2 / 12
プロローグ
出逢い
しおりを挟む
それは、とある雨の夜だった。
その日はいつもより残業が長く会社を出る頃には辺りにはすっかり闇が広がっていて、季節はずれの冷たい風が僕の肌を鋭く刺した。
僕は足早に改札を抜け、家へと向かって歩きだした。
ほどなくして、新築の住宅が建ち並ぶ細い通りに差し掛かった。
この住宅街を抜けて少し行けば家はもう目の前だ。
辺りには寂しい暗闇が広がっているが、古い街灯がぼんやりとした光で僕の行く道を照らしてくれている。
そんな街灯のひとつが不規則に点滅を繰り返している事に気が付いた。
僕は特に気にするでもなく歩をすすめる。
点滅を繰り返す街灯のすぐ近くまで差し掛かった時に僕の視線が捉えたものがある。それは小さなダンボール箱だった。
ダンボール箱が点滅する街灯の下にぽつんと置かれている。
ダンボール箱の側面には《豊田イチゴ園》と書かれていた。
僕はそのダンボールの中をちらりと覗いてみた。
箱の中には空を覆う闇の一部を切り取ったのではと思うほど、真っ黒な物体が収まっていた。
箱の中で黒い物体がもぞもぞと動き出す。
そのままじっと観察していると、やがて黒い物体の正体が明らかになった。
それは鮮やかな金色の目をした黒猫であった。
「ーーーーンニャオ」
黒猫は僕のことを見上げると、図太い声でそんな風に鳴いた。
10歳は超えていそうな黒猫は雨に濡れて毛が逆立っており、見ようによってはハリネズミのようにも見える。
いまどき珍しい捨て猫だろうか?
黒猫が身体をふるると震わせると、いくつもの細かい水しぶきが勢いよく辺りに飛び散った。
僕は黒猫が収まっているダンボール箱の前に屈み込み、そっと手を差し伸べる。
「ーーーーンニャオ」
またも図太い声で鳴いた黒猫は首をもたげて僕の手の匂いを嗅いだ。
黒猫は目を細め熱心に僕の手の匂いを嗅いでいる。
その様子はまるで何かを確かめているようだった。
そのまま数秒間が過ぎた頃、黒猫はすっくとその場に立ち上がり今までで1番激しく身体を震わせた。
すると僕はとある事に気がついた。
黒猫の足元には小さな薄茶色の毛玉があって、もぞもぞと動いているのだ。
「ーーーーンニャオ」
黒猫は僕を見つめながら鳴いた。
小さなその毛玉はもぞもぞと動き回り、やがてピンク色の舌を覗かせあくびをした。
「ーーーーみゃあ」
と、か細い声で鳴いた。
生後1週間くらいであろう弱々しい細い身体つきである。
僕は仔猫が雨で濡れてしまわないようにすぐに両手で抱きかかえた。
仔猫は僕の手の上でバランスを崩し、ぽてっと転ぶと再び『みゃあ』と愛らしく鳴き声をあげるのだった。
その後、黒猫はひょいとダンボール箱から出ると小さく鳴いてどこかに向かって歩き出した。
「あ、ちょっと!」
僕の呼びかけには答えようとせず黒猫は夜の闇の中へと消えていった。
その場には僕と茶トラの仔猫だけが残されてしまった。
傘を叩く雨音が一層強くなってきた。
早く自宅に帰らなければという気持ちが高まる。
結局、僕はその仔猫を抱えたまま自宅に帰ることにした。
その先の事なんてまるで考えてはいないけれど、仔猫をこのままこの場に放置して帰るのはどうしても出来なかった。
仔猫は僕の指先を咥えるようにして、みゃあみゃあと鳴き続けた。
その日はいつもより残業が長く会社を出る頃には辺りにはすっかり闇が広がっていて、季節はずれの冷たい風が僕の肌を鋭く刺した。
僕は足早に改札を抜け、家へと向かって歩きだした。
ほどなくして、新築の住宅が建ち並ぶ細い通りに差し掛かった。
この住宅街を抜けて少し行けば家はもう目の前だ。
辺りには寂しい暗闇が広がっているが、古い街灯がぼんやりとした光で僕の行く道を照らしてくれている。
そんな街灯のひとつが不規則に点滅を繰り返している事に気が付いた。
僕は特に気にするでもなく歩をすすめる。
点滅を繰り返す街灯のすぐ近くまで差し掛かった時に僕の視線が捉えたものがある。それは小さなダンボール箱だった。
ダンボール箱が点滅する街灯の下にぽつんと置かれている。
ダンボール箱の側面には《豊田イチゴ園》と書かれていた。
僕はそのダンボールの中をちらりと覗いてみた。
箱の中には空を覆う闇の一部を切り取ったのではと思うほど、真っ黒な物体が収まっていた。
箱の中で黒い物体がもぞもぞと動き出す。
そのままじっと観察していると、やがて黒い物体の正体が明らかになった。
それは鮮やかな金色の目をした黒猫であった。
「ーーーーンニャオ」
黒猫は僕のことを見上げると、図太い声でそんな風に鳴いた。
10歳は超えていそうな黒猫は雨に濡れて毛が逆立っており、見ようによってはハリネズミのようにも見える。
いまどき珍しい捨て猫だろうか?
黒猫が身体をふるると震わせると、いくつもの細かい水しぶきが勢いよく辺りに飛び散った。
僕は黒猫が収まっているダンボール箱の前に屈み込み、そっと手を差し伸べる。
「ーーーーンニャオ」
またも図太い声で鳴いた黒猫は首をもたげて僕の手の匂いを嗅いだ。
黒猫は目を細め熱心に僕の手の匂いを嗅いでいる。
その様子はまるで何かを確かめているようだった。
そのまま数秒間が過ぎた頃、黒猫はすっくとその場に立ち上がり今までで1番激しく身体を震わせた。
すると僕はとある事に気がついた。
黒猫の足元には小さな薄茶色の毛玉があって、もぞもぞと動いているのだ。
「ーーーーンニャオ」
黒猫は僕を見つめながら鳴いた。
小さなその毛玉はもぞもぞと動き回り、やがてピンク色の舌を覗かせあくびをした。
「ーーーーみゃあ」
と、か細い声で鳴いた。
生後1週間くらいであろう弱々しい細い身体つきである。
僕は仔猫が雨で濡れてしまわないようにすぐに両手で抱きかかえた。
仔猫は僕の手の上でバランスを崩し、ぽてっと転ぶと再び『みゃあ』と愛らしく鳴き声をあげるのだった。
その後、黒猫はひょいとダンボール箱から出ると小さく鳴いてどこかに向かって歩き出した。
「あ、ちょっと!」
僕の呼びかけには答えようとせず黒猫は夜の闇の中へと消えていった。
その場には僕と茶トラの仔猫だけが残されてしまった。
傘を叩く雨音が一層強くなってきた。
早く自宅に帰らなければという気持ちが高まる。
結局、僕はその仔猫を抱えたまま自宅に帰ることにした。
その先の事なんてまるで考えてはいないけれど、仔猫をこのままこの場に放置して帰るのはどうしても出来なかった。
仔猫は僕の指先を咥えるようにして、みゃあみゃあと鳴き続けた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
包帯妻の素顔は。
サイコちゃん
恋愛
顔を包帯でぐるぐる巻きにした妻アデラインは夫ベイジルから離縁を突きつける手紙を受け取る。手柄を立てた夫は戦地で出会った聖女見習いのミアと結婚したいらしく、妻の悪評をでっち上げて離縁を突きつけたのだ。一方、アデラインは離縁を受け入れて、包帯を取って見せた。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
冷遇妃マリアベルの監視報告書
Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。
第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。
そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。
王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。
(小説家になろう様にも投稿しています)
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
Zinnia‘s Miracle 〜25年目の奇跡
弘生
現代文学
なんだか優しいお話が書きたくなって、連載始めました。
保護猫「ジン」が、時間と空間を超えて見守り語り続けた「柊家」の人々。
「ジン」が天に昇ってから何度も季節は巡り、やがて25年目に奇跡が起こる。けれど、これは奇跡というよりも、「ジン」へのご褒美かもしれない。
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる