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8章 記憶
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わたしはサリーさんと本館の調理場に、今日は夕食はいらないと伝えた。
調理場のゼンは、「わかった。料理長に伝えておく」とだけ言っていたが、サリーさんは複雑そうな顔をしていた。
「サリーさん、ルーク様が遅いと何かありますか?」
わたしが聞くと、サリーさんは困ったような顔をした。
「ルーク様は夜会にも必要最低限しかお出にならないし、隊の仕事は体を使うでしょう? 書類仕事は持ち帰ってこられるから遅くなることは滅多にないの。それが、朝から遅くなるのがわかっている時は、お城に呼ばれている時なのよ」
お城に呼ばれる。
それは、ローゼリア様と会うことを意味している。
「一応、フランクさんのところには、ルーク様から予定表を渡されているから、今日の朝食はしっかりめになっていたと思うけど、お昼は食べてくださるのかしらねぇ」
「お昼? どうしてですか?」
サリーさんは辛そうに笑う。
「ローゼリア様とお会いすると、食欲がなくなるそうで、ルーク様はあまり食べたがらないの。朝からいらないと言われない限りはお食事を用意するけど、いつも、残していらっしゃるわ。今夜は多分召し上がらないつもりなのだと思うから、せめてお昼はきちんと食べていただきたいけど、外にいらっしゃるから……」
ルーク様は、お昼は討伐隊が使う演習場の食堂で取るのだ。
わたしたち屋敷の使用人には、食べているのかいないのかわからない。
そんな話を聞いてしまったら、もうルーク様のためにいろいろしたくなる。
ルーク様のお部屋は念入りにして、シーツもパリッと綺麗にベッドにかけた。
せめて、ぐっすり寝られるように。
そうだ。
お部屋に花を飾ろう。
本館のお庭から、庭師のトムさんに言って、少しお花を分けてもらおう。
その夜、わたしは今日の仕事が終わって、自分の部屋にいた。
ルーク様がいつ帰ってくるのか気になって、窓の外をちらちら見ていると、ルーク様が侍従を従えて別棟に戻って来たのが見えた。
まだ別棟には他の侍女が残って仕事をしているはずだけど、サリーさんはルーク様の帰りが遅いので、フランクさんから残らなくていいと言われて帰ってしまっているはず。
わたしは急いでお仕着せに着替えて、別棟に走って行った。
コンコン。
ルーク様の部屋のドアをノックすると、ルーク様から「入れ」と入室許可が出た。
「失礼します」
中に入ると、上着のボタンを緩めて寛いでいるルーク様が目に入る。
「なんだ、ニーナ。今日はもういいと、言ってあったはずだが」
「はい、聞いてます。わたしが勝手にきてしまっただけですから」
ルーク様はソファの背もたれに身を預けた。
「なんの用だ?」
「お疲れでしょうから。お茶でも入れましょうか?」
ルーク様は目線だけでわたしを見る。
「いや、いらない」
うっ、わたしってば、余計なお世話だったのかも……。
もしかして、それどころかくつろいでいるところを邪魔してる……?
「も、申し訳ありませんでした!」
ルーク様が寛いでいたところを邪魔した罪悪感で、泣きそうになりながら頭を下げて退出しようとすると、ルーク様がわたしを呼び止めた。
「ニーナ、悪かった。ちょっと疲れてて八つ当たりしたんだ。お茶、入れてくれるか?」
「は、はいっ!」
わたしは慌ててルーク様のお部屋を出ると、部屋を出たすぐのところに用意してあったワゴンを押して再度中に入った。
「なんだ。オレの返事を聞く前に、もう用意してあったのか」
わたしは手を動かしながら、ルーク様に返事をする。
「はい。早く召し上がっていただいて、すぐにお休みになれるようにと」
「そうか」
無言の空気の中に、コポコポとお茶を入れる音だけが響く。
ゆったりとして、心地良い時間が続く。
ルーク様も、そう思ってくれているといいけれど……。
調理場のゼンは、「わかった。料理長に伝えておく」とだけ言っていたが、サリーさんは複雑そうな顔をしていた。
「サリーさん、ルーク様が遅いと何かありますか?」
わたしが聞くと、サリーさんは困ったような顔をした。
「ルーク様は夜会にも必要最低限しかお出にならないし、隊の仕事は体を使うでしょう? 書類仕事は持ち帰ってこられるから遅くなることは滅多にないの。それが、朝から遅くなるのがわかっている時は、お城に呼ばれている時なのよ」
お城に呼ばれる。
それは、ローゼリア様と会うことを意味している。
「一応、フランクさんのところには、ルーク様から予定表を渡されているから、今日の朝食はしっかりめになっていたと思うけど、お昼は食べてくださるのかしらねぇ」
「お昼? どうしてですか?」
サリーさんは辛そうに笑う。
「ローゼリア様とお会いすると、食欲がなくなるそうで、ルーク様はあまり食べたがらないの。朝からいらないと言われない限りはお食事を用意するけど、いつも、残していらっしゃるわ。今夜は多分召し上がらないつもりなのだと思うから、せめてお昼はきちんと食べていただきたいけど、外にいらっしゃるから……」
ルーク様は、お昼は討伐隊が使う演習場の食堂で取るのだ。
わたしたち屋敷の使用人には、食べているのかいないのかわからない。
そんな話を聞いてしまったら、もうルーク様のためにいろいろしたくなる。
ルーク様のお部屋は念入りにして、シーツもパリッと綺麗にベッドにかけた。
せめて、ぐっすり寝られるように。
そうだ。
お部屋に花を飾ろう。
本館のお庭から、庭師のトムさんに言って、少しお花を分けてもらおう。
その夜、わたしは今日の仕事が終わって、自分の部屋にいた。
ルーク様がいつ帰ってくるのか気になって、窓の外をちらちら見ていると、ルーク様が侍従を従えて別棟に戻って来たのが見えた。
まだ別棟には他の侍女が残って仕事をしているはずだけど、サリーさんはルーク様の帰りが遅いので、フランクさんから残らなくていいと言われて帰ってしまっているはず。
わたしは急いでお仕着せに着替えて、別棟に走って行った。
コンコン。
ルーク様の部屋のドアをノックすると、ルーク様から「入れ」と入室許可が出た。
「失礼します」
中に入ると、上着のボタンを緩めて寛いでいるルーク様が目に入る。
「なんだ、ニーナ。今日はもういいと、言ってあったはずだが」
「はい、聞いてます。わたしが勝手にきてしまっただけですから」
ルーク様はソファの背もたれに身を預けた。
「なんの用だ?」
「お疲れでしょうから。お茶でも入れましょうか?」
ルーク様は目線だけでわたしを見る。
「いや、いらない」
うっ、わたしってば、余計なお世話だったのかも……。
もしかして、それどころかくつろいでいるところを邪魔してる……?
「も、申し訳ありませんでした!」
ルーク様が寛いでいたところを邪魔した罪悪感で、泣きそうになりながら頭を下げて退出しようとすると、ルーク様がわたしを呼び止めた。
「ニーナ、悪かった。ちょっと疲れてて八つ当たりしたんだ。お茶、入れてくれるか?」
「は、はいっ!」
わたしは慌ててルーク様のお部屋を出ると、部屋を出たすぐのところに用意してあったワゴンを押して再度中に入った。
「なんだ。オレの返事を聞く前に、もう用意してあったのか」
わたしは手を動かしながら、ルーク様に返事をする。
「はい。早く召し上がっていただいて、すぐにお休みになれるようにと」
「そうか」
無言の空気の中に、コポコポとお茶を入れる音だけが響く。
ゆったりとして、心地良い時間が続く。
ルーク様も、そう思ってくれているといいけれど……。
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