ズボラ飯とお嬢と私

さくま

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第16話 ヤンニョム揚げ出し豆腐とお嬢と私

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 雨降る気だるい日曜日。私は配信サービスで大盛りご飯をバクバク食べる女性を眺めていた。いわゆるモッパンと言うやつだ。チーズフォンデュに海鮮丼、焼肉などが次々吸い込まれていく様は見ているだけでおなかいっぱい、どころか胃もたれするほどだった。

「まあ、美味しそうだこと!」

 隣からぴょこんと顔を出したのは、同居人のお嬢様小学生まい子だ。普段はいつでもお茶会に参加できるようなフリルたっぷりのファッションの彼女だが、今日は珍しくネグリジェのままころころ転がっている。

「まい子ってこういうの嫌じゃないんだ。意外だな」
「ええ、満腹で勝手に苦しくなったり吐き戻すのは論外ですが、美味しく楽しく召し上がる姿は好ましく思えましてよ」

 幼少期からテーブルマナーを叩き込まれた彼女にとっては、口いっぱいに食べ物を頬張ったり、咀嚼音を他人に聞かせること自体も珍しい光景なのだろう。時々、画面の女性の口元についた汚れを気にしては、私の横でじっと動画を眺めていた。

 そんな彼女が大きく反応を見せた食べ物があった。

「こ、これは一体なんですの!この、ルビーのように輝く食べ物はなんですの!」

 深い紅色のタレが絡まるそれは、ヤンニョムチキン。韓国料理の定番で、甘辛いタレとカリッとしたチキンが止まらなくなる美味しさだ。動画に映る彼女はまた、まるで飲むように次々と食べ進めていた。

 まい子がこんなにも食べ物に強いリアクションを見せることはあまりない。せっかくだし作ってやろうか、と、思ったのだが、おあいにく冷蔵庫に鶏肉がない。雨の中買い出しに行くのもさ、なんかさ、ね。

 そうだ、ボリュームの救世主、あいつがいるじゃないか。


 ○材料(1~2人前)
 ・揚げ出し豆腐(約300g)
 ・コチュジャン(大さじ2)
 ・ケチャップ(大さじ2)
 ・醤油(大さじ2)
 ・みりん(大さじ1)
 ・砂糖(大さじ1)
 ・にんにく(お好み。今回は小さじ1)


 ○作り方
 ・揚げ出し豆腐をちぎってフライパンにいれる
 ・油をしかずにそのまま焼き目がつくまで炒める
 ・調味料を鍋の端で合わせ(気になるならボウルで混ぜてもいいけど洗い物が増えます)全て入ったら揚げ出し豆腐と絡めながら炒める
 ・よく混ざったらお皿に盛って完成!


「まい子、これなら今あるけど」

 めんどくさがりの同居人がわざわざヤンニョムをすぐに出してくれるとは予想もしていなかったのだろう。まい子は小さく、あら!と声を上げた後自分でお気に入りの箸を台所から取ってきた。大きめに準備しておいた豆腐を、まい子がぱくんと大きな口で食べる。

「わ、わ、辛くって、でも甘くって、美味しいです!」

 目をキラキラさせながら食べてくれたので一安心だ。こんなにも喜んでくれるなら今度の日曜日はチキンの方も用意してやらなくては。私も一つもらうと、揚げ出し豆腐によって外はカリッと中はふんわり、タレがよく絡むみたいな条件は十分クリアできているように思えた。

 いつもお行儀よくご飯を食べるまい子が、わざと大きな口を開けて食べる様はなんとも愛しい。一つ、何かを成し遂げたような少し気だるい日曜日だった。
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