神に選ばれたのは、爆弾と俺だった。

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第一章

未だに

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異世界に来て、二週間が過ぎた。

 森は──まだ続いている。
 どこまで歩いても、木と葉と、地面と空しかない。


---

 木々は高く、空を遮るように重なっていた。
 幹は太く、斑に苔が貼りついている。
 枝葉が風にそよぐ音すら、今日に限っては静まりかえっていた。

 沈黙が、鼓膜を刺す。

 水音は遠く、鳥の声も消えていた。
 どこかで咲いていた小さな白い花さえ、今日は風に揺れていない。

 動物の気配も、虫の羽音もない。

 ──ただ、沈黙。

 まるで世界そのものが、呼吸をやめたかのような空気だった。


---

 リュウは、歩いていた。
 歩き続けていた。

 意識の半分は覚醒している。残りの半分は、もう麻痺している。


---

 この日は、狼のような魔物が二十体ほど現れた。

 群れだったのか、それとも連続して迷い込んできたのか。
 どちらでもいい。もはやどうでもいい。

 リュウはナイフで、それを淡々と処理した。

 腹を裂き、喉を断ち、火球で燃やし、皮を剥ぐ。
 心が動かない。


---

 数本のナイフが、途中で折れた。

 「……ちっ」

 思わず声が漏れた。
 怒りでも苛立ちでもなく、ただ“反応”として出た音だった。

 「……もう、作るか……」


---

【スキルLvアップ】

【石工Lv5】:合計75pt使用(5+10+15+20+25)
→石材加工の速度・精度が大幅に上昇

【裁縫Lv3】:30pt(5+10+15)
→道具補修と簡易防具製作が可能に


【残りスキルポイント:4170】


---

 「20本くらい、一気に作る」

 黒い石を探し、手頃な硬度のものを選び、【石工】のスキルで丁寧に削っていく。
 石を砕く音だけが、森の静寂を乱す。

 削って、研いで、整えて、並べる。

 石ナイフが20本、無表情に整列した。

 無駄がない。だが──温度もない。


---

 それでも、森は続く。

 「……誰もいない……」

 その独り言に、誰も返事をしない。
 焚き火の炎だけが、かすかに「パチパチ」と音を立てる。

 「……人間らしい生活がしたい……」

 リュウの呟きは、火に吸い込まれるように消えていった。


---

 ──バチッ!

 放った火球がゴーストを焼いた瞬間、
 背後の壁が轟音を上げて燃え始めた。

 「やべ……!?」

 乾いた木材。埃にまみれたカーテン。
 その全てが、着火材として最悪のコンディションだった。

 リュウは慌てて火魔法を中断し、窓を開けて煙を逃がす。

 「……このままじゃ、この屋敷……燃える」

 焼け焦げる天井の一部を見上げながら、歯を食いしばった。
 ゴーストはまだ複数体いる。けど、火はもう使えない。


---

【スキル取得】

【光魔法Lv10】:275pt


【残りスキルポイント:3895】


---

 「暗がりの中で生きるなら、光で焼くしかない……!」

 右手に意識を集中する。
 刹那、眩い光の球が浮かび上がった。

 ──パァァァッ

 「……来いよ、化け物ども」


---

 屋敷内に潜んでいた全てのゴーストたちが、白光の出現に反応して浮かび上がる。
 壁の中から、床の下から、天井から……次々と現れる。

 「【閃光弾】──!」

 リュウの手のひらから放たれた光弾が、爆ぜる。
 空間を満たす白光が、ゴーストたちの身体を焼き尽くす。

 「次──【光槍】!!」

 突き出された光の槍が一体を貫き、破裂音と共に消滅させた。

 物理では無力だった亡霊たちが、まるで塩をかけられたナメクジのように崩れていく。

 「ビビってんじゃねぇよ、俺……ここで負けたら、また“孤独な森”に戻るだけだ!!」


---

 全滅。
 ……いや、違う。

 「奥に……まだいる」

 屋敷の最奥、かつて執務室だった場所の扉が軋むように震えていた。


---

 扉を開けた瞬間、空気が変わった。
 そこにいたのは――レイス。

 亡霊の王とも言われる、強大な霊魔。
 人型の半透明な影に、黒いローブのような霧をまとい、双眼は深紅に染まっている。

 「……来たな」

 レイスが両手を広げた。

 ──ビュオン!

 闇色の魔弾が空間を裂いて飛ぶ。
 【闇魔法】、しかも高位。通常の障壁など一瞬で焼き切る。

 「……なるほど、やってくれるじゃねぇか!!」

 リュウも負けじと両手を前に突き出す。

 「【光盾】──展開!」

 直前で展開した光の障壁が、闇弾を打ち消す。
 だが、反動で壁が砕け、リュウの足元が軋む。

 「なら──こっちも全開だッ!」

 右手に光の槍、左手に爆光弾。
 リュウは跳び、斜めから突進。

 「くらえ!!【光槍・連突】!!」

 レイスの身体を突き刺す……かに見えたが、霧のようにかわされる。

 「──消えた!?」

 背後から、黒い魔力の爪が襲う。

 【感知強化】がギリギリで察知、身を翻し光爆弾を投げ込む!

 ──ドンッ!!

 爆風と光が部屋中を照らし、レイスの身体が一瞬実体を帯びた。

 「今だッ!!【光刃】──!!」

 渾身の一撃が、レイスの胸を貫く。

 ズガァァァァン!!

 レイスの身体が激しく揺れ、断末魔と共に霧散していく。
 闇が晴れ、部屋の空気が一気に静まり返る。


---

 「っはぁ……っはぁ……」

 汗が頬を伝い、コートが湿っていた。
 全身が痛い。魔力も、限界近くまで削られていた。

 けれど、勝った。

 「やっと……屋敷、奪い返したぞ……」


 「……屋敷、奪い返したぞ……」

 2回言った。言ってやった。

 ゴーストも、レイスも、いない。

 静寂に包まれた屋敷の最奥で、リュウはひとり、肩で息をした。

 勝った。
 間違いなく、生き残った。
 ここには壁がある。屋根がある。家具もある。食料も、魔石もある。


---

 「……ヨシッ! さっそくこの屋敷を、俺の拠点に──」

 と、口に出した瞬間だった。

 リュウの手が止まった。
 胸の中で、何かがねじれるように叫んでいた。

 「……拠点に……? しねぇよっっ!!」

 声が爆発した。


---

 「こんな、幽霊が出て、誰もいなくて、森の中にポツンとある屋敷でっ!
 独りでっ! 無言で暮らせってか!? 無理だっつの!!」

 叫びながら、壁を蹴る。

 音が響く。けど、それだけだ。

 返事もない。気配もない。誰も、いない。


---

 「……俺はな……人に、会いたいんだよ……!」

 拳を握る。
 ゴーストと戦うよりも、自分の孤独と向き合う方がずっと怖かった。

 たしかにこの屋敷は、最高の拠点になり得た。
 だが、リュウは求めている。“安住”ではなく、“誰か”を。


---

 それでも、去る前に必要な物は拾った。
 壊れかけの武器、使えそうな布、保存されていた古びた乾パンらしき物体──

 すべてアイテムボックスに放り込み、屋敷を後にする。


---

 そしてまた、森へ。

 再び風の音と、揺れる枝葉、冷たい空気が支配する世界へ。

 「はぁ……」

 深いため息と共に、リュウはまた歩き出した。


---

 進めども、見えない。
 誰もいない。
 けれど、立ち止まるわけにはいかない。


---

 「この世界で、誰かに……会うまで」

 森の向こうに広がる空を見上げながら、彼は独り、足を進めた。


---
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