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プロローグと序
シルヴィアの姉
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「ここの角を曲がったとこが私達が住んでるとこ」
前を歩いていたシルヴィアが指差す。
路地裏だが掃除はされていて、光も十分に入ってくるため、さほど暗い印象はない。
細長い通路のそばにはどこからか拾ってきたような棚や小さなテーブル、その他の家具が配置されていた。
上には綱に吊るされた布がいくつかある。
生活感溢れる、いかにも隠れ家、というような雰囲気がある。
「住民からの苦情とか来ねえのか?」
先程の激辛食をつまみながら理源が聞く。
食べた時は辛すぎて噛んだ感触など記憶から消えかけていたが、スナック菓子の一種らしい。
理源が噛みしめるたびにザクザクと音を立てている。
そんな姿を見ているだけであの燃え盛る業火のような刺激が、酷いイタズラをされた怒りとともに蘇ってくる。
あの時奴が渡した水も何かの罠だったらと思うと...
忌々しい激辛食と理源から目を背け、質問に答える。
「特別悪さもしてないし、ここの人達はあまり気にしてないみたい」
そう言いながら路地裏に入っていくシルヴィアの後ろを理源がついてくる。
「他のお仲間さん達は?」
辺りを見渡しても人は見当たらない。
んー、と少し考えて、
「いつもこの時間はみんな仕事探しに行ったりとか、街の外で食いもん探しに行ったりとかしてんじゃねぇかな」
とシルヴィアは答えながら奥へ向かう。
「ん?じゃあお前働かねーで盗み働いてたってことか?」
「うっせえ!たまになんも仕事貰えない日もあんだよ!今日は運が悪かっただけ!」
シルヴィアは振り返って、小馬鹿にするような表情の理源に反抗する。
「あら、シルヴィアじゃない」
2人の騒ぎに反応して1人の女性が奥から声をかける。
シルヴィアはその姿を見ると先ほどとうって変わって表情を明るくし、嬉しそうな声をあげた。
「あ、姉ちゃん!」
「姉ちゃん!?」
理源は信じられないというふうに女性を見た。
あまりにシルヴィアと似てなさすぎるのだ。
長い黒髪は肩近くまであり、透き通りそうなほどに真っ白な肌、細い眉と長いまつ毛の下には緑の大きな瞳が輝いている。
一国の王女のような上品さと穏やかさを感じるこの見た目なら、街を歩けばすれ違う人が思わず振り向いてしまうかもしれない。
着ているものは質の悪いやや薄汚れた布で出来ているが、それでも美しさが損なわれることはない。
「いや、お前、姉ちゃんて、ええ...?」
困惑する理源にシルヴィアが自信有り気に言う。
「すげぇキレイだよな!初めて会った人はみんなそう言うんだぜ!」
「もしかして...義理の?いや、それか姉同然の仲という...」
再びシルヴィアが目を剥く。
「悪かったな全然似てなくて!!姉ちゃんは父ちゃんの背の高さと母ちゃんの顔と髪受け継いだんだよ!どーせ私は...!」
うー、と悔しそうに近くにあった石を軽く蹴る。
「シルヴィアにはお父さんの髪と力強さが表れてるから大丈夫よ」
シルヴィアの姉は励ますような、楽しんでるような微笑みを浮かべている。
「挨拶が遅れましたね。私はセレーネです。シルヴィアのお友達ですか?」
セレーネがぺこりと頭を下げる。
(いや、お友達には見えねーだろ...)
シルヴィアが心の中で突っ込む。
「理源です。妹さんには少し街を案内してもらっていまして」
理源は今まで見せたことのない紳士的な素振りと笑顔を見せた。
(は?)
これを見て聞いて驚いたのはシルヴィアである。
どう見てもこの男、先ほどと態度が違いすぎる。
少し前まで自分を散々馬鹿にしてきた奴の言うことではない。
この男...狙っていやがる。
声も出ないシルヴィアの考えなど露知らずのセレーネが嬉しそうな声をあげる。
「まあ!そうだったんですか!もしこんな所でよろしければゆっくりしていってください!」
まあ遠慮のない男である。招かれた奥の部屋になんのためらいもなくついて行った。
そういえば、この男は一体何者なのだろうか?
今更ながらシルヴィア疑問に思ったのだった。
前を歩いていたシルヴィアが指差す。
路地裏だが掃除はされていて、光も十分に入ってくるため、さほど暗い印象はない。
細長い通路のそばにはどこからか拾ってきたような棚や小さなテーブル、その他の家具が配置されていた。
上には綱に吊るされた布がいくつかある。
生活感溢れる、いかにも隠れ家、というような雰囲気がある。
「住民からの苦情とか来ねえのか?」
先程の激辛食をつまみながら理源が聞く。
食べた時は辛すぎて噛んだ感触など記憶から消えかけていたが、スナック菓子の一種らしい。
理源が噛みしめるたびにザクザクと音を立てている。
そんな姿を見ているだけであの燃え盛る業火のような刺激が、酷いイタズラをされた怒りとともに蘇ってくる。
あの時奴が渡した水も何かの罠だったらと思うと...
忌々しい激辛食と理源から目を背け、質問に答える。
「特別悪さもしてないし、ここの人達はあまり気にしてないみたい」
そう言いながら路地裏に入っていくシルヴィアの後ろを理源がついてくる。
「他のお仲間さん達は?」
辺りを見渡しても人は見当たらない。
んー、と少し考えて、
「いつもこの時間はみんな仕事探しに行ったりとか、街の外で食いもん探しに行ったりとかしてんじゃねぇかな」
とシルヴィアは答えながら奥へ向かう。
「ん?じゃあお前働かねーで盗み働いてたってことか?」
「うっせえ!たまになんも仕事貰えない日もあんだよ!今日は運が悪かっただけ!」
シルヴィアは振り返って、小馬鹿にするような表情の理源に反抗する。
「あら、シルヴィアじゃない」
2人の騒ぎに反応して1人の女性が奥から声をかける。
シルヴィアはその姿を見ると先ほどとうって変わって表情を明るくし、嬉しそうな声をあげた。
「あ、姉ちゃん!」
「姉ちゃん!?」
理源は信じられないというふうに女性を見た。
あまりにシルヴィアと似てなさすぎるのだ。
長い黒髪は肩近くまであり、透き通りそうなほどに真っ白な肌、細い眉と長いまつ毛の下には緑の大きな瞳が輝いている。
一国の王女のような上品さと穏やかさを感じるこの見た目なら、街を歩けばすれ違う人が思わず振り向いてしまうかもしれない。
着ているものは質の悪いやや薄汚れた布で出来ているが、それでも美しさが損なわれることはない。
「いや、お前、姉ちゃんて、ええ...?」
困惑する理源にシルヴィアが自信有り気に言う。
「すげぇキレイだよな!初めて会った人はみんなそう言うんだぜ!」
「もしかして...義理の?いや、それか姉同然の仲という...」
再びシルヴィアが目を剥く。
「悪かったな全然似てなくて!!姉ちゃんは父ちゃんの背の高さと母ちゃんの顔と髪受け継いだんだよ!どーせ私は...!」
うー、と悔しそうに近くにあった石を軽く蹴る。
「シルヴィアにはお父さんの髪と力強さが表れてるから大丈夫よ」
シルヴィアの姉は励ますような、楽しんでるような微笑みを浮かべている。
「挨拶が遅れましたね。私はセレーネです。シルヴィアのお友達ですか?」
セレーネがぺこりと頭を下げる。
(いや、お友達には見えねーだろ...)
シルヴィアが心の中で突っ込む。
「理源です。妹さんには少し街を案内してもらっていまして」
理源は今まで見せたことのない紳士的な素振りと笑顔を見せた。
(は?)
これを見て聞いて驚いたのはシルヴィアである。
どう見てもこの男、先ほどと態度が違いすぎる。
少し前まで自分を散々馬鹿にしてきた奴の言うことではない。
この男...狙っていやがる。
声も出ないシルヴィアの考えなど露知らずのセレーネが嬉しそうな声をあげる。
「まあ!そうだったんですか!もしこんな所でよろしければゆっくりしていってください!」
まあ遠慮のない男である。招かれた奥の部屋になんのためらいもなくついて行った。
そういえば、この男は一体何者なのだろうか?
今更ながらシルヴィア疑問に思ったのだった。
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