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本編>第一綴:——
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しおりを挟む取引は秘密裏に。
——十八世紀の音楽家ですか。
ノイズ。カーテンが白昼の光のなかで揺らめく。
——ええ、まあそのあたりですとまだ奏術師が魔法使いのスタンダードだった時代ですかね。音楽家より奏術師という呼称を使ったほうが適当でしょう。
いつかの時代。昼下がりの雑学ラジオ。窓辺に置かれた受信機は、それまで流れていた政界のニュースから切り替わり、聞く者のいない部屋の中に、復調したパーソナリティと学者の会話を垂れ流す。
——よく聞く名ですと、ブランシャール、フォーゲル、サルヴィーニ、アールステッド……。
——今挙げていただいたのはほとんどが十八世紀も前半寄りの奏術師らですね。かなり魔法が意識されていた頃です。サルヴィーニだけもう少し前の時代ですが。
——ああ、彼はあの大混乱以前の誕生でしたっけ。それはさておき、十八世紀といえばやはり、メーヘムですか。
——転換点となった人物ですからね。知名度は高い。
——となると今日もその話で?
——半分正解ですが半分違います。レーベンツァイトという名の奏術師はご存知ですか。
——あは、お恥ずかしながら……。
——最近焦点のあたり始めた人物です。まあ、一部の魔術マニアは別の面で知っているかもしれませんが……彼もなかなか面白い人なんですよ。メーヘムがお好きな方は知っていてもいいかもしれません。
——それはまだどういう?
——彼はメーヘムの師にあたる人物で、共に宮廷奏術師としてオスト国の王宮に仕えていました。活動時期もほとんど被ります。十八世紀後半ですね。
——メーヘムが市井に下ってからも親交があったそうで、一説には彼がかの天才を看取ったとまで言われています。
——愛人に看取られたというのが通説でしたが……。
——その説は近年否定されつつあるんですよ。弟子ホルバインの纏めた手記や、遺産相続関連の裁判記録などが残っていまして、最近見つかった新たな文書も含めての再検討がなされた結果、誤りである可能性が高いとの結論に至ったようです。
——へえ、そうなんですね。
——それで、レーベンツァイトというのはどのような人物だったんでしょうか?書いた曲だったりは、今でも聞けるものなんですか?
——それが……どうも彼は三十代のあたりで精神疾患を患ってしまったらしく、自らの書いた楽譜のほとんどを燃やしてしまったんです。
——デゼーの歌劇場やいくつかの宮廷でも彼の曲が演奏された事を示す記録がありますので、大家だったことは間違いなさそうなのですが。
——ええ!?それは残念ですね。
——それでも何曲かは今も聞くことができるはずです。断片的に残ったもの、他者により復元されたものなどもありますから、今後また新たに表に出てくる曲もあるかもしれません。
——ちなみに彼は研究者気質なところがあって、当時のデゼーの宮廷奏術師にしては珍しく様々な楽器を所有していました。彼の記した音に関連する魔法理論は、今日の魔導音響工学の発展にも寄与しているんですよ。
——魔導音響工学!大学でやりましたよ、別で音楽大学に行っていた友人が「俺は音楽をやりに来たのに、なんで計算なんかやらされてんだ!」とか言って期末試験前に転がり込んできたりして。
——はは、魔法適性のある人は知らないと事故の元であったりもしますから……。さて、それで。それでですね。話を戻しましょう。
——はい。
——晩年彼がいた修道院が、最近になって改修工事を行うことになりました。そのための整理の際になんと、十八世紀に書かれたであろう楽譜が出てきたんです。
——ということは、レーベンツァイトの作品が新たに発見されたと?
——いえ、それがですね……筆跡を照らし合わせた結果、どうもメーヘムの作品らしいということがわかったんです。
——それはまたなぜ、その修道院から出てきたんでしょうか?
——まだはっきりとわかっていません。彼が盗みだしただとか奪い取っただとか言う人もいますが、私はそれはないだろうと考えています。
——と言いますと。
——彼らの対立は実際にあったことでしょうが、ただ敵対していたのなら親交は続かないはずです。また発見された楽譜は保存状態がたいへん良く、それ自体にも、そしてそれの収められていた箱にも魔法が施されていました。時間に干渉する魔法です。劣化を遅らせるとでも言いましょうか。
——……かなり高度な魔法では?
——まあ、名前からわかる通り身内に時間と名を貰うほどの人物がいたようですから、血筋ではないでしょうかね。
部屋に近づく足音がひとつ。それは開きっぱなしの扉からラジオの置かれた窓辺の方へ。
——発見された楽譜は未完成でした。私はそこからひとつ信じてみたい。
風が吹き込む。花の香りを運ぶ風。
——その楽譜は盗まれたのでも奪われたのでもなく、死を前にした天才からその師へ、託されたのではないか、と——
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