人質姫と忘れんぼ王子

雪野 結莉

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17章 王族としての生活

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マリー勤務初日。
ライリー殿下はマリーにいろいろと話があると言って、私の部屋を訪れた。
「マリー、今日からよろしく頼む。ところで、シャーロットの今までの生活なんだけど、聞いた話だととても王族とは言えない生活をしていたということだが、どの程度なのだろうか」

ランバラルド城の侍女が着るお仕着せ姿のマリーが答える。
「シャーロット様の生活は、およそ下級貴族並みのものでございました。ただ、どうしても王族として参加しなければならない催し物もあるため、必要最低限のマナーなどは家庭教師から学んでおります。あとは、わたくしが読み書き算術を自己流でお教えした程度です」

ライリー殿下は目を丸くする。
「そこまで構われなかったのか。マリーは本当の王妃の専属侍女からシャーロットの乳母になったのだったな。では、王妃として必要なことは知っているか?」
「そうですね。侍女として見てきたことでしたら」
ちらっと、ライリー殿下は私を見る。

「では、衣服から揃えてやってくれ。マナー以外の家庭教師は必要か?」
「できれば。ランバラルドのお妃様におなりになるのでしたら、必須ではございますね」
「わかった」

私は口を挟める雰囲気ではなかったので、黙って聞いていたけれど、この歳で今から家庭教師ですって?
「ライリー殿下、私は家庭教師が必要ですか?あと、衣服とは……?」
ライリー殿下はマリーに向けていた険しい表情を和らげ、私に向き直る。
「ん? シャーロット、衣服がわからないの?ドレスを仕立てるって話だよ。家庭教師はもちろん必要だな。これから外交もやってもらうんだ。諸外国の簡単なマナーも学んでもらう。でないと、エルシアの王女に向かって「女性らしいドレスが好み」とか言い出しかねないからね」
私は首を傾げた。
「女性らしいドレスがいけないんですの?」
「エルシアは女性の地位向上に尽力している国だよ。エルシアで女性らしいという表現は性的な事を表すんだ」

まあっ。
女性らしいって、柔らかないい言葉だと思っていたのに、外国だとそんな意味になってしまうのね。
「さすがライリー殿下です。私、そんなことも知りませんでしたわ」
私が目をキラキラとさせてライリー殿下を見ると、ライリー殿下は遠い目をして、「まあね」と謙遜した。なんて奥ゆかしいの。

「じゃ、マリー。後は頼んだ。何か用があったら執務室まできてくれ。マリーは中央棟も出入自由な身分にしてあるから、問題ないだろう」
「かしこまりました」

マリーが頭を下げ、ライリー殿下を見送る。

私はライリー殿下が出て行ったのを見送ると、長椅子に腰掛けて紅茶を飲んだ。
「では、姫様、もうすぐジュディがこちらに来ますので、この部屋から動かないで大人しく待っててくださいね。あと、ギルバート様や他の側近方がいらした時はドアを開けたまま面会してください。他の殿方は部屋に入れないでください」
私は花の形をした砂糖菓子を口に入れながら返事をした。
「はーい。ところで、マリーはどこに行くの?」
部屋を出て行こうとするマリーを呼び止める。
「ライリー殿下から衣服をなんとかするように仰せつかったので、仕立て屋の手配を頼みに行ってきます」
「わかったわ」
マリーは急ぎ足で部屋を出て行った。


………。
やることがない。
お菓子も作れないし、食事も作る必要がない。

あとは……お掃除?


お仕着せに着替えて、部屋の中を掃除する。
ホウキ等はこの部屋にはないけれど、雑巾はあったので、窓枠とか拭いても大丈夫そうなところを丁寧に拭いていく。

熱中してお掃除をしていると、ドアの開く音がした。
振り返ると、私を見て、鬼の形相をしているマリーと、見たことのない女の人が立っていた。
「マリー、おかえりなさ」
「姫様!!」
おかえりなさいも言わせてもらえず、怒られる。
「なんて格好をしているんですかっ! 大人しく待っててくださいと、申し上げましたのに」
「えと、やることがなくて」
「もうもうもうっ!あきれてものが言えません!」

すっごく、ものを言ってると思うのだけれど…。

しゅん、と俯いていると、マリーの後ろに立つ女の人がくすくすと笑い始めた。
「まあまあ、マリーさん。誰も見ていないんですもの。いいじゃないですか」
マリーと同じ年くらいのご婦人は、腰を折り、挨拶をしてくれた。

「わたくしはローザと申します。今日はライリー殿下から、シャーロット様のドレスを作るようご依頼があり、登城いたしました」
私も慌てて腰を折る。
「シャーロットです。よろしくお願いします」

「ローザ様、申し訳ありません。このような見苦しいところに」
マリーが申し訳なさそうにローザ様に謝った。
「姫様、ローザ様はライリー殿下のご依頼を受けて、わざわざこちらにいらしてくださったのですよ。本来でしたら、わたしの方からご依頼して、お迎えに行かねばならないところを」
ローザ様はくすくすと笑いながらこちらを見る。

ドレスを作りに来てくれたってことは、デザイナーさんかしら。
品のいい風貌と同じく、品のいいドレスを着ていらっしゃる。

「ライリー殿下の母君、王妃様のドレスもわたくしが作らせていただいていますの。ライリー殿下のお妃様のドレスも作らせていただけるなんて、光栄でございます。さあ、早速採寸させてくださいませ」

シャキーン!
とメジャーを引っ張りながら、さっきまでの微笑みとは違う鋭い笑みを浮かべた。
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