乙女ゲーの世界に転生したら、不幸エンドしかないキャラに惚れました

瀬尾 碧

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一章

アドビスの宿 4

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 夢乃は王道主人公が大好きだ。
 色々魅力のあるキャラクターはいるけれど、少年剣士の魅力には敵わない。

 少しあどけなさの残る少年が、大切な人を守るために立ち上がり、時に傷つき、涙し、オトナの男として成長していく物語――。

 夢乃はそう考えて「サールリア物語」のシナリオを書き上げた。
 例え古いと言われようが、夢乃的には鉄板だ。

 ――それなのに、どうしてリュシオンに惚れてしまったんだろう。

 椅子をぎしりとしならせ、夢乃は天を仰ぐ。


「最初にエッチした時には、もう惚れてたもんねぇ……」


 夢乃はぼんやりと過去のことを思い出す。

 夢乃はこの世界で覚醒してから、シナリオに関係ない、ありとあらゆるモブに成り変わることが出来た。
 いわゆる、制作者特権なのだろう。
 このくらい良いことなきゃね! と、そんな呑気なことを考えながら、色々なモブに成り代わってみた。

 けれど、やはりどうしても男になるのは無理がある。
 だから初期の頃は、通行人A(女)とか、村娘B、乗合馬車の受付嬢等。無難なモブ娘に変身して、こっそり安全に勇者パーティーの応援していたのだ。

 けれども、リュシオンに初めて抱かれたあの日は違った。
 どうしても勇者パーティの動向が気になって、初めてぱふぱふ娘に成り代わった。


 『ねぇ。お兄さん、私と良いことしない?』


 シナリオ初期の一番大きなクエストが終わった日だったし。
 これから彼らがどこに行くのか知りたかったし。
 宿屋の階段に立つ、ぱふぱふ娘しか適正なモブが居なかったんだから仕方ない。

 どこか自分に言い訳をしながら、夢乃は妖艶な美女になって勇者パーティーに声をかけた。
 あの時はまだ勇者パーティーは三人で。
 宿屋の薄暗い廊下でも分かるくらい、真っ赤になりながら答えるロイと、拗ねた様子を隠せないヒロコ。そして少しだけ口角を上げたリュシオンしか居なかった。

 際どい衣装は恥ずかしかったが、なんせ自分の身体じゃない。
 夢乃はさっさと開き直った。

 腰まである青い髪を両手で上げ、しなやかな体の凹凸を見せつけて、片目をつむる。
 勇者パーティーを盗み見たり、簡単な会話をして立ち去るのではなく、しっかり話しかけたのは初めてだった。


『もう! ヴェロニカの泉を攻略したばかりだっていうのに、男ってホントに最低!』

 そう言って、踵を返して宿屋の外に立ち去るヒロコと、それを慌てて追うロイ。ヒロコの目尻にうっすら涙が見え、夢乃はやりすぎたと焦った。

 ――これがきっかけで、何かのフラグを立てたらどうしよう!

 焦って目で追う夢乃。
 その夢乃の横を、すれ違うようにリュシオンが通る。
 次の瞬間には、腰に巻かれた腕に引き寄せられていた。

 一体いつ、すぐ横にあった部屋に連れ込まれたのか、記憶にない。
 気がつけば、扉の内側に縫い付けられ、くちびるを奪われてたのだ。


『ふっ、あ、んんっ……、うンっ、』


 ばちっと火花が舞うようなキスに、盛大に翻弄された。
 でも初めてのキスを奪われたことより、見上げたリュシオンの昏い目にショックを受けた。

 ぱふぱふ娘は、娼婦じゃない。
 少なくとも、そんなつもりじゃなかった。

 その夢乃の声は、口に出ることはなかった。
 性急に身体を弄る指先に、甘い声を押し殺すだけで、精一杯だったからだ。
 乱れた衣服の間から、身体の線をなぞるようにたどられ、電流が走ったようにぞくぞくと背筋が震えた。


「あ、あ……ああ、ン、んぅ……」


 震える脚で立ったまま、胸の飾りを甘く噛む紫の髪を、必死に胸に抱える。
 過ぎた快楽にどうして良いか分からなくて、性急に身体を弄るリュシオンにしがみついた。


『なんか、これ、怖いっ……! はあっ、んんーーーっ!!!』


 そうして何度も何度もいかされて。
 結局。夢乃はリュシオンに最後まで抱かれた。

 壁で一回。ソファで二回。
 バージンだったのに、モブの身体のお陰か、痛みがなかったことだけが救いだったけど――


「……ん?」


 そこまで昔のことを思い返していた夢乃は、はたと気がつく。

 ――やっぱりアレ、私の初体験、無理矢理ってこと?

 いや、まぁ、別にいいのだ。
 夢乃はリュシオンが好きだし、惚れてるし。
 あの時だってなんだかんだで、最後まで抱かれたかった。

 ――リュシオンが無茶苦茶女慣れしているせいで、気持ちよかったしね!

 でも初体験が、扉に縫い付けられて立ったままって、どうなのよ。
 夢乃としては、やっぱり、こう。ファーストキスからステップを踏んで行きたかったのが多少の本音だった。
 初体験が立ったまま。
 それはあまりに上級者すぎるだろう。

 それでも、全ての行為が終わったリュシオンは優しかった。
 きっと使い捨てるように自室に戻るんだろうと思ったのに、ソファに腰掛け、無表情でそっと夢乃の髪をなでた。

 表情に反して、いたわるような、どこか後悔しているような優しい手つき。
 もう指一本動かせなかったけど、うとうとと微睡んでいた夢乃は、リュシオンの瞳から昏い影が消えているのを見つけて、ほぅ、と安堵のため息をついた。

 ――あぁ、よかった……。

 ヒロコの立場じゃなくても、彼の気持ちを癒せる。
 モブ娘だって、頑張ればリュシオンの『死亡エンド』や『裏切りエンド』から遠ざけられるんだ――

 そう思って、夢乃はあどけなく笑った。


『おい。お前の名は……』


 眠りの底に落ちていく合間。
 そっと口移しで飲まされたレモン水――

 あれほど甘さを感じた飲み物を、夢乃は知らない。
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