神に選ばれたのは、爆弾と俺だった。

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第一章

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グールを撃退してから十分以上経った。
 遺跡の通路を進んでいるが、空気はさらに重く、湿り、淀み、臭い。

 その中で──

 「うっ……おえぇっ……」

 リュウは、壁にもたれ、三度目の嘔吐。

 「まだダメか?」

 「ぜ、全然ダメっす……口の中にね……まだ……内臓……」


---

 何度水魔法で洗っても、臭いが抜けない。

 髪の奥に入り込んだ粘液。服の裏地に染みた血。
 体内に入った記憶だけで、嗚咽が止まらない。


---

 「最悪……絶対、これ夢に出る……てか出たら俺しぬ……」

 「リュウ、しっかりしろ。まだ先がある」

 ライガが前を行きながら、警戒を強める。


---

 先へ進むたび、雰囲気は**“死”の気配に満ちていく**。

 壁には引っかかれたような血文字。
 “たすけて”“やめて”“きこえる”“くる”

 床には骨、骨、骨。
 牙の痕が残る頭蓋。人型ではない歪な骨盤。


---

 そして、曲がり角を越えたその先――

 “そこに”いた。

 天井からぶら下がった人影。

 ぐらぐらと揺れている。
 腐っている。
 だがまだ、目だけがギョロリと動いている。


---

 「ひ、ひいいいッ……」

 リュウの足がすくむ。

 そしてその“吊られた者”の口が、
 カクカクと動いた。

 何も喋っていないのに、声だけが響く。


---

 《たべて……おいしい……たべて……おいしい……》


---

 「やめろやめろやめろやめろおおおお!!!」

 リュウが全力で水魔法をぶっ放す。
 吊られた者の身体が吹き飛び、床でバラバラになった。

 だが。


---

 そいつ、動いた。

 首が曲がったまま這い寄る。
 骨が割れ、関節が逆に折れ、
 這ってくる。歯を鳴らしながら。

 「ひッ……おまッ……こ、これ、ゾンビ映画で出禁になったレベルのやつだぞ!?」


---

 ライガが斬り伏せる。
 ガルドが後方の影を蹴散らす。

 が、終わらない。

 奥から、また**“吊られた者”たちが、ずるりずるりと這い出してくる。**

 天井から。壁の穴から。
 どこからでも、“腐った手”が伸びてくる。


---

 リュウは泣きそうな顔で叫ぶ。

 「なんで俺!いつも!グロいのに囲まれるの!!?!」

 「いいから下がれリュウ!後衛しとけ!」

 「もう後衛じゃ防げねぇよコレ!心が!メンタルがァ!!」


---

 ホラー、極まる。

 腐臭と呻き声が満ちる、
 “異界の墓場”のような遺跡の奥へ、三人は進むしかなかった――。


---
遺跡の最奥。

 その扉は、血で描かれた円と、肉片で封印されていた。

 「……この扉、開けるのやめない?」

 「もう来たんだ。戻れねぇ」

 ライガとガルドが、剣と盾を構える。

 リュウは震える手で扉に触れた。

 ギィィィ……


---

 扉の奥。そこはもう、“部屋”ではなかった。

 空間が歪み、壁は脈動し、天井から何かの“臓器”のようなものがぶら下がっている。

 床は血。いや、血の海。

 その中央に──
 “それ”はいた。


---

 全身を黒い布のような皮膚で覆い、
 人の顔が複数、胴体に縫い付けられている。
 巨大な手。異常に長い足。
 声にならない呻きが、常に周囲を震わせていた。


---

 「な、なにこれ……ボスっていうか、もう災厄……」

 リュウの膝が自然と震える。

 《──ヒト……イラナイ……ヒト……コロス……》


---

 次の瞬間、“それ”が動いた。

 速い。異常に速い。

 ライガが避けきれずに吹き飛ばされ、壁に激突。
 ガルドが盾で受け止めるも、盾ごと粉砕された。

 「な、なにこれ……魔法も通らない!?」

 光魔法も、雷も、氷も、全て吸収されるように飲まれていく。


---

 ライガが吐血しながら立ち上がる。

 「ダメだ……硬すぎる……速すぎる……あれ、もう人間じゃねぇ……!」


---

 リュウは、完全に後方で震えていた。
 吐き気、冷や汗、鼓動が耳を叩く。

 「やだ……やだよ……もうやだよ……帰りたい……怖いよ……」


---

 ガルドが、斬られた腕を庇いながらリュウに叫ぶ。

 「リュウ!お前しかいねぇんだ!!やってくれ!!」


---

 その瞬間。

 リュウの中で、何かがぶち切れた。


---

 「うるせぇええええええええ!!!!!」

 全魔力解放。
 肉体強化全解放。
 地面がめくれ、空気が鳴る。

 リュウは一歩、前に踏み出す。

 「怖いし!最悪だし!臭いし!でも!!」

 「ぶっ殺すぞクソバケモンがああああああ!!!」


---

 “それ”が振り返る。

 だが──

 遅い。


---

 リュウの拳が、
 その頭部に到達する。

 ズガアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!

 遺跡全体が揺れた。

 “それ”は、存在ごと吹き飛んだ。

 顔ごと、肉ごと、魂ごと、
 消し飛んだ。


---

 静寂。

 リュウは、血と肉と恐怖と汗にまみれた顔で呟いた。

 「……こ、こんなのおかしい……なんで俺が……いつも……グロいやつばっか……」

 まだ震えていた。
 勝っても、怖さは消えなかった。


---

 「こいつ……本当に、何者なんだ……」

 ライガがぼそりと呟き、
 ガルドはただ、ため息をついた。


---

 こうして、
 最悪の“主”は、ビビりの拳で、地に還った。


---
遺跡を踏破し、ボロボロで戻ってくる三人。

 その手には、重くて小さな金色の箱。

 豪奢な装飾。輝くルビー。魔素を通さない黒鋼の留め金。
 蓋には何やらぐちゃっとした模様と、不気味な微笑みを浮かべる仮面の意匠。


---

 「おお~、完全に宝箱って感じじゃんこれ!!」

 「いや、待てリュウ。それ、ちょっとヤバくねぇか?」

 「オヤジ、俺は学んだ。“怪しい宝箱は中見ずに誰かに渡す”」

 「その学び方、絶対間違ってるぞ」


---

 そして、王都・魔法省。

 「クロエさ~ん、ただいま~。お土産あるよ~」

 「……まさかとは思いますが、遺跡から何か持ち出しました?」

 「持ち出しました!!これ!!キラキラしてたから!!」

 「帰れ」


---

 リュウは勝手にクロエの机に“それ”を置いた。

 「高級そうだったから、クロエさんにあげる!きっと、何かの鍵とか魔導具とか!いやあ~恩返しってやつですな~!」

 クロエが顔をしかめた。

 「……リュウさん、その箱から……“声”が出ています」

 「えっ」


---

 ──開けて……
 ──おまえが……
 ──みろよ……
 ──なかを……
 ──みてよ……リュウ……


---

 「クロエさーん!!これダメなやつじゃないですかー!!」

 「今さら何を!!どうして持ってきたんですかあなたは!!」


---

 そして。

 箱が、勝手に開いた。


---

 中から噴き出す黒煙。
 部屋中に響く笑い声。
 壁に浮かび上がる“血で書かれた名前リスト”。

 魔法省内が――
 地獄と化した。


---

 「“呪い”じゃない。“怨念”の集合体ですこれは!!」

 「やっぱそういう系だったあああああ!!」


---

 封印班、緊急出動。
 アリエル魔導長、激おこ。
 クロエ、血管ピクピク。

 「次から持ち帰りは一切禁止」と魔法省規定に加筆される。


---

 騒動の後、リュウはしょんぼりしながら宿舎の床に転がっていた。

 「……せっかくのお宝が……お土産が……」

 ガルドが呆れ顔で言った。

 「お前、“呪われた土産を渡して職場崩壊させた男”って伝説になるぞ」

 「やめてそれ。マジで冗談じゃすまないやつだから」


---

 かくして、
 異世界王都に新たな言い伝えが加わる。

 「“爆心の旅人”が贈った箱に触れるな」


---
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