辺境伯令嬢は冒険者としてSランクを目指す

柚木ゆきこ

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第3章 帝都へ

後悔と決意

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「セリーに触るな」

 知っている声が聞こえて顔を上げると、ロランが忿怒の形相で男と対峙していた。
様子から察するに、私を捕まえていた男の腕を掴んでいるようだ。
強い力なのだろう、男の腕にロランの爪が少し食い込んでいる。

「お前は誰だっ、いてぇ!!」
「同行者だ。彼女に手を出す者は俺が許さん」

 ロランは突き刺すような‥‥もしかしたらお母様が使っている威圧なのかもしれないが‥‥視線を全員に送っている。
取り巻きたちはその視線に耐えられなかったのだろう、一目散に逃げ出し始める。

 全員逃げたところで、その目線を捕まえている男に向け、一言。

「お前は、どうするんだ?」

 と声をかけた。その男は小心者だったらしく、「す、すみませんでした」と言って逃げていく。

「すまない‥‥また危ない目に合わせてしまった」

 ロランは悲しそうな目を私に向ける。そして私を立たせようと腕に力を入れた。
私も立とうとして‥‥足に力が入らないことに気づく。

「ご、ごめんなさい‥‥力が入らなくて‥‥」

 相当怖かったのかもしれない。きっと私の天敵は、悪意ある人間なのだろう。
どうしようかと慌てていると、急に身体が持ち上がった。

「え?」

 ロランが私をお姫様抱っこしていることに気づいたのは、少し後。
その時私は、混乱していて何も喋ることができなくなっていた。

 宿屋の階段が近づくと、先程受付にいた宿の人が声をかけてくれた。

「止めることが出来ずに申し訳ございませんでした、お客様」
「いや、彼女を一人にした責任はこちらにあるから気にしないでくれ」
「そう言って頂けて助かります。彼らはこの街のゴロツキです。彼らはもうお嬢さんに害をなすことはないと思います」
「‥‥そうなのか?」
「はい。強い者に刃向う意志はありませんので」

 どうやら私はもう彼らに関わることはないらしい。だが何故私が狙われたのだろうか?

「お嬢さ、お客様はとても綺麗な容姿をしています。他に狙ってくる者も居ないとは限りません。お気をつけください」
「‥‥そうだな。ご忠告感謝する」
「いえ、ゆっくりお休みください。お部屋は二階の奥になります」

 そのまま私はロランに部屋まで連れてきてもらったのだった。


 時間が経って落ち着いてきた。
ロランはまだ部屋にいてくれている。
ベッドの横のサイドテーブルには、先程飲んでいた紅茶が置かれている。宿の人が持ってきてくれたようだ。
 一口飲んだところで、私はロランに声をかける。

「ろ、ロラン‥‥アンナさんはどうしたのですか‥‥?」
「アンナはセリーが借りた部屋で休んでるはずだ。心配しなくていい」
「そうですか‥‥」

 気まずい。本当に気まずい。
ロランは私が座っているベッドの近くに来ようとはせず、扉の前で腕を組みながら立っている。

「ロラン、先程はありがとうございました‥‥迷惑をかけてすみませんでした‥‥」

 離れているロランの顔が怒っているようで、頭を垂れてしまう。
また涙が出そうになる。こんなに弱くなかったはずなのに。
‥‥ロランに会うまで、何があっても泣いたことはなかったのに。

 目を開けると膝の上に握りこぶしを作っていた。その拳が震えている。

 コツ、コツ、コツ、と歩く音が聞こえるが、私は顔を上げることができない。
情けないからだ。いつも迷惑をかけているのは私じゃないか。

 そう思ったと同時に、頰に手が触れた。私の手ではない、暖かくて大きな手。
触れた瞬間、思わずビクッと身体を強張らせる。そして触れた手も離れていく。

 恐る恐る顔を上げると、哀愁に満ちた顔のロランがそこにいた。

「また守ってやれなかった‥‥俺は自分が不甲斐ない」

 その言葉から私に怒っているのではないことに気づく。

「シャルモンの街で今日みたいな事が無かったから油断をしていた。セリーの容姿を考えれば、変な奴らに構われる可能性もあることを失念していた。いくら拳闘士の格好をしていても、セリー自身が強くても、若い容姿の整ったか弱そうに見えるのは変わりない」

 実際私も先程のような人相手に、どう対応すべきか分からなかった。
人と上手く関わる事ができれば、お母様みたいにスルーできるのかもしれないが、今のところ私は無理だろう。
でもロランにいつまでも助けられてばかりではいけない。私も冒険者になるのなら、変わるべきだ。

「もう少し気をきかせられれば‥‥すまない」

 そう項垂れたロラン。ロランのせいじゃない、私がぼーっとしていたからいけない。

「いいえ、私も最初絡まれた事を考えれば、その可能性も考えるべきでした」

 私が静かに話し出す。ロランは静かに聞いているが、拳は硬く握り締めている。
私はその拳を手にとって、ロランに目を合わせる。

「私もいつまでもロランに守って貰える訳ではありません。私も成長するべきだと感じました。だから、そんなに思い詰めないで下さい」
「セリー‥‥」
「それに、ロランが悲しい顔をしていたら、私も悲しくなります。笑顔で居てくれませんか?」

 ちゃんと伝わったか分からない。けれども言葉に出した事で、気持ちが軽くなった。
だから最後は笑顔で話しかける事ができた。

「ったく‥‥セリーは‥‥強いな」
「それが私の取り柄ですから」

 空気が一気に緩む。そして私たちは笑いあった。
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