人質姫と忘れんぼ王子

雪野 結莉

文字の大きさ
123 / 187
17章 王族としての生活

2

しおりを挟む
それからは怒涛の展開だった。
すぐさま、離宮にも護衛の騎士が配置され、私は畑に出ることも禁止された。
夜にはマリーとアーサーが城に呼ばれて、城での試験を受けて、また私の近くにいてくれるという話が決まった。

でも、パルフェは閉めることになった。

私の頭に、パルフェのいつもの光景が浮かぶ。
いつもクッキーを買いに来てくれる可愛い女の子や、イートインでスープを渡す時に必ず手に触れてくるお肉屋さんの息子さん。
私が失敗してもニコニコと見ていてくれた靴屋のおじいさん。
突然店を閉めたら、なんと思うだろうか……。
もう、みんなとは会えないのかな。

「姫様、荷造りは順調ですか?」
荷物を整理すると言い訳をして自分の部屋に閉じこもっていたので、ジュディが様子を見に来た。

「あら、何もできていないじゃないですか。ぼんやりベッドに座ったままで、どうしたんですか? もしや、お身体の調子でもお悪いですか?」
ジュディは急いでやってきて、私の額に手をあてる。
「違うの。なんでもないの」
慌てて私が首を振ると、油断して涙がほろりと落ちてきてしまった。
「姫様!?」
「あの、違うの。これは、その」
涙を拭おうと手を頬にあてると、ジュディが優しくハンカチで拭ってくれる。

「姫様、ご無理なさらないでください。これだけいろいろなことが変わるんですもの。びっくりするのは当たり前です。ご自分のことなんですから。何か、意に染まぬことがあるなら、ジュディに言ってください。このジュディが、なんとしてでも阻止してみせます!」
「違うの。わかっているの。私は王族で、それが当たり前だと。でも、ルーシーやリサさん、ポールにも今までのように会えないし、パルフェも私にとってはすごく大事な場所だったのに、もう行けなくなるなんて、思っていなかったから、びっくりしただけなの」
ポロポロと涙が溢れ出てきて止まらない。
そんな私を見てジュディは微笑むと、私の隣に輿を下ろした。

「そうですねぇ。姫様は高貴な身分のお方ですから、ホイホイと町に降りたりは無理ですねぇ。でも、落ち着けばライリー殿下が町に連れて行ってくれると言っていたじゃないですか。あれも一応高貴な王族ですけど、町に降りたり森で遭難したり。いろいろとやらかしてるじゃないですか。だからきっと、全て今まで通りは無理かもしれないけど、必ず行くことはできますよ。もし、ライリー殿下がダメと言うなら、またメイド服を着て、お城を抜け出しましょう。ギルバート様あたりは、きっと協力してくださいますよ」
「……ジュディ」
私はジュディにしがみついて、わんわん泣いた。
悲しかったわけじゃない。
そこまでジュディが言ってくれて、嬉しかったのだ。

王族、ライリー殿下に逆らったら、きっと罰せられる。
それなのに、こんなことを言ってくれる。
「ジュディ、大好きよ」
「わたしも姫様が大好きですよ」
2人で抱きしめ合っていると、開けっ放しのドアがノックされた。

「なーに二人で抱き合ってるんだ。まだ引越しの準備は途中なのだろう」
ギルバート様が、呆れた表情で私たちを見ていた。
私とジュディは、思わず顔を見合わせて笑ってしまった。

「まだ荷物も整理できておりませんが、ギルバート様、お茶はいかがですか?」
私がそう言うと、ギルバート様は「もちろん。茶葉はアッサムティーで」と、注文をつけた。
ギルバート様は、きっと私の目が赤いことに気がついていたと思うけれど、見て見ぬ振りをしてくれた。
ギルバート様も、お優しい方なのだ。


涙を拭って、少し時間を置いてから、ギルバート様が待っているリビングへと足を運んだ。
今日のオヤツは、一昨日の残りのマフィンにした。

「ところで、シャーロットはいつ本宮に越してこれるのだ?」
ジュディはお茶を入れたら、さっさと自分の仕事に戻ってしまい、リビングにはギルバート様と私の二人だけだ。
私は、もうお仕着せを着てはいけないとジュディに言われ、紺のワンピースを着ているので、お給仕もあまりできない。
何もできなくてつまらない……。

「そうですわね。2日、ゆっくり準備して3日もあればお引越しできそうです」
ゆっくりと紅茶を口にしながら答えると、ギルバート様は珍しく満面の笑みを浮かべた。
「そうか。楽しみだな」
「……? 何が楽しみなのですか?」
「何って、シャーロットやジュディが本宮に来るのが、だ。あ、いや、別にシャーロットが来るから嬉しいとかそういう訳ではないからな。絶対に。ただ、シャーロットが何かやらかすのを間近で見られるようになるのが、楽しみだと言っている」

あら、ギルバート様、お顔が赤いですわよ。
私が本宮にお引越しするのを楽しみだと思ってくださっているのですね。
「ありがとうございます。でも、幽閉されるのでは、ギルバート様にお会いする機会も減るのではないかと、私は寂しく思っておりますわ」
ため息と共にそう言うと、ギルバート様はおかしな顔をした。

「何を言っている? 幽閉とはなんのことだ」
「だって、敵国の側妃が城内を歩けないから本宮に引っ越すのでしょう? ライリー殿下も、一人で外を出歩くなとおっしゃっていましたし」

その言葉を聞いてから、マフィンを食べるのに忙しく動いていた口が、あんぐりと開けられた。

「もしかして、シャーロット。ライリーがどういうつもりで、本宮に呼んだかわかっていないのか?」
「申し訳ありません。あの夜はびっくりすることばかりで、あまりよくライリー殿下のお話を聞いていませんでしたの。私が敵国の出身側妃だから、監視が必要なのかなと思っておりました。一人で庭にすら出てはいけないと言われましたし」
違うの?と、私は首を傾げた。

「……そうか。いや、いいんだ。別に、たいした意味はない」

何か、含みがありそうに言うギルバート様が気になった。
しおりを挟む
感想 49

あなたにおすすめの小説

【完結】地味な私と公爵様

ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。 端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。 そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。 ...正直私も信じていません。 ラエル様が、私を溺愛しているなんて。 きっと、きっと、夢に違いありません。 お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)

【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~

塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます! 2.23完結しました! ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。 相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。 ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。 幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。 好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。 そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。 それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……? 妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話 切なめ恋愛ファンタジー

今宵、薔薇の園で

天海月
恋愛
早世した母の代わりに妹たちの世話に励み、婚期を逃しかけていた伯爵家の長女・シャーロットは、これが最後のチャンスだと思い、唐突に持ち込まれた気の進まない婚約話を承諾する。 しかし、一か月も経たないうちに、その話は先方からの一方的な申し出によって破談になってしまう。 彼女は藁にもすがる思いで、幼馴染の公爵アルバート・グレアムに相談を持ち掛けるが、新たな婚約者候補として紹介されたのは彼の弟のキースだった。 キースは長年、シャーロットに思いを寄せていたが、遠慮して距離を縮めることが出来ないでいた。 そんな弟を見かねた兄が一計を図ったのだった。 彼女はキースのことを弟のようにしか思っていなかったが、次第に彼の情熱に絆されていく・・・。

絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので

ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。 しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。 異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。 異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。 公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。 『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。 更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。 だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。 ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。 モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて―― 奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。 異世界、魔法のある世界です。 色々ゆるゆるです。

噂の悪女が妻になりました

はくまいキャベツ
恋愛
ミラ・イヴァンチスカ。 国王の右腕と言われている宰相を父に持つ彼女は見目麗しく気品溢れる容姿とは裏腹に、父の権力を良い事に贅沢を好み、自分と同等かそれ以上の人間としか付き合わないプライドの塊の様な女だという。 その名前は国中に知れ渡っており、田舎の貧乏貴族ローガン・ウィリアムズの耳にも届いていた。そんな彼に一通の手紙が届く。その手紙にはあの噂の悪女、ミラ・イヴァンチスカとの婚姻を勧める内容が書かれていた。

離婚したいけれど、政略結婚だから子供を残して実家に戻らないといけない。子供を手放さないようにするなら、どんな手段があるのでしょうか?

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 カーゾン侯爵令嬢のアルフィンは、多くのライバル王女公女を押し退けて、大陸一の貴公子コーンウォリス公爵キャスバルの正室となった。だがそれはキャスバルが身分の低い賢女と愛し合うための偽装結婚だった。アルフィンは離婚を決意するが、子供を残して出ていく気にはならなかった。キャスバルと賢女への嫌がらせに、子供を連れって逃げるつもりだった。だが偽装結婚には隠された理由があったのだ。

笑い方を忘れた令嬢

Blue
恋愛
 お母様が天国へと旅立ってから10年の月日が流れた。大好きなお父様と二人で過ごす日々に突然終止符が打たれる。突然やって来た新しい家族。病で倒れてしまったお父様。私を嫌な目つきで見てくる伯父様。どうしたらいいの?誰か、助けて。

真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください

LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。 伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。 真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。 (他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…) (1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)

処理中です...