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エピソード・オブ・少年
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「えー。カルロス……ちゃん……ありがとうございました」
副団長デイルさんは苦虫を噛み潰したような表情で言って、大会をそそくさと進行する。
「それでは、只今より! 第100回ベネツィ武道大会を開催致します。選手の諸君、ご武運を!」
デイルさんは右手を胸の前に掲げて声高らかにそう言った。
どうやらようやく始まるらしい。しかもちょうど100回目の武道大会だったとは、今まで気が付かなかった。この大会を見学するのは確か5回目の勇者人生の時以来だから考えてみるととんでもない大昔って事になるな。大体1回の勇者人生は平均2年か3年くらいで終えるから……約200年ぐらい前って事になるのか。
……俺は200年以上も勇者ばかりやって、いったい何がしたいんだ。
何が、というか普通に勇者以外がやりたい。
しかし。同じ100回目という事実は若干以上に親近感を持ってしまう。
実に好感が持てる大会ではあるけれど、今は武道大会だ。集中集中。
綺麗に整列していた子供達は3つのグループに分かれその場に座り込んで、何やら熱心に紙面を覗き込んでいる。
していると、俺の座る観客席にも順次紙面が配布されて皆して紙面に釘付けになる。
「なになに……」
渡された紙面に書かれていたものは武道大会の対戦相手を記した一覧表だった。
紙面に書かれた小さな文字を指でなぞりながら俺は必死に探す。
「パ……パ……パルト……パ……パズーじゃない。パ……パ……パティ。パティ。あっこれか」
沢山の名前が書かれた中から少年パティの名前を見つけ出せたのが地味に嬉しかった。
大会は小さな子供達が出場する部とパティ達くらいの少年が出場する部と、大きな子供達が出場する部の3つあるらしい。
広場に白線で描かれた三つの長方形の中で3組同時に試合を行うようだ。試合に使う物は剣、槍、斧、棒を模して作った特殊な木剣のようなもので当たっても怪我をしないように武器と防具には緩衝材が取り付けられている。5点先取制の試合で1試合に護衛騎士団4名がかりで審判を行うという贅沢っぷりである。
「うちの子の相手は……パティ君……初めて聞く名前ね。初心者かしら? 初戦は貰ったわね」
突如前方より聞こえてきたそんな言葉に俺は心の中で『その子めっちゃ強いですよー』と、注意を促しておいた。
そうか。初出場のパティは一番街と二番街の道場からは知られていない完全にノーチェックなダークホース的な存在となるわけか。
これはもしかすると大番狂わせになるのかも知れない。
そんな大会の結末を知る数少ない者として今から胸がわくわくしっぱなしである。
前方にいる対戦相手の子の母親には申し訳ないが、きっと落胆する結果になるだろう。
再び紙面に視線を落として対戦相手の子の名前を確認する。
「……ハデス……君……」
神々しいというべきか、禍々しいというべきか、どんな気持ちでお呼びすれば失礼に当たらないのだろう、と考えさせられる名前だ。
ちらりと母親の後頭部を見て、お母さんいったいどんなテンションで名前つけたんだよ……。
「に……二回戦の相手は⁉︎」
指でなぞって二回戦の対戦相手の子を確認する。
「カオス……君か、ナイトメア君のどちらか……」
混沌の奥底から生まれた、あるいは混沌を生み出したようなそんな名前だな。
言い知れぬ不安感が俺を襲いだしたので、その他の出場選手の名前もチェックしてみる。
「ジェハード君……デスパウロ君……闇をも凌駕せし者ーーーーって何だこれぇぇぇ! どこのラスボス図鑑⁉︎ 闇をも凌駕せし者って何⁉︎ 闇の先には何があんの⁉︎」
もはや人の名前じゃないだろこれ。パティは今からいったい何と戦わされるんだよ。
とんだラグナロク勃発だよ!
しかも何気にラスボスと化したパウロさんっぽいのがいるし。
ガネーシャ村のパウロさんではない事をただただ祈るばかりだ。
「それでは! 武道大会開催を祝しまして、護衛騎士団員による始剣式を始めたいと思います。それでは御両方ご準備お願いします」
そう言った副団長のデイルさんはまるで肩の荷が降りたかのように、満面の笑みでにやけている。
そしていつの間に現れたのか中央の白線内、試合スペースに入っていくおぼつかない足取りの御老人の姿がそこにはあった。その側には見るからに品が良く賢そうな紳士が寄り添っている。
紳士から木剣を手渡され御老人は右に左に楽しそうにぶんぶんと振り回している。
一方では騎士団長のパールさんがデイルさんの元へと駆け寄り耳元で何かを囁き伝えている。
話し終えて去っていくパールさんは何故かにやけていて、反対にさきほどまでにやけていたデイルさんは絶望に満ちた表情となっていた。
副団長デイルさんは苦虫を噛み潰したような表情で言って、大会をそそくさと進行する。
「それでは、只今より! 第100回ベネツィ武道大会を開催致します。選手の諸君、ご武運を!」
デイルさんは右手を胸の前に掲げて声高らかにそう言った。
どうやらようやく始まるらしい。しかもちょうど100回目の武道大会だったとは、今まで気が付かなかった。この大会を見学するのは確か5回目の勇者人生の時以来だから考えてみるととんでもない大昔って事になるな。大体1回の勇者人生は平均2年か3年くらいで終えるから……約200年ぐらい前って事になるのか。
……俺は200年以上も勇者ばかりやって、いったい何がしたいんだ。
何が、というか普通に勇者以外がやりたい。
しかし。同じ100回目という事実は若干以上に親近感を持ってしまう。
実に好感が持てる大会ではあるけれど、今は武道大会だ。集中集中。
綺麗に整列していた子供達は3つのグループに分かれその場に座り込んで、何やら熱心に紙面を覗き込んでいる。
していると、俺の座る観客席にも順次紙面が配布されて皆して紙面に釘付けになる。
「なになに……」
渡された紙面に書かれていたものは武道大会の対戦相手を記した一覧表だった。
紙面に書かれた小さな文字を指でなぞりながら俺は必死に探す。
「パ……パ……パルト……パ……パズーじゃない。パ……パ……パティ。パティ。あっこれか」
沢山の名前が書かれた中から少年パティの名前を見つけ出せたのが地味に嬉しかった。
大会は小さな子供達が出場する部とパティ達くらいの少年が出場する部と、大きな子供達が出場する部の3つあるらしい。
広場に白線で描かれた三つの長方形の中で3組同時に試合を行うようだ。試合に使う物は剣、槍、斧、棒を模して作った特殊な木剣のようなもので当たっても怪我をしないように武器と防具には緩衝材が取り付けられている。5点先取制の試合で1試合に護衛騎士団4名がかりで審判を行うという贅沢っぷりである。
「うちの子の相手は……パティ君……初めて聞く名前ね。初心者かしら? 初戦は貰ったわね」
突如前方より聞こえてきたそんな言葉に俺は心の中で『その子めっちゃ強いですよー』と、注意を促しておいた。
そうか。初出場のパティは一番街と二番街の道場からは知られていない完全にノーチェックなダークホース的な存在となるわけか。
これはもしかすると大番狂わせになるのかも知れない。
そんな大会の結末を知る数少ない者として今から胸がわくわくしっぱなしである。
前方にいる対戦相手の子の母親には申し訳ないが、きっと落胆する結果になるだろう。
再び紙面に視線を落として対戦相手の子の名前を確認する。
「……ハデス……君……」
神々しいというべきか、禍々しいというべきか、どんな気持ちでお呼びすれば失礼に当たらないのだろう、と考えさせられる名前だ。
ちらりと母親の後頭部を見て、お母さんいったいどんなテンションで名前つけたんだよ……。
「に……二回戦の相手は⁉︎」
指でなぞって二回戦の対戦相手の子を確認する。
「カオス……君か、ナイトメア君のどちらか……」
混沌の奥底から生まれた、あるいは混沌を生み出したようなそんな名前だな。
言い知れぬ不安感が俺を襲いだしたので、その他の出場選手の名前もチェックしてみる。
「ジェハード君……デスパウロ君……闇をも凌駕せし者ーーーーって何だこれぇぇぇ! どこのラスボス図鑑⁉︎ 闇をも凌駕せし者って何⁉︎ 闇の先には何があんの⁉︎」
もはや人の名前じゃないだろこれ。パティは今からいったい何と戦わされるんだよ。
とんだラグナロク勃発だよ!
しかも何気にラスボスと化したパウロさんっぽいのがいるし。
ガネーシャ村のパウロさんではない事をただただ祈るばかりだ。
「それでは! 武道大会開催を祝しまして、護衛騎士団員による始剣式を始めたいと思います。それでは御両方ご準備お願いします」
そう言った副団長のデイルさんはまるで肩の荷が降りたかのように、満面の笑みでにやけている。
そしていつの間に現れたのか中央の白線内、試合スペースに入っていくおぼつかない足取りの御老人の姿がそこにはあった。その側には見るからに品が良く賢そうな紳士が寄り添っている。
紳士から木剣を手渡され御老人は右に左に楽しそうにぶんぶんと振り回している。
一方では騎士団長のパールさんがデイルさんの元へと駆け寄り耳元で何かを囁き伝えている。
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