人質姫と忘れんぼ王子

雪野 結莉

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最終章 人質でなくなった女王と忘れない王太子

11

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夜もふけた頃。
もう寝間着に着替えて寝ようとしていた頃に、激しくドアがノックされた。

ジュディがドレスにかけていたブラシを置き、こちらを見る。
「誰ですかね?」
多分、ライリー殿下だろう。
「ジュディ、開けてくれる?」
「では、ガウンを羽織ってください」
ジュディはガウンを持ってきてわたしに着せると、ドアを開けに行った。

ノックされたドアは廊下と繋がる側のドアで、その隣に私が今居る寝室がある。

ドアが開く音がして、ジュディとライリー殿下が言い争う声が聞こえる。
やっぱり、ライリー殿下だったのね。

「通せっ!」
バンっと寝室のドアが開いた。
私はガウンをしっかり着込んで、ベッドから立ち上がった。

「ライリー殿下。レディの寝室にこんな時間にいらっしゃるなんて、失礼ですわよ?」
「あ、いや、ごめん」
ライリー殿下は私の姿を見ると、少し頬を染めて俯いた。

「ライ! 外に出でってもらうわよ」
他国の王子にも容赦なく、ジュディが凄む。
「待ってくれ、ジュディ。オレはシャーロットに話があるんだ!」
「こんな夜でなくてもいいでしょう! 明日、お日様が出ている時間にいらしてください」
「待てない!」
寝室に来てまでも言い争う2人。

「ジュディ、いいのよ。ライリー殿下、わかりました。リビングに行ってらして。私もすぐに行きます。ジュディは殿下にお茶をお出ししたら、今日は下がっていいわ」
「何言ってんですか、姫様。こんな時間に殿下と2人っきりになんて!」
「ジュディ。大丈夫。お願いだから、言う通りにして?」

ジュディはブツブツ言いながらも、ライリー殿下にお茶を用意して、部屋を後にした。

私は、寝間着のままではライリー殿下の前には出られないので、簡素なワンピースに着替えリビングに行った。

「殿下、お待たせしました」
リビングに行くと、紅茶にも手をつけず、窓の外を眺めるライリー殿下がいた。

私はライリー殿下の前の長椅子に腰掛ける。
「こんな夜更にどういったお話が?」
私が問いかけると、ライリー殿下は私をキッと睨みつけた。
「しらばっくれて。ディリオンからそろそろ帰国するように言われたんだ」
「まぁ、そうですわね。王太子様が、これ以上他国にずっといるわけには行きませんわよね」
「ディリオンに帰るように言ったのはきみだろ?」

私はそっと、自分の紅茶に手を伸ばす。
「どうして私が?」
「ディリオンは、あんな態度を取るが、まだボナールがこんな状態なのに、途中で帰ろうなんて言うやつじゃない。きみがディリオンに帰れって言ったんだろう?」

確かに、ディリオン様に帰国するように言ったのは私だ。

私が考える今後のボナールの政策と、ランバラルドとの距離と、帝国への対応。
全てをディリオン様にお話しし、ダメなところはお直ししていただいて。
そして、ディリオン様、ライリー殿下がいなくても、なんとかやっていけるだろう見通しができたから、ディリオン様にライリー殿下を連れて帰国するようにお話ししたのだ。

「あなたがボナールにこのまま居ることは、あなたのプラスにはなりません。御恩は必ずお返しいたします。私が嫁ぐことで差し引いていただいた賠償金も、何年かかってもお支払いいたします。だからっ」
だから、私のことなんか置いて、ランバラルドへ帰って。

「じゃあ、シャーロットはどうするんだよ。シャーロットは、このままじゃオレと一緒にランバラルドへ帰れないじゃないか」
「私はボナールの王族です。即位して女王になりました。どの道、一緒には行けないのよ」
「きみは、ランバラルドへ嫁いで来たんだろう」
「それは、あなたがボナールの政治に口を出すための口実だったはずだわ。もう充分にやってくださったわ」

ライリー殿下は、傷ついたような目をして私を見た。
「だから、オレはもう、要らない?」

違うっ!
了解して、用がなくなったから帰れって言ってるんじゃない。
私があなたと居ることで、余計な火の粉が被ってはいけないから、この国に鎖で繋がれたような私に構っていてはいけないから。

私の脳裏に、ライリー殿下が愛おしそうに民を見る姿が浮かぶ。
あなたはとても良い王になる。

「私は、ここからあなたが立派な王様になるのを応援しています」


「そう、か。わかった。帰るよ」
ライリー殿下はふらりと立ち上がり、部屋を出て行こうと、ドアノブに手をかけた。
私も慌ててお見送りしようと席を立つ。

「ランバラルドみたいな普通の国より、帝国のような大国に嫁いで、庇護してもらう方がボナールにとってはいいかもしれないもんな。オレが一人で頭を冷やしている間にジルベール陛下と親交を深めたのか」
ライリー殿下はドアの方を向いたまま、私の方を見向きもせず、冷たい言葉を投げかける。

「違う、ジルベール陛下とは、何もっ」
ライリー殿下へと手を伸ばすと、ライリー殿下は私の腕を掴み、くるりと向きを変えて、私をドア横の壁とライリー殿下の身体の間に閉じ込めた。
私の逃げ場を奪って、私の腰に手を回して引き寄せる。
乱暴に私の唇を殿下の唇で塞ぐ。

「ふっ、」
息が苦しい。

長い長いキスが終わると、ライリー殿下は泣きそうな顔で私を見下ろした。
「ジルベール陛下と結婚するときは、オレには招待状を送らないで」

それだけ言うと、ライリー殿下は部屋を出て行った。

私は一人部屋に取り残され、ずるずると力なくその場に座り込む。
「ふふっ、バカね、ライ。結婚なんて、するわけないじゃない。私はあなたの妻じゃないの。また忘れて、しようがない人……」

私の瞳からは、ポロポロと涙が溢れ出てきて、もう前が何も見えないくらい。
冷たい床と、冷たい涙が、私の体をどんどん冷やしてゆくのだった。
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