人質姫と忘れんぼ王子

雪野 結莉

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8章 人質姫と忘れんぼ王子の邂逅

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オヤツを入れたバスケットを持って、建物の裏手に回った。

少し建物から離れるように歩くと、森と言うほどではないが雑木林が広がった。
「わあ…」
木々の間には木漏れ日と小鳥の鳴き声。
足元には小さな花が咲き、そよ風が気持ちいい。
そのまま林の中を歩いて行く。
あんまり離れるとみんなに心配かけるから、この辺に座ってオヤツにしようかな。

大きめのチーフを広げて木の根元に敷こうとすると、何かが私の視界に入ってきた。
「…鹿?」
大きいツノを持つ鹿が、首を傾げてこちらをみていた。

…鹿って、噛んだりするかしら…。
襲ってきたら逃げればいいわよね。
「怖くないよ、仲良くしよ?」
鹿は少しずつ、近寄ってきた。

そぉっと、鹿の首に手を伸ばす。
ゆっくり撫でてあげると、気持ちよさそうに頭を私にすりすりしてきた。
「ふふ。気持ちいい?」
しばらく鹿の首回りの毛をもふもふと堪能していると、ぴくんと鹿が何かに反応した。

「どうしたの?」
鹿の様子を伺うと、林の奥の方に視線を向けた。
しばらくじっと、奥を見た後、私の腰をツノで押して林の奥へと行かせようとする。
「ちょっと待って。あんまり奥に行ったら帰れなくなるの。そうすると困るのよ」
慌ててバスケットを持ち直し、手に持っていたチーフをバスケットに戻す。
鹿は私を押すのをやめない。

困りました。
ツノから外れようとしても、鹿は私を追って来て奥へ奥へと連れて行こうとする。
困りながらも、鹿に押されるままに歩いて行くと、柵で覆われているところに出た。

ここは、もしかして国境を跨ぐ境界線なのでは…。
困るっ!
黙って国外に出たら、ランバラルドとの約束がっ!!
今までの軽い抵抗ではなく、本気で逃げようとしたら、鹿のツノで煽られて、背中に乗せられてしまった。
鹿の背から見下ろすと、結構高くて怖かった。
困った…。
飛び降りようとしたけれど、怖くてできない…。
困りながらも怖いので落ちないように鹿の首にしがみつく。

鹿は私がしっかり捕まっているのがわかるのか、前に進む足を速めた。
柵には一部壊れているところがあり、鹿はそこをひょいと飛び越え、簡単に国境を越えてしまった。

…どうしよう。
でもまだ関所一つ越えただけだから、国外には出てないわよね。
確か、戦争で森の向こうまでがランバラルドの領土ってことになったんだもんね。
そんな言い訳が通じるかわからないけれど。

そのまま大人しく鹿の背に揺られる。
…どこまで行くんだろう。
お昼ごはんまでには…帰れないわよね?
ため息をついて鹿にしがみついていると、小さな湖が見えてきた。
湖の辺りを通り過ぎ、森の中へと入って行く。

わーん。
のんびりと林の木影でオヤツ食べたかった。

鹿が進むにつれて、木の生えている密度が濃くなり、陽の光が遮られて暗く感じるようになってきた。
「鹿さん、ねぇ、暗くて怖くなってきたよ。帰ろうよ」
鹿に訴えても鹿は聞いてくれない。
そもそも、人間の言葉がわかるのか不明だ。

どんどん鹿が進む先に、何か見えてきた。
木々が邪魔ではっきり見えないが、人が倒れているように思えた。
「鹿さん、あっちに行って。人が倒れてるみたいなの。お願い。もしかしたら動けない人かもしれないの」
首を撫でて鹿にお願いすると、鹿は私の言葉がわかったのか、そちらの方に向かってくれた。

そこに着くと、やはり木の根元に倒れていたのは人間だった。

黒髪の若い男の人は、足から血を流し、青い顔をしてぐったりとしていた。
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