異世界転移して最強のおっさん……の隣に住んでいる。

モデル.S

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第1章

夜の書斎

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王都の夜は静かだった。
 ユートは家の書斎で、ランプの明かりのもと、ギルドで得た資料や薬草のメモを整理していた。
 ポーション、薬草、魔力の流れ……最近集めた情報は多岐にわたっていた。

 そんな中、ふと目に止まったのは、ある一文だった。

> 「魔大陸に生える『素材』には、組織再生を促す効果がある――」



 さらりと書かれた、古い書き写しのメモ。
 誰が記したのかもわからないが、明らかにこの世界の常識からは外れていた。

「……組織再生……?」

 ユートは、その言葉を口にしながら、ペンを止める。
 ゆっくりと背もたれに体を預け、天井を見上げた。

(たとえば、腕を失った人間がいたとして。そこに“再生を促す”素材が使われたら……?)

 思考が巡る。
 これまで見てきた傷ついた冒険者たち。
 戦争孤児のように、身体の一部を失っていた者。
 そして――ティナのように、戦うことを運命づけられた子どもたち。

(“失ったもの”を取り戻せる薬が、本当にあるとしたら?)

 心臓が、ドクンと音を立てた。

(……それって、ただのポーションじゃない。人生を変える力だ)

 そして、そこまで考えた時、もう一つの考えが浮かぶ。

(――もしそれを、俺が作れるとしたら? いや、“作れる条件”を持ってるのが俺だけだったとしたら?)

 魔大陸へ、安全に行き来できる能力。
 異世界の常識に縛られない視点。
 そして――信用できる仲間。

 ゆっくりと、ユートはメモに書き足す。

> 「魔大陸の素材?」+高品質ポーション=?
“再生”ポーション(仮)
実現すれば、価値=金貨何万? 命1つ分?



(……ラミアに聞いてみるか)

 そう決めて、ユートはペンを置いた。
 ただの思いつきではない。
 これは――この世界で生きる力になる、“現実的な価値”だ。


---

昼過ぎ、ユートはラミアを呼び出した。
 場所は人目を避けられる、自宅の地下倉庫。ワインとつまみをテーブルに置いておくと、ほどなくしてラミアが現れる。

「酒に釣られて来たけどよ……わざわざ地下って、なんだい」
 そう言いながらも、ラミアは当然のように腰を下ろし、グラスにワインを注ぐ。

「ちょっと、人に聞かれたくない話があってな」

「ほう。女の話じゃなさそうだな?」
 冗談めかして笑うラミアに、ユートは真剣な目を向けた。

「……欠損を、治せるポーションがあるとしたら、どう思う?」

 ラミアの手が止まる。
 グラスの縁に口をつけたまま、目だけがじっとユートを見た。

「……どこまで知ってる?」

「命樹の芽って素材があるって話を聞いた。魔大陸に自生してるらしいな。再生作用があるって。
 普通のポーションに混ぜるだけで、効力が跳ね上がる――って噂も」

「なるほど。……よくそこまで調べたもんだな」

 ラミアはワインをひと口飲み、ため息混じりに笑った。

「確かに“そういう話”はあるよ。命樹の芽は、魔大陸の南の森、瘴気の谷に生えてる。
 素材自体はレアじゃねぇ。生えてる場所に行ける奴がいねぇだけさ」

「それって……もし、行けたとしたら?」

 ラミアの目が鋭く細まる。

「まさか、あんた……」

 ユートは言葉を濁しながら、あくまで“可能性”として匂わせた。

「……仮に行けるとしたら、どうすればいい? 詳しい奴、いるか?」

 ラミアはしばらく無言のままグラスを回していたが、やがて口を開く。

「――いるよ。昔、錬金術師だった変わり者のジジイが、今は裏で素材商をやってる。今も生きてりゃ、命樹の芽についても詳しいはず」
 そして、付け加えるように続けた。

「ただし、話す内容は慎重にな。あんたが“手に入れられる”とバレたら、命を狙われるかもしれねぇぞ」

「……心得てる」

---

ラミアの紹介で訪れたのは、王都の下町のさらに外れ、石畳が崩れた路地の先。
 小さな看板に「素材屋デノルド」と手描きされている、ほこりっぽい一軒の店だった。

 ユートがドアを押すと、からん、と古びた鈴が鳴る。
 店の中は薄暗く、乾いた草の香りと、鉄とインクのような匂いが混じっている。

「……誰だ?」

 店の奥から、しゃがれた声が響く。
 棚の影から現れたのは、白髪まじりのボサボサ頭、片眼鏡をかけた老人だった。

「ラミアの紹介で来た。ちょっと話を聞きたくてな」
 そう言って名を名乗ると、老人――デノルドは一瞬だけ表情を鋭くし、だがすぐに鼻を鳴らした。

「ラミアの名前を出すってことは、まともな客じゃないな」
 皮肉っぽく笑いながら、彼はユートを奥のテーブルに案内した。



「……で? 命樹の芽か?」

「話が早くて助かる。知ってるんだな」

「ああ、何十年も前に一度だけ手に入れたことがある。再生薬の実験用にな。
 ただし、あれは生のままじゃ効果は出ん。乾燥か抽出を間違えると、ただの苦い草だ」

「使える状態にするには?」

「ポーションに直接加えるのが一番単純だ。魔力を保持してるうちに“融合”させれば、普通のポーションが上級品に変わる。
 欠損の治癒――本当に“再生”を促すんだよ、あの芽は。俺も片足の指一本、元に戻ったくらいにはな」
 そう言って、デノルドは自分の足先を叩いて笑った。

「問題は……手に入れられるかどうか、だ」

「場所は?」

「魔大陸南部の《瘴気の谷》……その奥にある《命樹の森》。
 生命を宿す大樹が生えてる。その根元、東側の岩陰あたりにだけ群生するって言われてる。
 瘴気のせいで普通は入れねぇし、入っても帰ってこられねぇ」

「そうか……ありがとう」

 情報をすべてメモしたユートは、席を立とうとした。
 だが、デノルドがふっと呟くように言った。

「なぁ、坊主。……あんた、まさか自分で取りに行く気か?」

「かもな」
 ユートは笑わずにそう返した。

「無茶な若者だな……だが、成功したら“英雄”って呼ばれるかもな」
 デノルドの目がわずかに愉しげに光った。



 店を出たユートは、メモ帳を見つめながら呟いた。

「命樹の森。……行くしかないな」


---


 命樹の芽――それは希望。
 この世界で、生きる価値を変える“命の薬”。

 そして、自分にしかできない、“静かなる革命”の始まりだった。


---
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