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第一章
真面目に働こう。
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王都・魔法省、本館の上層階。
それは、一般人はまず通されない“お偉いさんゾーン”。
その応接室で――
リュウは土下座していた。
---
「お金がないんですぅぅぅぅぅぅ!!!」
「……」
「服代で25枚飛びましたぁ!!生活費もカツカツですぅ!!!」
目の前に座るのは、魔法省筆頭執務官・アリエル=ルゼンシュタイン。
銀縁メガネ、きっちりしたスーツ、氷のような目線。
---
「……あなた、王都壊しそうになったり、魔石吹き飛ばしたりしてませんでしたか?」
「反省してます!!すっごい反省してます!!もう暴力控えます!!」
「……先日、盗賊三人を“軽く薙いで壁にめり込ませた”と聞いています」
「それはちょっと反射で!!癖で!!事故です!!」
---
アリエルは溜息をつき、書類を手に取った。
「……ちょうど、ひとつ空いていた依頼があります。
“王都近郊の旧封印施設にて、保守と確認。現地調査と小規模掃討”。」
「それって……危ないやつですか?」
「魔物が多少残っている可能性はあります。ですが、あなたなら一人で十分でしょう?」
---
リュウは立ち上がり、拳を握った。
「やります!俺、仕事します!!あの……お給料は……?」
「魔石換算ですが、支給します。あと、壊さなければボーナスも」
「壊さないようがんばりますッ!!」
---
こうして――
チートスペックの勇者(仮)、生活費のために封印施設へ単独調査へ出ることになった。
---
王都から南へ半日。
山岳地帯の中腹にぽっかりと空いた岩の裂け目。
そこが、今回リュウが派遣された旧封印施設だった。
---
「うわ、入り口からして怪しいんだけど……」
重厚な鉄製の門は、すでに開いていた。
かつて強力な魔物や違法魔具を封じていたという、今は使われていない“地下型収容施設”。
「ええと……任務内容は、“内部の確認・魔物の残党がいたら排除・記録を取ること”……っと」
「よーし……給料のため、壊さないよう、真面目に……丁寧に……慎重に……!」
---
しかし。
中に入った瞬間、空気が変わった。
重い。濁っている。冷たい。
「……なにこれ。空気が……生き物みたいだ」
---
壁には魔法灯が並んでいたが、その半分は消えていた。
床には薄く灰が積もり、時折、“カツ……カツ……”と誰かの足音のような反響音。
---
リュウは剣を抜かないまま、ゆっくりと進んだ。
「壊すと減給。壊すと減給。壊すと……」
---
第一層──異常なし。
第二層──保安ゴーレムが破壊されていた。
「……おいおい、これ“廃墟感”超えてないか……?」
---
そして、第三層。
音もなく、“扉が勝手に開いた”。
---
中に入った瞬間。
ぞわり。
肌が粟立つ。背中を、冷たい爪がなぞったような感覚。
---
そこには、誰もいない……はずだった。
が、リュウは見た。
部屋の隅――
天井に張りついていた“それ”が、ゆっくりと、首だけを回してこちらを見た。
---
「おい、やめろよ!? その登場、完全にアウトだろぉぉ!!」
“それ”は、音もなく落下。
四肢が逆関節に折れ曲がった、黒い影。
骨ではない音で、床に着地した。
---
リュウ、剣を引き抜く。
「もうやめよう!? 今日、給料もらって帰りたいだけなんだってば!!」
---
“それ”が動いた。
速い。
ただの黒い人型。顔がない。手が長すぎる。
---
リュウ、咄嗟に剣を“面”で振る。
ドガッ!!
「うわああああ!!吹き飛ばしたけど!!!壊れてない!?これ壊れてないよね!?」
---
だが、“それ”は再び立ち上がった。
リュウの表情から、笑顔が消える。
---
「……減給の危機とか、もうどうでもいいかもしれない」
---
第三層、黒い人型の“それ”をなんとか片付けたリュウは、
奥に続く階段を見つけていた。
――下へ、下へと続く、まるで喉の奥のように狭く、粘つく階段。
「まだあるの……?まだ下あるの……?」
手元の依頼書には、**“第三層までの調査”**としか書かれていない。
---
だが、なぜか――階段の手前に“魔力の流れ”が感じられた。
「……あるな。下に。しかも、目覚めかけてるな……」
嫌な予感しかしない。けれど、リュウは進む。
自分の中に芽生えた、微かな責任感と、胸の奥のざわつきに従って。
---
第四層
重たい空気が、皮膚の下に入り込んでくる。
呼吸が浅くなる。鼓動が早くなる。
――そして、現れたのは、
“球体”だった。
---
部屋の中央に浮かぶ、黒く濁った球体。
直径は2メートルほど。表面はドロドロと常に流動している。
それだけで終わらなかった。
---
天井、壁、床に、人間の顔が浮かんでいた。
苦痛の表情。助けを求める口。目が、あらぬ方向を見ている。
だが、どれも“生きていない”。
リュウの背筋が凍った。
「……これ、絶対に、出しちゃいけないやつだ」
---
そのとき、球体の中で何かが“動いた”。
ドロリ、と表面を突き破るように――
黒い腕。
骨のような指。
細く長い首。
そこから、“それ”が這い出てきた。
---
「人間、ではない……でも、どこか……元は“ヒト”だった気配がある……」
リュウの手が震えた。
魔力が、自然と高まる。体が危機を察知していた。
---
“それ”は、動かない。
ただこちらを見つめていた。顔はないのに、視線がある。
『……ようやく、目が覚めた』
声が、頭の中に直接響く。
---
「なにを……封じられてたんだ、お前は……?」
『おまえは、“扉を開けた”代償を払う存在』
次の瞬間、空間が割れた。
---
黒い歪み。全方向からの攻撃。
リュウは瞬時に地を蹴り、反応する。
「っ、くそっ……!!壊さないようにって言ってんだろぉぉ!!」
---
斬撃が空間ごと削る。
“それ”は避けない。ただ、消えるように消え、別の場所から現れる。
まるで、そこに“存在”していないかのように。
---
「効いてねえのか!?いや……当たってねぇ……!?空間そのものを抜けてやがる……」
---
リュウの背後、突然気配が現れる。
「……っ!?」
ギリギリで跳ぶ。肩に掠った一撃だけで、骨の芯まで冷えた。
---
「これ……今までの敵と、格が違う……っ」
リュウ、初めて“剣を両手持ち”にした。
「壊してもいいよな。コイツだけは、壊さなきゃいけない気がする」
---
黒い空気が、地下空間を満たしていた。
それは霧ではなく、“意志”だった。
生きているわけではない。だが、確かにこちらを“見ている”。
---
“それ”──クレス=ナルは、剣でも魔法でも届かぬ位置から、ただじっとリュウを観察していた。
床に描かれた封印陣がひび割れ、天井から落ちた水が静かに滴る。
---
リュウは、剣を背から引き抜いた。
ゴゴン……ガギィ……ン……
厚さ数十センチ、重さ150キロを超える鋼鉄の塊。
“人が扱うには異常な剣”が、リュウの手で、軽やかに構えられる。
---
「来いよ……俺は、もう逃げねぇ。全力で叩き潰す」
---
空気が鳴った。
次の瞬間、クレス=ナルが消えた。
リュウの本能が叫ぶ。
上。
---
リュウは地を蹴った。
真上から落ちてくる黒い腕を、剣の腹で受け流す!
ドォオオオッッ!!
空気が爆ぜ、地面が陥没。
---
「クソ……!」
着地と同時に、リュウは剣を回転させ、斬り上げる!
剣の風圧が壁をえぐり、天井に黒い飛沫を撒き散らす。
---
クレス=ナルはひるまず、空間の裂け目から“複数の腕”を伸ばしてきた。
空間を這うような動き。影のように遅く、だが避けられない。
---
「だったら、燃やすしかねぇよな!」
リュウが、掌に火を灯す。
《火魔法:バースト・フレア》
「消し飛べぇぇぇぇ!!」
---
ゴオオオォォオ!!
高温の爆炎が、扇状に吹き出す!
黒い腕が焼け焦げ、影が悲鳴のように揺れる。
爆発の衝撃が、封印室の外壁を揺らした。
---
「まだだ……これで終わる気がしねぇ」
---
煙の中から現れたクレス=ナルは、焼け焦げながらも、まったく怯んでいなかった。
むしろ、形が不明瞭になり、どこが本体かも分からない。
---
「なら……光で照らす!」
リュウは剣を掲げる。
刃に光の魔力を集中させる――
《光魔法:ホーリーエッジ》
刀身が、太陽のような閃光を帯びた。
---
「――ッッらああああああッッ!!!」
剣が横一線に振るわれる。
ドンッッ!!!
時間が止まったかのような衝撃。
床が、空気が、影が、一瞬で“焼き切られた”。
---
影が悲鳴のように裂ける。
クレス=ナルの核――黒い球体の中枢が一瞬露出した。
リュウは見逃さなかった。
「そこだァッ!!」
---
全身の魔力を脚に集中。
足元の石床を砕き、リュウは空を飛ぶように跳ぶ。
剣を両手で握り、真下に叩き込む。
---
ズドオォォォォォン!!!
その一撃は、黒の核を貫き、
爆発的な光が封印室を埋め尽くした。
---
「っ……くっ……!」
爆風の中、リュウは剣を地に突き立て、息を整える。
目の前には、黒く砕けた残滓が、静かに崩れていた。
---
静寂。
魔力の濁流が消えた。
ただ、焦げた匂いと熱気と、自分の鼓動だけが響いていた。
---
「……やった……よな……?」
---
リュウは、地に突き刺した剣に寄りかかりながら、肩で息をしていた。
「……はぁ……っ、終わった……?」
辺りに気配はない。
クレス=ナルの黒い“核”は、光の魔力で完全に焼き尽くされ、
残っているのは、焦げた球体の残骸と、砕けた床、裂けた壁、そして――
崩落しかけている天井。
---
「……やっちまった……」
じわじわと実感が湧いてきた。
戦いの余波で、封印施設はほぼ使用不能。
第三層から下は崩落、魔法障壁はズタズタ、残っているのは割れた照明とぶっ壊れたゴーレム。
---
「やっちまったァアアアアアア!!減給どころか、給料マイナスかもしれん……!」
その場で崩れ落ちるリュウ。
---
「でも……でも仕方なかったんだよ!? あんなの出てきたら、普通に爆破するしかないだろ!?」
虚空に向かって言い訳するも、誰も聞いていない。
---
しばらくして、地上へ戻ったリュウは、報告のため王都へ帰還。
魔法省本庁舎、応接室。
アリエル=ルゼンシュタイン執務官の前で、リュウは背筋を伸ばしていた。
---
「報告書ですッッ!!」
「……読ませていただきます」
アリエルが、報告書を黙々と読む。
---
『封印体は異界存在。
想定以上の強度と空間操作能力あり。
封印陣は老朽化により破綻。
撃破は確認済み。
被害範囲:第三層以下全壊。副次的崩落による耐用不能箇所多数。』
---
アリエルは書類から顔を上げ、静かに言った。
「ひとつだけ確認します。施設の“外壁”を一部吹き飛ばしたのは、誰ですか?」
「……爆発……魔法が……跳弾してですね……あれは……事故です……」
---
「減給です」
「ですよねぇぇぇぇぇぇ!!」
---
がっくりと膝から崩れるリュウに、アリエルは淡々と続ける。
「ですが――封印体の撃破は前例のない成果です。
あなたがいなければ、王都にも被害が及んでいた可能性があります。
……なので、特別に一部補填を認めましょう」
---
リュウは顔を上げる。
「ほ、本当ですか!? それってつまり……」
「食費と宿代は支給されます。服代は据え置きです」
「ぬぉぉぉおおおお服代あああああ!!」
---
こうしてリュウの“封印施設任務”は終わった。
得たものは――
・経験
・異界存在との戦闘データ
・崩壊施設
・減給
まるで釣り合っていないようだが、彼の胸には確かな実感があった。
---
「……あの影、また来る気がする。あれは、終わってない」
彼は剣を背に、王都の空を見上げた。
---
それは、一般人はまず通されない“お偉いさんゾーン”。
その応接室で――
リュウは土下座していた。
---
「お金がないんですぅぅぅぅぅぅ!!!」
「……」
「服代で25枚飛びましたぁ!!生活費もカツカツですぅ!!!」
目の前に座るのは、魔法省筆頭執務官・アリエル=ルゼンシュタイン。
銀縁メガネ、きっちりしたスーツ、氷のような目線。
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「……あなた、王都壊しそうになったり、魔石吹き飛ばしたりしてませんでしたか?」
「反省してます!!すっごい反省してます!!もう暴力控えます!!」
「……先日、盗賊三人を“軽く薙いで壁にめり込ませた”と聞いています」
「それはちょっと反射で!!癖で!!事故です!!」
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アリエルは溜息をつき、書類を手に取った。
「……ちょうど、ひとつ空いていた依頼があります。
“王都近郊の旧封印施設にて、保守と確認。現地調査と小規模掃討”。」
「それって……危ないやつですか?」
「魔物が多少残っている可能性はあります。ですが、あなたなら一人で十分でしょう?」
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リュウは立ち上がり、拳を握った。
「やります!俺、仕事します!!あの……お給料は……?」
「魔石換算ですが、支給します。あと、壊さなければボーナスも」
「壊さないようがんばりますッ!!」
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こうして――
チートスペックの勇者(仮)、生活費のために封印施設へ単独調査へ出ることになった。
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王都から南へ半日。
山岳地帯の中腹にぽっかりと空いた岩の裂け目。
そこが、今回リュウが派遣された旧封印施設だった。
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「うわ、入り口からして怪しいんだけど……」
重厚な鉄製の門は、すでに開いていた。
かつて強力な魔物や違法魔具を封じていたという、今は使われていない“地下型収容施設”。
「ええと……任務内容は、“内部の確認・魔物の残党がいたら排除・記録を取ること”……っと」
「よーし……給料のため、壊さないよう、真面目に……丁寧に……慎重に……!」
---
しかし。
中に入った瞬間、空気が変わった。
重い。濁っている。冷たい。
「……なにこれ。空気が……生き物みたいだ」
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壁には魔法灯が並んでいたが、その半分は消えていた。
床には薄く灰が積もり、時折、“カツ……カツ……”と誰かの足音のような反響音。
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リュウは剣を抜かないまま、ゆっくりと進んだ。
「壊すと減給。壊すと減給。壊すと……」
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第一層──異常なし。
第二層──保安ゴーレムが破壊されていた。
「……おいおい、これ“廃墟感”超えてないか……?」
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そして、第三層。
音もなく、“扉が勝手に開いた”。
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中に入った瞬間。
ぞわり。
肌が粟立つ。背中を、冷たい爪がなぞったような感覚。
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そこには、誰もいない……はずだった。
が、リュウは見た。
部屋の隅――
天井に張りついていた“それ”が、ゆっくりと、首だけを回してこちらを見た。
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「おい、やめろよ!? その登場、完全にアウトだろぉぉ!!」
“それ”は、音もなく落下。
四肢が逆関節に折れ曲がった、黒い影。
骨ではない音で、床に着地した。
---
リュウ、剣を引き抜く。
「もうやめよう!? 今日、給料もらって帰りたいだけなんだってば!!」
---
“それ”が動いた。
速い。
ただの黒い人型。顔がない。手が長すぎる。
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リュウ、咄嗟に剣を“面”で振る。
ドガッ!!
「うわああああ!!吹き飛ばしたけど!!!壊れてない!?これ壊れてないよね!?」
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だが、“それ”は再び立ち上がった。
リュウの表情から、笑顔が消える。
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「……減給の危機とか、もうどうでもいいかもしれない」
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第三層、黒い人型の“それ”をなんとか片付けたリュウは、
奥に続く階段を見つけていた。
――下へ、下へと続く、まるで喉の奥のように狭く、粘つく階段。
「まだあるの……?まだ下あるの……?」
手元の依頼書には、**“第三層までの調査”**としか書かれていない。
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だが、なぜか――階段の手前に“魔力の流れ”が感じられた。
「……あるな。下に。しかも、目覚めかけてるな……」
嫌な予感しかしない。けれど、リュウは進む。
自分の中に芽生えた、微かな責任感と、胸の奥のざわつきに従って。
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第四層
重たい空気が、皮膚の下に入り込んでくる。
呼吸が浅くなる。鼓動が早くなる。
――そして、現れたのは、
“球体”だった。
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部屋の中央に浮かぶ、黒く濁った球体。
直径は2メートルほど。表面はドロドロと常に流動している。
それだけで終わらなかった。
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天井、壁、床に、人間の顔が浮かんでいた。
苦痛の表情。助けを求める口。目が、あらぬ方向を見ている。
だが、どれも“生きていない”。
リュウの背筋が凍った。
「……これ、絶対に、出しちゃいけないやつだ」
---
そのとき、球体の中で何かが“動いた”。
ドロリ、と表面を突き破るように――
黒い腕。
骨のような指。
細く長い首。
そこから、“それ”が這い出てきた。
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「人間、ではない……でも、どこか……元は“ヒト”だった気配がある……」
リュウの手が震えた。
魔力が、自然と高まる。体が危機を察知していた。
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“それ”は、動かない。
ただこちらを見つめていた。顔はないのに、視線がある。
『……ようやく、目が覚めた』
声が、頭の中に直接響く。
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「なにを……封じられてたんだ、お前は……?」
『おまえは、“扉を開けた”代償を払う存在』
次の瞬間、空間が割れた。
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黒い歪み。全方向からの攻撃。
リュウは瞬時に地を蹴り、反応する。
「っ、くそっ……!!壊さないようにって言ってんだろぉぉ!!」
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斬撃が空間ごと削る。
“それ”は避けない。ただ、消えるように消え、別の場所から現れる。
まるで、そこに“存在”していないかのように。
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「効いてねえのか!?いや……当たってねぇ……!?空間そのものを抜けてやがる……」
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リュウの背後、突然気配が現れる。
「……っ!?」
ギリギリで跳ぶ。肩に掠った一撃だけで、骨の芯まで冷えた。
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「これ……今までの敵と、格が違う……っ」
リュウ、初めて“剣を両手持ち”にした。
「壊してもいいよな。コイツだけは、壊さなきゃいけない気がする」
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黒い空気が、地下空間を満たしていた。
それは霧ではなく、“意志”だった。
生きているわけではない。だが、確かにこちらを“見ている”。
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“それ”──クレス=ナルは、剣でも魔法でも届かぬ位置から、ただじっとリュウを観察していた。
床に描かれた封印陣がひび割れ、天井から落ちた水が静かに滴る。
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リュウは、剣を背から引き抜いた。
ゴゴン……ガギィ……ン……
厚さ数十センチ、重さ150キロを超える鋼鉄の塊。
“人が扱うには異常な剣”が、リュウの手で、軽やかに構えられる。
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「来いよ……俺は、もう逃げねぇ。全力で叩き潰す」
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空気が鳴った。
次の瞬間、クレス=ナルが消えた。
リュウの本能が叫ぶ。
上。
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リュウは地を蹴った。
真上から落ちてくる黒い腕を、剣の腹で受け流す!
ドォオオオッッ!!
空気が爆ぜ、地面が陥没。
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「クソ……!」
着地と同時に、リュウは剣を回転させ、斬り上げる!
剣の風圧が壁をえぐり、天井に黒い飛沫を撒き散らす。
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クレス=ナルはひるまず、空間の裂け目から“複数の腕”を伸ばしてきた。
空間を這うような動き。影のように遅く、だが避けられない。
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「だったら、燃やすしかねぇよな!」
リュウが、掌に火を灯す。
《火魔法:バースト・フレア》
「消し飛べぇぇぇぇ!!」
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ゴオオオォォオ!!
高温の爆炎が、扇状に吹き出す!
黒い腕が焼け焦げ、影が悲鳴のように揺れる。
爆発の衝撃が、封印室の外壁を揺らした。
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「まだだ……これで終わる気がしねぇ」
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煙の中から現れたクレス=ナルは、焼け焦げながらも、まったく怯んでいなかった。
むしろ、形が不明瞭になり、どこが本体かも分からない。
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「なら……光で照らす!」
リュウは剣を掲げる。
刃に光の魔力を集中させる――
《光魔法:ホーリーエッジ》
刀身が、太陽のような閃光を帯びた。
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「――ッッらああああああッッ!!!」
剣が横一線に振るわれる。
ドンッッ!!!
時間が止まったかのような衝撃。
床が、空気が、影が、一瞬で“焼き切られた”。
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影が悲鳴のように裂ける。
クレス=ナルの核――黒い球体の中枢が一瞬露出した。
リュウは見逃さなかった。
「そこだァッ!!」
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全身の魔力を脚に集中。
足元の石床を砕き、リュウは空を飛ぶように跳ぶ。
剣を両手で握り、真下に叩き込む。
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ズドオォォォォォン!!!
その一撃は、黒の核を貫き、
爆発的な光が封印室を埋め尽くした。
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「っ……くっ……!」
爆風の中、リュウは剣を地に突き立て、息を整える。
目の前には、黒く砕けた残滓が、静かに崩れていた。
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静寂。
魔力の濁流が消えた。
ただ、焦げた匂いと熱気と、自分の鼓動だけが響いていた。
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「……やった……よな……?」
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リュウは、地に突き刺した剣に寄りかかりながら、肩で息をしていた。
「……はぁ……っ、終わった……?」
辺りに気配はない。
クレス=ナルの黒い“核”は、光の魔力で完全に焼き尽くされ、
残っているのは、焦げた球体の残骸と、砕けた床、裂けた壁、そして――
崩落しかけている天井。
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「……やっちまった……」
じわじわと実感が湧いてきた。
戦いの余波で、封印施設はほぼ使用不能。
第三層から下は崩落、魔法障壁はズタズタ、残っているのは割れた照明とぶっ壊れたゴーレム。
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「やっちまったァアアアアアア!!減給どころか、給料マイナスかもしれん……!」
その場で崩れ落ちるリュウ。
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「でも……でも仕方なかったんだよ!? あんなの出てきたら、普通に爆破するしかないだろ!?」
虚空に向かって言い訳するも、誰も聞いていない。
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しばらくして、地上へ戻ったリュウは、報告のため王都へ帰還。
魔法省本庁舎、応接室。
アリエル=ルゼンシュタイン執務官の前で、リュウは背筋を伸ばしていた。
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「報告書ですッッ!!」
「……読ませていただきます」
アリエルが、報告書を黙々と読む。
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『封印体は異界存在。
想定以上の強度と空間操作能力あり。
封印陣は老朽化により破綻。
撃破は確認済み。
被害範囲:第三層以下全壊。副次的崩落による耐用不能箇所多数。』
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アリエルは書類から顔を上げ、静かに言った。
「ひとつだけ確認します。施設の“外壁”を一部吹き飛ばしたのは、誰ですか?」
「……爆発……魔法が……跳弾してですね……あれは……事故です……」
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「減給です」
「ですよねぇぇぇぇぇぇ!!」
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がっくりと膝から崩れるリュウに、アリエルは淡々と続ける。
「ですが――封印体の撃破は前例のない成果です。
あなたがいなければ、王都にも被害が及んでいた可能性があります。
……なので、特別に一部補填を認めましょう」
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リュウは顔を上げる。
「ほ、本当ですか!? それってつまり……」
「食費と宿代は支給されます。服代は据え置きです」
「ぬぉぉぉおおおお服代あああああ!!」
---
こうしてリュウの“封印施設任務”は終わった。
得たものは――
・経験
・異界存在との戦闘データ
・崩壊施設
・減給
まるで釣り合っていないようだが、彼の胸には確かな実感があった。
---
「……あの影、また来る気がする。あれは、終わってない」
彼は剣を背に、王都の空を見上げた。
---
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第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
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帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
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萌の物語が始まる。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
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