はそこに歯を立てる。

「ひぃっ…… あ、だめ、だめぇ……! かんじゃ……っ ぁんっ」

 先ほどまで秋のことを弄び誘惑していた姿と打って変って苑子は弱弱しく秋の髪を掴んで制止しようとする。
 だが、苑子に順従なはずの秋は、その制止を無視して赤く腫れたクリトリスの皮を舌先で剥がし、むきだしになったそこを舌でねっとりと転がし始める。
 秋の突然の暴挙に驚く暇もなく、苑子は一番敏感で繊細なところを念入りにしつこく愛撫され、ただ喘ぐことしかできなくなった。
 僅かに残った理性が、ここが学校であることを認識し、必死に袖を噛んで声を耐えようとする。
 秋は物欲しそうに痙攣するそこに自分の勃起した性器をねじり込み、蹂躙するという妄想を脳内で繰り広げながら激しく上下に扱いた。
 もう、限界だと悟った瞬間、秋は前歯で散々いじくりこねくり回したそこを噛んだ。
 苑子にあえて痛みを与えるために。

 声にならない嬌声とともに、苑子と秋はほぼ同時に果てた。



* * * *


「好きになっちゃったかも」

 予想に反して秋は過剰に喜ぶことも疑心暗鬼になることもなかった。

 ただ、苑子の言葉にぽろぽろと涙を零し、必死に嗚咽を耐えて目を真っ赤にした。
 幸せすぎて泣いてしまったと語る秋は本当に幸せそうに笑い、言った。

「俺のこと、捨てないでください」

 幸せに酔い痴れる姿とは裏腹に、その台詞は切実だった。

 正直、重かった。
 だが、その重みが心地よかったのは事実だ。

 しばらくは秋を飼ってみるのもいいかもしれないと思う程度には心地よかった。

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