異世界転移して最強のおっさん……の隣に住んでいる。

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第1章

王都の夜

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食事を終え、俺たちは満足げに店を出た。

「いや~、腹いっぱいだ! やっぱ戦った後の飯は格別だな!」

「そうだな」

 王都の夜はまだ賑やかで、通りには酒場帰りの客や夜の商売をする人々が行き交っていた。

 そんな中、俺たちは宿へ戻ろうと歩いていたのだが――

「……ん?」

 ふと、細い路地裏から小さな叫び声が聞こえた。

「今の……?」

 バルトも気づいたらしく、足を止める。

 声がした方に目を向けると、暗い路地の奥で男たちに囲まれている小さな影が見えた。

「……やめて!」

 かすかに聞こえたのは、少女の声だった。


---

「おいおい、夜の街で子供がうろつくのは危ないぜ?」

「ほら、大人しくこっち来いよ。いい仕事を紹介してやるからよ」

 3人の男たちが、一人の獣人の少女を囲んでいる。

 少女は猫耳の獣人で、年齢は10代前半といったところだろうか。
 ボロボロの服を着ていて、スラムの住人であることがうかがえる。

 少女は後ずさりしながら、必死に抵抗していた。

「……くそ、またかよ」

 バルトが苛立った様子で呟いた。

「こういう連中、王都には結構いるのか?」

「ああ。スラムの獣人たちは、こうして悪い奴らに売られることがあるんだ」

「なるほどな……」

 俺は軽くため息をつき、ゆっくりと男たちに近づいた。

「おい、お前ら――その子を離せ」

 俺が静かに言うと、チンピラたちが振り向いた。

「は? なんだテメェ……」

「関係ねぇ奴はすっこんで――」

ボォォォォッ……!!

 俺は言葉を遮るように、頭上に2つの特大ファイアボールを浮かべた。

 直径1メートルを超える火球がゴウゴウと燃え盛り、周囲を紅く照らす。

「……!?」

 チンピラたちの顔色が一瞬で変わる。

 その場にいた全員が、炎の揺らめきを反射する瞳で固まっていた。

「お、おい……」

「マジかよ……」

 俺はファイアボールをゆっくりと回転させながら、チンピラたちの頭上スレスレまで移動させる。

「で? まだ何か言いたいことあるか?」

 俺が淡々とした声で尋ねると――

「ひっ……!?」

「や、やべぇ!! 逃げろ!!」

「クソッ! ふざけんな!!」

 チンピラたちは叫びながら蜘蛛の子を散らすように逃げていった。

 俺はファイアボールを消しながら、バルトの方を見た。

「……あっけないな」

 バルトが呆れたように笑う。

「まぁ、戦う必要がなくてよかっただろ」

「そうだな。時間の無駄にならなくて済んだ」



 怯えていた少女が、俺を見上げる。

 彼女は猫耳の獣人で、年齢は10代前半といったところだろうか。
 ボロボロの服を着ていて、スラムの住人であることがうかがえる。

「……大丈夫か?」

 少女はまだ少し警戒しているが、さっきよりは落ち着いた様子だった。

「……ありがとう」

「こんなところで何してたんだ?」

「……食べ物を探してたの」

 少女の腹がぐぅぅと鳴る。

「なるほどな」

 まぁ、スラムの獣人が食料に困るのは珍しくないだろう。

「お前、一人で住んでるのか?」

「……家族はいない」

「……そうか」

 どうやら、この子は孤児らしい。

「さて、どうするかな」

 バルトが腕を組んで言う。

「このままスラムに帰したら、また似たようなことになるかもしれねぇぞ」

「確かにな……」

 このまま放っておくわけにはいかない。

 さて――どうするか?

「……とりあえず、エルナに相談してみるか」

 バルトが頷く。

「そうだな。エルナならスラムの事情に詳しいし、この子をどうするか考える手助けになるかもしれねぇ」

 俺たちは獣人の少女を連れて、スラムへと向かうことにした。


---


 王都の繁華街から少し離れた場所にあるスラム地区。

 道は舗装されておらず、建物はどれも古びている。
 行き交う人々の視線は鋭く、貧困と荒廃の影が色濃く漂っていた。

「……相変わらず、ここは空気が重いな」

「まぁな。スラムで生きるってのは、普通の暮らしとは違うんだよ」

 バルトが険しい顔で呟く。

 しばらく歩き、エルナの拠点となっている小さな建物にたどり着いた。

コンコン――

「エルナ、いるか?」

「……あんたらか。珍しいわね」

 扉が開き、エルナが現れた。

 相変わらずの鋭い目つきで、俺たちを見上げる。



「で、何の用?」

 エルナは腕を組みながら言った。

「実は――」

 俺は、路地裏での出来事を簡潔に説明した。

 チンピラに絡まれていた獣人の少女を助けたこと。
 彼女が孤児であり、食料を探していたこと。
 スラムに帰しても、また同じ目に遭うかもしれないこと――。

 エルナは俺たちの話を黙って聞いていたが、やがて小さくため息をついた。

「……ふぅん。まぁ、スラムじゃよくある話ね」

 彼女は獣人の少女を一瞥する。

「名前は?」

「……ない」

 少女が小さく答えた。

「そう」

 エルナは少し考えるように視線を落とし、それから俺に向き直った。

「で、あんたたちはこの子をどうしたいの?」

「正直なところ、どうするのがベストなのか分からない」

 俺が率直に言うと、エルナは少し考えてから言った。

「スラムの孤児は……大抵、運がなきゃまともに生きていけない」

「……そうなのか?」

「普通の家には迎え入れられないし、ギルドに入るにしても紹介が必要。孤児院なんてまともに機能してないし、選択肢がほぼないのよ」

「……」

「だから、スラムの子供たちは大抵、盗みを働くか、悪い大人に利用されるか、どうにかして身を売るしかなくなるわけ」

「……つまり、かなり厳しい状況ってことか」

「そう。だから、この子を助けたいなら――あんたたちが面倒を見るしかない」

 エルナがまっすぐに俺を見つめる。

「ただし、スラムに住ませるって選択肢もある。私が面倒を見ることもできるけど、そうなるとこの子はスラムで生きることになるわね」

「……」

 つまり、俺たちがこの少女を引き取るか、それともスラムでエルナのもとに預けるか。

 どちらにせよ、放っておけばこの子は生きるのに必死な環境に置かれることになる。

「……ユート、お前はどうする?」

 バルトが俺の方を見た。

俺は少し考え、少女の方を見る。

 細身の体に、ボロボロの服。
 それでも、瞳にはまだ光が宿っていた。

「……俺たちで面倒を見るよ」

 その言葉に、エルナは少し驚いた顔をした。

「へぇ。あんた、結構面倒見がいいのね」

「まぁな。ここに置いていくのは気が引けるし、それなら俺たちが面倒を見た方がいいと思っただけだ」

「そ。まぁ、好きにしなさい」

 エルナは軽く肩をすくめた。

「ただし、一つだけ忠告しておくわ。獣人の孤児を引き取るってことは、それなりの覚悟がいるわよ」

「どういうことだ?」

「獣人の孤児ってだけで、王都では差別されることもある。特に貴族や商人の中には、獣人を『下等種』だって見下してる奴らもいるからね」

「……なるほどな」

「それと、この子が今後どう生きるか、お前が責任を持つことになる。面倒見切れなくなったからって、途中で放り出すのは許さないわよ?」

「分かってる」

 俺が真剣に答えると、エルナは満足そうに頷いた。


---

少女の名前

「……それで、あんたは名前がないんだったわね」

 エルナが少女の方を向く。

「ユート、あんたが名前をつけたら?」

「俺が?」

「そう。引き取るんだから、そっちの方がいいでしょ」

「……そうだな」

 俺は少女を見て、少し考える。

「お前、何か好きな言葉とかあるか?」

「……わかんない」

「そっか」

 俺はしばらく考えた後、ふと口を開いた。

「じゃあ……ティナはどうだ?」

 少女は驚いたように目を瞬かせた。

「……ティナ?」

「ああ。響きが可愛いし、お前に似合ってると思う」

「……ティナ……」

 少女は小さく呟き、それから少しだけ笑った。

「……気に入った」

「そっか。じゃあ、今日からお前はティナだ」

 俺がそう言うと、バルトがニヤリと笑った。

「へへっ、いいじゃねぇか。よろしくな、ティナ!」

「……うん」


---

「さて、とりあえず宿に戻るか」

 俺たちはティナを連れて、王都の宿へ向かった。

 途中、ティナは周囲をキョロキョロと見回しながら、俺たちの後をついてきた。

「なんだか不思議な感じ……」

「王都をちゃんと歩くのは初めてか?」

「うん……スラムの外に出ることなんて、ほとんどなかったから……」

「そっか」

 しばらくして、俺たちは宿へ到着。

「とりあえず、今夜はここで寝よう」

「わかった……」

 ティナは少し緊張した様子だったが、それでも安心したのか、大きく息を吐いた。


 こうして、俺たちの生活に新たな仲間――ティナが加わった。

 明日はギルドで新しい討伐依頼を受ける予定だが、三日後には貴族との会談も控えている。

 新たな出会いと、これからの生活。

 俺たちの冒険は、ますます面白くなりそうだ――。
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