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プロローグ
出逢い
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それは、とある雨の夜だった。
その日はいつもより残業が長く会社を出る頃には辺りにはすっかり闇が広がっていて、季節はずれの冷たい風が僕の肌を鋭く刺した。
僕は足早に改札を抜け、家へと向かって歩きだした。
ほどなくして、新築の住宅が建ち並ぶ細い通りに差し掛かった。
この住宅街を抜けて少し行けば家はもう目の前だ。
辺りには寂しい暗闇が広がっているが、古い街灯がぼんやりとした光で僕の行く道を照らしてくれている。
そんな街灯のひとつが不規則に点滅を繰り返している事に気が付いた。
僕は特に気にするでもなく歩をすすめる。
点滅を繰り返す街灯のすぐ近くまで差し掛かった時に僕の視線が捉えたものがある。それは小さなダンボール箱だった。
ダンボール箱が点滅する街灯の下にぽつんと置かれている。
ダンボール箱の側面には《豊田イチゴ園》と書かれていた。
僕はそのダンボールの中をちらりと覗いてみた。
箱の中には空を覆う闇の一部を切り取ったのではと思うほど、真っ黒な物体が収まっていた。
箱の中で黒い物体がもぞもぞと動き出す。
そのままじっと観察していると、やがて黒い物体の正体が明らかになった。
それは鮮やかな金色の目をした黒猫であった。
「ーーーーンニャオ」
黒猫は僕のことを見上げると、図太い声でそんな風に鳴いた。
10歳は超えていそうな黒猫は雨に濡れて毛が逆立っており、見ようによってはハリネズミのようにも見える。
いまどき珍しい捨て猫だろうか?
黒猫が身体をふるると震わせると、いくつもの細かい水しぶきが勢いよく辺りに飛び散った。
僕は黒猫が収まっているダンボール箱の前に屈み込み、そっと手を差し伸べる。
「ーーーーンニャオ」
またも図太い声で鳴いた黒猫は首をもたげて僕の手の匂いを嗅いだ。
黒猫は目を細め熱心に僕の手の匂いを嗅いでいる。
その様子はまるで何かを確かめているようだった。
そのまま数秒間が過ぎた頃、黒猫はすっくとその場に立ち上がり今までで1番激しく身体を震わせた。
すると僕はとある事に気がついた。
黒猫の足元には小さな薄茶色の毛玉があって、もぞもぞと動いているのだ。
「ーーーーンニャオ」
黒猫は僕を見つめながら鳴いた。
小さなその毛玉はもぞもぞと動き回り、やがてピンク色の舌を覗かせあくびをした。
「ーーーーみゃあ」
と、か細い声で鳴いた。
生後1週間くらいであろう弱々しい細い身体つきである。
僕は仔猫が雨で濡れてしまわないようにすぐに両手で抱きかかえた。
仔猫は僕の手の上でバランスを崩し、ぽてっと転ぶと再び『みゃあ』と愛らしく鳴き声をあげるのだった。
その後、黒猫はひょいとダンボール箱から出ると小さく鳴いてどこかに向かって歩き出した。
「あ、ちょっと!」
僕の呼びかけには答えようとせず黒猫は夜の闇の中へと消えていった。
その場には僕と茶トラの仔猫だけが残されてしまった。
傘を叩く雨音が一層強くなってきた。
早く自宅に帰らなければという気持ちが高まる。
結局、僕はその仔猫を抱えたまま自宅に帰ることにした。
その先の事なんてまるで考えてはいないけれど、仔猫をこのままこの場に放置して帰るのはどうしても出来なかった。
仔猫は僕の指先を咥えるようにして、みゃあみゃあと鳴き続けた。
その日はいつもより残業が長く会社を出る頃には辺りにはすっかり闇が広がっていて、季節はずれの冷たい風が僕の肌を鋭く刺した。
僕は足早に改札を抜け、家へと向かって歩きだした。
ほどなくして、新築の住宅が建ち並ぶ細い通りに差し掛かった。
この住宅街を抜けて少し行けば家はもう目の前だ。
辺りには寂しい暗闇が広がっているが、古い街灯がぼんやりとした光で僕の行く道を照らしてくれている。
そんな街灯のひとつが不規則に点滅を繰り返している事に気が付いた。
僕は特に気にするでもなく歩をすすめる。
点滅を繰り返す街灯のすぐ近くまで差し掛かった時に僕の視線が捉えたものがある。それは小さなダンボール箱だった。
ダンボール箱が点滅する街灯の下にぽつんと置かれている。
ダンボール箱の側面には《豊田イチゴ園》と書かれていた。
僕はそのダンボールの中をちらりと覗いてみた。
箱の中には空を覆う闇の一部を切り取ったのではと思うほど、真っ黒な物体が収まっていた。
箱の中で黒い物体がもぞもぞと動き出す。
そのままじっと観察していると、やがて黒い物体の正体が明らかになった。
それは鮮やかな金色の目をした黒猫であった。
「ーーーーンニャオ」
黒猫は僕のことを見上げると、図太い声でそんな風に鳴いた。
10歳は超えていそうな黒猫は雨に濡れて毛が逆立っており、見ようによってはハリネズミのようにも見える。
いまどき珍しい捨て猫だろうか?
黒猫が身体をふるると震わせると、いくつもの細かい水しぶきが勢いよく辺りに飛び散った。
僕は黒猫が収まっているダンボール箱の前に屈み込み、そっと手を差し伸べる。
「ーーーーンニャオ」
またも図太い声で鳴いた黒猫は首をもたげて僕の手の匂いを嗅いだ。
黒猫は目を細め熱心に僕の手の匂いを嗅いでいる。
その様子はまるで何かを確かめているようだった。
そのまま数秒間が過ぎた頃、黒猫はすっくとその場に立ち上がり今までで1番激しく身体を震わせた。
すると僕はとある事に気がついた。
黒猫の足元には小さな薄茶色の毛玉があって、もぞもぞと動いているのだ。
「ーーーーンニャオ」
黒猫は僕を見つめながら鳴いた。
小さなその毛玉はもぞもぞと動き回り、やがてピンク色の舌を覗かせあくびをした。
「ーーーーみゃあ」
と、か細い声で鳴いた。
生後1週間くらいであろう弱々しい細い身体つきである。
僕は仔猫が雨で濡れてしまわないようにすぐに両手で抱きかかえた。
仔猫は僕の手の上でバランスを崩し、ぽてっと転ぶと再び『みゃあ』と愛らしく鳴き声をあげるのだった。
その後、黒猫はひょいとダンボール箱から出ると小さく鳴いてどこかに向かって歩き出した。
「あ、ちょっと!」
僕の呼びかけには答えようとせず黒猫は夜の闇の中へと消えていった。
その場には僕と茶トラの仔猫だけが残されてしまった。
傘を叩く雨音が一層強くなってきた。
早く自宅に帰らなければという気持ちが高まる。
結局、僕はその仔猫を抱えたまま自宅に帰ることにした。
その先の事なんてまるで考えてはいないけれど、仔猫をこのままこの場に放置して帰るのはどうしても出来なかった。
仔猫は僕の指先を咥えるようにして、みゃあみゃあと鳴き続けた。
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