嫌われ者の君へ

コリン

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番外編"浮気?(1)

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俺は東崎 弓弦。25歳。
彩月との大恋愛(?)を経て、同棲3年目。

『3年目の浮気ぐらい大目にみてよ~♪』

俺はハッと顔を上げた。
テレビから流れてくるその音楽は世代問わず有名な曲なんじゃないかと思う。
テレビの音楽番組では『世代関係なし!人気曲ランキング!』みたいなことが書いてあった。

ソファーの下のラグマットの上でくつろぎながら紅茶を飲んでいる彩月が興味津々にテレビに魅入っていた。

付き合ってから3年経ったわけじゃないけど、
いままで浮気だとかそんなこと考えたこともなかったから
ドキッとしたわけじゃないけど、なぜか心配になった。

「私もこの曲知ってる~」

「ねぇ、彩月。彩月は今までさ‥」

ー浮気とか考えたことある?

「なにー?」

そんな俺の気も知らずに彩月は俺の隣座って肩にもたれてきた。

「‥聴いた中でなにが一番好き?」

その言葉は呑み込んだ。
彩月と俺なら関係ない。

同棲して3年。
付き合って7年。

そろそろ結婚も考える頃だしなぁ~。
浮気だなんて、ないない。

彩月が嬉しそうに好きな曲を上げ始めた。
一番って言ってるのに。

そっと彩月の髪の毛に手を伸ばして、横からぎゅっと抱きついた。

彩月は恥ずかしそうにやめてよ、とか言ってるけど素直じゃないなぁ~。顔真っ赤にしてるくせに。


その数ヶ月後。
俺は危機感を感じていた。

そう、もちろんその原因は彩月だった。
最近、彩月の様子がおかしい。

帰ってきても、なんか忙しそうだし
コソコソと電話したり、外出が増えた。

前まで電話してる時にそばにいてもどこにも行かなかったのにこの前なんか

「もしもし~?うん、そう。うん、」

彩月が寝室で電話していたから、俺も寝室に行って彩月にくっつこうとした。したらそのまま彩月は俺に見向きもせずにリビングへと消えた。

諦めない俺は、再びリビングに行くと次は浴室へと逃げられた。

携帯もしょっちゅう気にするようになったし、
てかそもそも彩月はあんまり電話しない人だったのに。

俺にあんまり構ってくれなくなった。
そして何より、そうしてる時の彩月はすごく生き生きしててすごく楽しそうなのだ。

俺もそろそろ我慢の限界。
ということで、俺は良き旧友の浩介に連絡を取った。

「なーにー?珍しいね、飲みに誘ってくれるなんて。ところで彩月は一緒じゃないの?」

「そ、そーゆー気分だったんだよ!さ、彩月?家で寝てるんじゃないかなぁ」

妙によそよそしく、たどたどしい俺を見て浩介はニヤッと笑った。

「ま、いいけど。久しぶりに会ったんだし、気兼ねなく話そうよ」

俺と浩介は酌を交わして、語った。

その時、居酒屋のテレビにとある音楽番組がかかった。

そう、あの曲が。

『3年目の浮気ぐらい大目に見てよ~♪』

 「ぶはっっ」

「わー、なんか懐かしい曲だなぁ。そういやなぜか夏子が携帯の着メロこれにしてたわ」

俺は口から出たビールを拭って、それとなく浩介に聞いてみた。

「浩介って浮気とか考えたことある?」
「え、なに。浮気してんの?」

「や!してるわけないよ!そんなに俺、余裕ないし‥それに彩月以外なんて考えらんないし‥」

「なーにー?惚気?俺だっておんなじ。浮気なんてするほど器用じゃないしね。1人のことで精一杯。特に夏子のやつなら尚更ね」

浩介は笑いながらビールをガバッと飲んだ。

「‥じゃあ、逆に浮気されたら?」

「ん?あー‥考えたこともなかったなぁ。浮気しそうだなんて思ってないし、そもそも疑う余地もないというか。」

「夏子は愛が溢れてるからなぁ‥」

『膝をついて謝ったって許してあげない♪』

もし、彩月が仮に浮気してたとして。
俺はどうするんだろうか。
この曲のように膝をついて謝られたら、というか
謝られなくたって俺は彩月の側から離れられないと思う。
だって、彩月以外は考えられないし彩月が俺以外の人といることも想像したくない。だから‥

「あ、でもそーいや最近夏子変だわ」

「変っていうと?」

「なんか、よそよそしくなったっていうか。携帯気にする回数増えたし電話もしょっちゅうし出した。デートに誘っても用事があるって断られる回数増えたし」

「いや、まじかよ。もしかして‥」

そう言いかけたところで浩介の携帯が鳴った。
どうやら、夏子だ。
俺に一瞥をくれると席を立って店を出て行った。

俺も彩月から連絡が‥と期待して、メールを開いてみたけれど、彩月が俺の文を既読して終わっている。

付き合い始めは割と電話したりメールしたり、マメに連絡は取っていたが、さすがに同じ家に住んでいると連絡は必要最低限になっていた。今日は出かけるとか、帰りが遅いとか。

五分ほどして浩介が戻ってきた。

「やー、悪いね。夏子から電話があってさ」

「なんて?」

「怒られた。早く帰って来いって」

「愛されてんね~。もう遅いし、そろそろお開きにするか」

コイバナとか相談とかそれよりも先に仕事が最近どうだとかそういう話が長引いたせいで、すでに12時になっていた。

「じゃあまた、」

夏子はまだ浩介を待って起きていた。
そして、家で待っている。

彩月はもう寝てるんだろうなと、思いながら一応連絡を送った。

ー今帰るね。

既読がつかない画面を消して、俺は終電に乗った。
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