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最終章 人質でなくなった王女と忘れない王太子
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「そうか」
叔父様は顎に手をあて、腕を組んだ。
今日は、昨日のパーティーの報告に、お城の貴族牢に来ている。
別に、報告する義務はないけれど、なんとなく、叔父様のお話を聞いてみたくなったのだ。
貴族牢は、軽い犯罪を犯した貴族が入るところだ。
今は叔父様の他は誰もいないので、のんびり過ごしているらしい。
お顔も、私が小さい頃から知っているお顔ではなく、穏やかな柔和な表情でいつも微笑んでいるように見えるほど。
牢と言っても、普通の部屋とあまり変わりはない。
窓に鉄格子がはまってて、ドアは鍵が掛けられていて外に出ることはできないけれど。
徹底して、硬く武器になりそうなものは排除されていて、食事のフォークやスプーンなどは木製。グラスも食器も木製で、ガラスを割って破片を武器にすることもできない。
そんな中ではあるが、叔父様はいつもカウチソファーに座り、本を読んでいる。
その叔父様が、本を置き、なにやら真剣な顔で考え事をしている。
「しかし、ディリオンくんの言う通り、何故ボナール程度の国の即位式に、国王自らが来たのかがわからんな」
「妃って、何番目のお妃さまにするつもりだったんですかね……」
私がため息をつくと、「確か帝国の王は未婚だぞ」と、ありえないことを言った。
「嘘ですわ。ジルベール陛下は私よりも10以上も年が離れているんですのよ? ご結婚、されていらっしゃらないはずがないわ」
「いやいや。独身だ。わしが王なら娘を嫁に出すな」
「叔父様! 娘は政治の道具ではなくってよ!」
身売りされるのなんて、金輪際真っ平だ。
「はは。冗談だが。しかし、シャーロット。行動には気をつけなさい。今のお前の状態は、ボナールだけでなく、ランバラルドも巻き込みかねない」
「そう、ですわね。早く共和国にして、ジルベール陛下の手の届かない所に行かなくては」
「何を言っとるんだ。お前は」
両手に握り拳を作り、気合を入れている私に、叔父様が水を差す。
「おまえは虹の後継者なんだから、共和国になったとしてもボナールから出ていけるわけがないだろう」
「え?」
「この国の歴史書は読んでいないのか?」
「いえ、読みましたが」
「では、わかっているんだろう? 虹の後継者が現れた時は、土地が肥え作物はたわわに実るが、後継者ではない王が治めた時代は不作や災害があった。わしが言える立場ではないが、復興を目指している今、この時代は、おまえはこの国を出るべきではない」
「……何故ですの?」
「聞かずともわかっているだろう? 虹の後継者たるシャーロットがこの国を出てランバラルドにいた時期、この国は作物がいつものように育たなかった。ランバラルド方面から流れる川が近くの作物を助けていたが、川から遠い畑は、枯れる直前までいったようだ。おまえがボナールに戻ってきたあたりから、作物は持ち直し、なんとか収穫できている。おまえがいなくなれば、食べる物に困る者が出てくるだろう」
この国を、出られない。
ああ、そうか。
ただのシャーロットになることは、初めから無理だったんだ。
「そうですわね。では、帝国にお嫁に行くことも無理ですわね。それはよかったです」
うまく笑えないのを気付かれないうちに、私は叔父様の前を辞去した。
牢の廊下に出ると、アーサーが待っていてくれる。
「姫様、顔色が良くないですよ? 何か言われましたか?」
「そんなことないわ。執務室に移動します」
「無理せず、今日はもう部屋に戻ったらいかがですか?」
アーサーは私の顔を覗き込む。
「大丈夫だってば。ふふ、アーサーは大袈裟ねえ」
コロコロと笑う。
うん。うまく笑えている。
「……オレに嘘ついてもわかりますからね。ちなみに、かあさんやジュディに嘘言ってもすぐバレますよ」
……うまくできていると思っているのは私だけだった。
執務室に着き、部屋に入る前にアーサーにお使いをお願いする。
「ディリオン様を、他の方に気付かれないように執務室にお呼びすることはできるかしら?」
「なんとかしますが……。ライには知られたくないことでも?」
「女はね、秘密を纏って生きていくものなのよ」
「生意気言ってもバレバレですよ。じゃ、行ってきます。ディリオン様を連れて戻ってくるまで、執務室から出ないでくださいね」
叔父様は顎に手をあて、腕を組んだ。
今日は、昨日のパーティーの報告に、お城の貴族牢に来ている。
別に、報告する義務はないけれど、なんとなく、叔父様のお話を聞いてみたくなったのだ。
貴族牢は、軽い犯罪を犯した貴族が入るところだ。
今は叔父様の他は誰もいないので、のんびり過ごしているらしい。
お顔も、私が小さい頃から知っているお顔ではなく、穏やかな柔和な表情でいつも微笑んでいるように見えるほど。
牢と言っても、普通の部屋とあまり変わりはない。
窓に鉄格子がはまってて、ドアは鍵が掛けられていて外に出ることはできないけれど。
徹底して、硬く武器になりそうなものは排除されていて、食事のフォークやスプーンなどは木製。グラスも食器も木製で、ガラスを割って破片を武器にすることもできない。
そんな中ではあるが、叔父様はいつもカウチソファーに座り、本を読んでいる。
その叔父様が、本を置き、なにやら真剣な顔で考え事をしている。
「しかし、ディリオンくんの言う通り、何故ボナール程度の国の即位式に、国王自らが来たのかがわからんな」
「妃って、何番目のお妃さまにするつもりだったんですかね……」
私がため息をつくと、「確か帝国の王は未婚だぞ」と、ありえないことを言った。
「嘘ですわ。ジルベール陛下は私よりも10以上も年が離れているんですのよ? ご結婚、されていらっしゃらないはずがないわ」
「いやいや。独身だ。わしが王なら娘を嫁に出すな」
「叔父様! 娘は政治の道具ではなくってよ!」
身売りされるのなんて、金輪際真っ平だ。
「はは。冗談だが。しかし、シャーロット。行動には気をつけなさい。今のお前の状態は、ボナールだけでなく、ランバラルドも巻き込みかねない」
「そう、ですわね。早く共和国にして、ジルベール陛下の手の届かない所に行かなくては」
「何を言っとるんだ。お前は」
両手に握り拳を作り、気合を入れている私に、叔父様が水を差す。
「おまえは虹の後継者なんだから、共和国になったとしてもボナールから出ていけるわけがないだろう」
「え?」
「この国の歴史書は読んでいないのか?」
「いえ、読みましたが」
「では、わかっているんだろう? 虹の後継者が現れた時は、土地が肥え作物はたわわに実るが、後継者ではない王が治めた時代は不作や災害があった。わしが言える立場ではないが、復興を目指している今、この時代は、おまえはこの国を出るべきではない」
「……何故ですの?」
「聞かずともわかっているだろう? 虹の後継者たるシャーロットがこの国を出てランバラルドにいた時期、この国は作物がいつものように育たなかった。ランバラルド方面から流れる川が近くの作物を助けていたが、川から遠い畑は、枯れる直前までいったようだ。おまえがボナールに戻ってきたあたりから、作物は持ち直し、なんとか収穫できている。おまえがいなくなれば、食べる物に困る者が出てくるだろう」
この国を、出られない。
ああ、そうか。
ただのシャーロットになることは、初めから無理だったんだ。
「そうですわね。では、帝国にお嫁に行くことも無理ですわね。それはよかったです」
うまく笑えないのを気付かれないうちに、私は叔父様の前を辞去した。
牢の廊下に出ると、アーサーが待っていてくれる。
「姫様、顔色が良くないですよ? 何か言われましたか?」
「そんなことないわ。執務室に移動します」
「無理せず、今日はもう部屋に戻ったらいかがですか?」
アーサーは私の顔を覗き込む。
「大丈夫だってば。ふふ、アーサーは大袈裟ねえ」
コロコロと笑う。
うん。うまく笑えている。
「……オレに嘘ついてもわかりますからね。ちなみに、かあさんやジュディに嘘言ってもすぐバレますよ」
……うまくできていると思っているのは私だけだった。
執務室に着き、部屋に入る前にアーサーにお使いをお願いする。
「ディリオン様を、他の方に気付かれないように執務室にお呼びすることはできるかしら?」
「なんとかしますが……。ライには知られたくないことでも?」
「女はね、秘密を纏って生きていくものなのよ」
「生意気言ってもバレバレですよ。じゃ、行ってきます。ディリオン様を連れて戻ってくるまで、執務室から出ないでくださいね」
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