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最終章 人質でなくなった王女と忘れない王太子
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「シャーロットちゃん?」
ライリー陛下の輝くばかりの笑顔に見惚れていると、フレッド様から声がかかる。
はっ!
ライリー陛下の満面の笑みなんて、数年ぶりに見たから、気持ちが高揚してしまって、身体が固まってしまっていたわ。
応接室にはいつものライリー陛下の側近の方々、ディリオン様、コンラッド様、ジェイミー様がいらっしゃるのに。
ゆっくりと、美しく見えるように、カーテシーをする。
「ライリー陛下。お久しぶりでございます。ようこそボナールへ」
これでも、今日のドレスは夜会用以外では一番上等なドレスを着てきた。
ライリー陛下の目に映る私は、少しだけでも綺麗でありたい。
「いいからいいから。シャーロットちゃん、こっちにおいで」
フレッド様が私を手招きするので、私はライリー陛下の向かい側、フレッド様の隣に輿を下ろした。
「シャーロットちゃんってば、久しぶりに会うのに他人行儀だなあ」
「だってフレッド様、今日は正式なご訪問だって……」
「いいじゃん。もうこの部屋の中は護衛にも外してもらって、オレたちしかいないんだし」
「そうですか……?」
おずおずとライリー陛下のお顔を見ると、ライリー陛下も微笑んで頷いてくれる。
それを見て、やっと私も笑顔になることができた。
私とライリー陛下の空気が、仲の良かった以前の時のものに戻ったのを見て、フレッド様は立ち上がった。
「じゃ、あとはお2人で!」
そう言って、ディリオン様とコンラッド様の腕を掴んで部屋を出て行こうとする。
え、ちょっと待って。いきなり2人きりにさせないで!
私が手を伸ばそうとすると、ディリオン様が先に反論する。
「ちょっと待て。結婚式はどうするのか、詳細な打ち合わせが必要なのだ」
「えー、いいじゃんいいじゃん。そんなの後回しでー。寂しい独り身のオレとしては、イチャイチャするところなんて見たくないんだよねぇ」
フレッド様は3人を部屋から押し出すようにして、「じゃ、シャーロットちゃん。また後でね」とウインクをして応接室を出て行った。
残されたのは、正真正銘私とライリー陛下の2人きり。
私は2人きりで緊張するより先に、ディリオン様が言った言葉の方が気になった。
結婚式って、ライリー陛下はいよいよご結婚されるのかしら。
そのご報告にいらしたのかしら。
ずきん、と胸が痛くなる。
そのための正式なご訪問なのか、早く訊かなきゃ。
「あ、あの。ライリー陛下。おめでとうございます」
ライリー陛下は私に視線を移した。
「ん? あぁ、シャーロット、ありがとう。でも、それは即位式の時に聞いたよ? そんなにかしこまって言わなくても大丈夫だよ」
ライリー陛下はくすくすと笑った。
私が今言ったのは、即位のではなく、ご結婚「おめでとう」だったのに……。
あ、もしかして即位された時には、もうご結婚が決まっていらっしゃったのかしら。
私が即位なさったことにお祝いを申し上げた時の「おめでとう」がご結婚のお祝いと取られていたのだわ。
私は気がつかないうちに、ライリー陛下のご結婚をお祝いしていたなんて。
ライリー陛下にお会いして高揚していた心が、だんだん沈んでいく。
恩人のライリー陛下のご結婚なのに、喜べない自分が嫌い。
それでも、表情を繕って、ライリー陛下に話しかけなければ。
「結婚生活も新しく始められるのでしょう? でしたら、喜ばしいことは、何度言っても言い足りません」
ライリー陛下が照れたように頭をかきながら赤くなる。
「え、あ、まあ。そうだね。……っていうか、シャーロットはそれでいいの?」
ライリー陛下は覗き込むように、頬を赤くして私を見つめる。
言いたくない。
言いたくないけれど、言わなきゃ。
「もちろんでございます。ライリー陛下のことを、お幸せを、いつでも思っておりましたもの」
ライリー陛下がお幸せであるようにと、いつも思ってた。
その気持ちには、嘘偽りはない。
私の肯定の言葉を聞き、ライリー陛下は光輝くように、ぱぁっと明るく笑った。
「嬉しいよ、シャーロット。本当のところ、少し自信がなかったんだ。断られたらどうしようかって。帝国のジルベール陛下とも親交を深めているという噂も聞いていたし。でも、ジルベール陛下のご結婚の話は聞かないから大丈夫かなーって思ったり。……どうしても諦めきれなかったんだ」
あぁ、ライリー陛下の奥様になられるお方は、ジルベール陛下もご執心の方だったのね。
でも、ジルベール陛下はお手紙では想い人がいらっしゃるなんて言ってなかったわ。
まあ、妹扱いの私にはそんなことまで言わないか。
でも、あの尊大なジルベール陛下がご執心ということは、とても素敵なお姫様に違いない。
ライリー陛下は、そんな方と想いを遂げられたのね。
「それでね、シャーロット。細かい手続きとかもあるんだけど、オレとしては一刻も早く一緒に暮らしたいと思ってるんだけど、いいかな。できれば、ランバラルド城の離宮をオレたちの新居として暮らせたらいいかなって。ほら、広い居室より近くにいられるしさ、建物はオレの親父の趣味だけど、なかなかに新婚っぽいし」
「そうですわね。離宮はとても素敵なところです。新婚生活を送れたら、とても幸せなことかと」
だんだんと、ちゃんとうまく笑えなくなってきた。
離宮でライリー陛下が奥様と新婚生活を送られる。
私がライと出掛けて、幸せな気分で過ごしたあの離宮で、ライが別の人と暮らす。
思っただけで、胸が引き裂かれるよう。
ダメよ。
シャーロット、ちゃんと笑って。
ライリー陛下のお幸せをいつも祈っていたじゃない。
笑顔でお祝いしなきゃ。
私が笑えないでいる間も、ライリー陛下が言葉を続ける。
「今回は書類も揃えて持ってきているから、ジルベール陛下に邪魔されないうちに早くサインしてもらって、」
照れながら顔を上げたライリー陛下が、私の顔を見て目を見開く。
「……シャーロット、どうしたの? もしかして、本心ではそんなに嫌だったの」
「何をおっしゃいますの? ライリー陛下。ライリー陛下のお心のままに」
書類、離縁届にサインします。
ライリー陛下が正妃をお迎えなられた時の、障害にならないように、きちんと離縁します。
そう言わなきゃいけないのに、言葉が続かない。
「シャーロット。オレ、無理強いはしないよ? そんなに嫌なら、無理しなくていいんだ。無理にサインする必要はないんだよ」
「だっ、大丈夫です。私っ、サインできます」
「だって、泣いてるじゃないか。ポロポロ、綺麗にしてきた、お化粧が落ちてしまうくらいに」
ライリー陛下が悲しそうなお顔でそう言うので、頬を触ると指がどうしようもないくらいに濡れていた。
ライリー陛下の輝くばかりの笑顔に見惚れていると、フレッド様から声がかかる。
はっ!
ライリー陛下の満面の笑みなんて、数年ぶりに見たから、気持ちが高揚してしまって、身体が固まってしまっていたわ。
応接室にはいつものライリー陛下の側近の方々、ディリオン様、コンラッド様、ジェイミー様がいらっしゃるのに。
ゆっくりと、美しく見えるように、カーテシーをする。
「ライリー陛下。お久しぶりでございます。ようこそボナールへ」
これでも、今日のドレスは夜会用以外では一番上等なドレスを着てきた。
ライリー陛下の目に映る私は、少しだけでも綺麗でありたい。
「いいからいいから。シャーロットちゃん、こっちにおいで」
フレッド様が私を手招きするので、私はライリー陛下の向かい側、フレッド様の隣に輿を下ろした。
「シャーロットちゃんってば、久しぶりに会うのに他人行儀だなあ」
「だってフレッド様、今日は正式なご訪問だって……」
「いいじゃん。もうこの部屋の中は護衛にも外してもらって、オレたちしかいないんだし」
「そうですか……?」
おずおずとライリー陛下のお顔を見ると、ライリー陛下も微笑んで頷いてくれる。
それを見て、やっと私も笑顔になることができた。
私とライリー陛下の空気が、仲の良かった以前の時のものに戻ったのを見て、フレッド様は立ち上がった。
「じゃ、あとはお2人で!」
そう言って、ディリオン様とコンラッド様の腕を掴んで部屋を出て行こうとする。
え、ちょっと待って。いきなり2人きりにさせないで!
私が手を伸ばそうとすると、ディリオン様が先に反論する。
「ちょっと待て。結婚式はどうするのか、詳細な打ち合わせが必要なのだ」
「えー、いいじゃんいいじゃん。そんなの後回しでー。寂しい独り身のオレとしては、イチャイチャするところなんて見たくないんだよねぇ」
フレッド様は3人を部屋から押し出すようにして、「じゃ、シャーロットちゃん。また後でね」とウインクをして応接室を出て行った。
残されたのは、正真正銘私とライリー陛下の2人きり。
私は2人きりで緊張するより先に、ディリオン様が言った言葉の方が気になった。
結婚式って、ライリー陛下はいよいよご結婚されるのかしら。
そのご報告にいらしたのかしら。
ずきん、と胸が痛くなる。
そのための正式なご訪問なのか、早く訊かなきゃ。
「あ、あの。ライリー陛下。おめでとうございます」
ライリー陛下は私に視線を移した。
「ん? あぁ、シャーロット、ありがとう。でも、それは即位式の時に聞いたよ? そんなにかしこまって言わなくても大丈夫だよ」
ライリー陛下はくすくすと笑った。
私が今言ったのは、即位のではなく、ご結婚「おめでとう」だったのに……。
あ、もしかして即位された時には、もうご結婚が決まっていらっしゃったのかしら。
私が即位なさったことにお祝いを申し上げた時の「おめでとう」がご結婚のお祝いと取られていたのだわ。
私は気がつかないうちに、ライリー陛下のご結婚をお祝いしていたなんて。
ライリー陛下にお会いして高揚していた心が、だんだん沈んでいく。
恩人のライリー陛下のご結婚なのに、喜べない自分が嫌い。
それでも、表情を繕って、ライリー陛下に話しかけなければ。
「結婚生活も新しく始められるのでしょう? でしたら、喜ばしいことは、何度言っても言い足りません」
ライリー陛下が照れたように頭をかきながら赤くなる。
「え、あ、まあ。そうだね。……っていうか、シャーロットはそれでいいの?」
ライリー陛下は覗き込むように、頬を赤くして私を見つめる。
言いたくない。
言いたくないけれど、言わなきゃ。
「もちろんでございます。ライリー陛下のことを、お幸せを、いつでも思っておりましたもの」
ライリー陛下がお幸せであるようにと、いつも思ってた。
その気持ちには、嘘偽りはない。
私の肯定の言葉を聞き、ライリー陛下は光輝くように、ぱぁっと明るく笑った。
「嬉しいよ、シャーロット。本当のところ、少し自信がなかったんだ。断られたらどうしようかって。帝国のジルベール陛下とも親交を深めているという噂も聞いていたし。でも、ジルベール陛下のご結婚の話は聞かないから大丈夫かなーって思ったり。……どうしても諦めきれなかったんだ」
あぁ、ライリー陛下の奥様になられるお方は、ジルベール陛下もご執心の方だったのね。
でも、ジルベール陛下はお手紙では想い人がいらっしゃるなんて言ってなかったわ。
まあ、妹扱いの私にはそんなことまで言わないか。
でも、あの尊大なジルベール陛下がご執心ということは、とても素敵なお姫様に違いない。
ライリー陛下は、そんな方と想いを遂げられたのね。
「それでね、シャーロット。細かい手続きとかもあるんだけど、オレとしては一刻も早く一緒に暮らしたいと思ってるんだけど、いいかな。できれば、ランバラルド城の離宮をオレたちの新居として暮らせたらいいかなって。ほら、広い居室より近くにいられるしさ、建物はオレの親父の趣味だけど、なかなかに新婚っぽいし」
「そうですわね。離宮はとても素敵なところです。新婚生活を送れたら、とても幸せなことかと」
だんだんと、ちゃんとうまく笑えなくなってきた。
離宮でライリー陛下が奥様と新婚生活を送られる。
私がライと出掛けて、幸せな気分で過ごしたあの離宮で、ライが別の人と暮らす。
思っただけで、胸が引き裂かれるよう。
ダメよ。
シャーロット、ちゃんと笑って。
ライリー陛下のお幸せをいつも祈っていたじゃない。
笑顔でお祝いしなきゃ。
私が笑えないでいる間も、ライリー陛下が言葉を続ける。
「今回は書類も揃えて持ってきているから、ジルベール陛下に邪魔されないうちに早くサインしてもらって、」
照れながら顔を上げたライリー陛下が、私の顔を見て目を見開く。
「……シャーロット、どうしたの? もしかして、本心ではそんなに嫌だったの」
「何をおっしゃいますの? ライリー陛下。ライリー陛下のお心のままに」
書類、離縁届にサインします。
ライリー陛下が正妃をお迎えなられた時の、障害にならないように、きちんと離縁します。
そう言わなきゃいけないのに、言葉が続かない。
「シャーロット。オレ、無理強いはしないよ? そんなに嫌なら、無理しなくていいんだ。無理にサインする必要はないんだよ」
「だっ、大丈夫です。私っ、サインできます」
「だって、泣いてるじゃないか。ポロポロ、綺麗にしてきた、お化粧が落ちてしまうくらいに」
ライリー陛下が悲しそうなお顔でそう言うので、頬を触ると指がどうしようもないくらいに濡れていた。
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