繰り返される転生劇〜喜劇こそ、笑いこそ世界を救うたった一つの手立てではないかっ!〜

清水花

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ベネツィ大食い列伝

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 突如として呼ばれるアリシアの名前、

 かなりの熱量を持って爆発的にあがる歓喜の声、

 気が付けば観客達はなぜかこちら側、つまりは選手席にいる俺達の方を見ていて拍手喝采を浴びせている。

 違う、

 観客達は俺達の事を見ていない。

 観客達の視線はやや上方向に向いており、嬉々として囃し立てるその視線は俺達ではないものを捉えている。

 ふと、気が付くと選手席の少し前方にはいつの間に用意された物なのか高さ一メートルほどの木製の高台があって、そこには恥ずかしそうに肩をすくめる一人の少女が立っていた。

 大きなフードがついた少しくたびれたマント、小さく華奢な身体付き、潤いに満ちた緑髪、少し尖った特徴的な耳。

 出会ってまだ間もないが、その後ろ姿だけでも十分誰だか分かる。

「ーーーーアリシア!」

 焦りと緊張が相まってか、自分でもびっくりするほどの大声で名前を呼んでしまった。

 俺の放った大声に気付いたアリシアはすぐさまこちらへ振り向くと、うつむいたまま照れ笑いを浮かべながら上目遣いで俺を見る。

「ーーーーなっ⁉︎」

 復活したばかりですぐさま再びダウンしそうになってしまったが、何とか持ちこたえる。

 危ない危ない。なんて人騒がせな可愛いさだ。

 とにかく、無事で良かった。

 そして、

 高台の上で手招きするアリシアの方へと近寄って、何がどうなっているのか事情を確認する。

「アリシア……これはいったい?」

「えっとですね、何だかわたし達、優勝しちゃったみたいです」

「優勝って……」

 アリシアの言葉に我が耳を疑う。アリシアが言うには俺達のチームは優勝したらしく、今はその祝福を受けている真っ最中であると。だが、俺とパティとじろうはダウンしたままだったので仕方なく一人で質疑応答に対応し、みんなから祝福を受けていた、と。アリシアは俺にそう説明をした。

 普通に聞けば筋の通った話であるが、俺にはどうにも解せない事がある。それはアリシアの話と俺の記憶がどうやっても繋がらないからである。

 そう、最後の最後で登場した裏ボス的存在の杏仁豆腐。あれが目の前に立ち塞がった時、俺は一切の抵抗を見せる事なく戦闘不能に陥ってしまったのだ。だから、あの時点で俺達は全滅したのであって……だから今現在、優勝したという事実とは繋がらないのだ。

 それとも意識を失った俺が無意識のうちに全部食べてしまったというのであろうか? 現に戦闘不能に陥った場合でも、無意識的に立ち上がりそのまま戦闘を続けるという奇妙な現象を目にした事はある。あの時のアレが、今回は俺の身に起きたという事なのだろうか? だがしかし、もし本当にそうだったとしたら、今度は俺のお腹の事情と話が繋がらない。あれだけの杏仁豆腐を食べたのなら比喩ではなくお腹が破裂していてもおかしくは無い筈なのに、今の俺のお腹と胸はこんなにも清々しい限りなのだ。そして、それはパティも同じようだった。

 じゃあ……いったいどういうことなのだ? あの杏仁豆腐は大食いとは全く関係のない一品だったのか?

 いや、違う。俺はさっき何かを見たはずだ。

 何かを見て、不思議に思ったはずなんだ。だけどあの時はアリシアを探すのに必死で、それどころじゃなくって……。

 俺はゆっくりと後ろへ振り返り、未だテーブルに突っ伏し眠るパティとじろうをちらりと見てから、テーブルの上を端から端まで眺めていく。

 アリシアの座っていた箇所で視線が止まる。

 使用前のように綺麗に並べられたカトラリー、水が少し残ったままのカップ、無造作に折りたたまれたナプキン、すっかりと身軽になったどんぶり。

 どんぶり、

 そうだ、あのどんぶりだ。あのどんぶりを見て俺は負けを認めたんだ。だが、どんぶりの中身が……あの恐怖の杏仁豆腐が姿を消している。

「アリシア! あの……」

「はい? どうしたんですか?」

「あそこに杏仁豆腐があったと思うんだが……」

 どんぶりを指差し所在を問う俺を見て、アリシアはより一層の可愛らしい照れ笑いを浮かべて、

「あ、私が全部食べちゃいました。えへへへ」

 小さな八重歯を覗かせ言った。







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