異世界転移して最強のおっさん……の隣に住んでいる。

モデル.S

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第1章

職人探し

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王都の自宅、地下の倉庫。
 薄暗い明かりのもと、ユートは命樹の芽を小瓶に入れたまま、じっと見つめていた。

 淡く光る若芽は、美しくも危うい存在感を放っている。

「……とても“普通の素材”じゃねぇな」

 ラミアの話、デノルドの情報、瘴気の谷での激闘――
 それらを踏まえても、この“命樹の芽”の価値は計り知れない。

 だが――。

 ユートは棚に並ぶ調合器具を見て、深く息を吐いた。

「……俺には、無理だ」

 素材の性質、魔力の反応、調合タイミング、融合条件。
 命を再生するほどのポーションを作るには、専門的な知識と経験が必要だった。

 失敗すれば、せっかくの命樹の芽を無駄にするどころか、命の危険すらある。

「……ラミアでも、これは無理だろうな。やれるのは、本物の職人だけだ」


 ユートは机に肘をつきながら、静かに目を閉じた。

(なら――探すしかない)

 口が堅く、腕の確かなポーション職人を。
 この世界に、数えるほどしかいないだろう。だが、確実にいる。

 ギルドか、商会か、それとも裏の情報筋か――
 どこを通すにしても、慎重に動く必要がある。

「……信頼できて、欲を出さない相手じゃないと……」

 魔力で封をした命樹の芽の瓶を、慎重にロックされた箱へと収める。
 それから立ち上がり、手帳を開いた。

「まずは……情報だな。ラミアにも探りを入れてみるか」


夕暮れ。王都の空が橙色に染まりはじめたころ。
 ユートは家の裏庭に出て、テラスの椅子に腰をかけていた。

 ほどなくして、ラミアがワインの瓶を片手にやってくる。

「今日も酒で釣るってわけ? 悪くないけど」
 そう言いながら、当然のように隣に腰を下ろす。

「今日のは、いつもよりちょっと真面目な相談だ」

 ユートはグラスを注ぎながら、静かに口を開いた。

「――命樹の芽、採れた」
 その言葉に、ラミアの手がぴたりと止まる。

「……マジで、あの瘴気の谷から持ってきたの?」

「本物だ。けど――問題はここからなんだよ」

 ユートはグラスを置いて、ラミアの顔を見る。

「俺には作れない。あんな高等なポーション、素人の調合じゃ無理だ」
「……だろうね」
「でも、誰にでも任せられる代物でもない。口が軽いやつに渡せば、一発で世間に広まる」

 ラミアは眉をひそめた。
 そして、グラスの底を軽く回しながら、少し真剣な声になる。

「……つまり、腕があって、信用できる“ポーション職人”を探してるってわけか」

「ああ。できれば、顔が広すぎないほうがいい。
 でも、腕は本物じゃなきゃダメだ。命樹の芽をムダにしたくない」

 ラミアは少し考える素振りをしてから、ぽつりと呟いた。

「一人だけ、心当たりがある」
「……ほう?」

「“元王立薬術研究所”の職人。今は名前を捨てて、王都の外れで隠居してるって話だ。
 民間で調合を引き受けるのは稀だが、噂じゃ**“素材の意味”が分かる奴だけには、協力するらしい**」

「口の堅さは?」

「王立にいた頃、研究成果を巡って貴族と揉めて、研究所を飛び出したくらいだ。そういうのが嫌いなんだろ」

「……気に入った。会ってみたい」

 ラミアは肩をすくめながら、グラスを空にした。

「じゃあ、紹介してやるよ。名前は――ゼネ・アルド。偏屈ジジイだけど、薬の腕は本物だ」


 ユートは静かに頷いた。

 ついに、“再生ポーション”を形にするための最後のピースが――動き出す。


---
王都から馬車でおよそ半日。
 郊外の森の中、ひっそりと佇む小さな小屋があった。

 屋根は苔に覆われ、煙突からは細く煙が立ち上っている。
 敷地内には、手入れの行き届いた薬草畑が広がっていた。

 ユートが門を押すと、錆びた鈴がチリンと音を立てる。

 その音に反応するように、小屋の扉がギィと開いた。

「……誰だ?」

 現れたのは、長い白髪と無精ひげをたくわえた老人だった。
 鋭い眼光がユートを射抜くように見つめてくる。

「ラミアに紹介されてきた。あんたがゼネ・アルドさんか?」

「ラミア……あの酔っぱらい女か。久しぶりに聞いた名だな」
 ゼネは片目を細めて、ユートの全身をじっと見た。

「……目的は何だ? 薬か、調合か、それとも説教か?」

「ひとつ、調合を依頼したい。……俺じゃ作れない、特別な薬を」

「その辺の怪我を治すポーションなんざ、薬屋に行け」
 ゼネが吐き捨てるように言うが、ユートは静かに小さな瓶を差し出した。

 瓶の中で、命樹の芽が淡く揺れている。

 その瞬間――ゼネの目が鋭く変わった。

「……これは……!」

 手に取るや否や、瓶を光にかざし、指先で魔力を流し込む。

「生きてる……魔力反応も濃い。瘴気付着なし……これは、“命樹の芽”の完全体じゃないか……!」

 その呟きは、専門家だからこそ出る確信の言葉だった。

「どこでこれを?」

「……それは言えない。でも、ちゃんと正規に持ち出した。瘴気の谷からな」

「……まさか、あそこに入って採ってきたのか……正気の沙汰じゃねぇ」
 呆れたように言いながらも、ゼネは目を逸らさない。

「何を作りたい?」

「“上級ポーション”だ。……腕や脚、失った部位を治す薬。それが作れるなら、頼みたい」

 ゼネはしばらく沈黙した。
 やがて、ふぅ……と長く息を吐き、低く言った。

「……いいだろう。俺は貴族にもギルドにも仕えない。
 だが、“薬が必要な奴”のために調合する。それだけだ」

 そう言って、彼はユートに向き直る。

「できあがった上級ポーションのうち、1本は俺にくれ。」

「……いいのか? それで」

「ああ。欲しいのは金じゃねぇ。俺自身、これを“手元に置いておきたい”理由がある。……深くは聞くな」

 その目は、長い年月を薬と生きてきた者の、それだった。

「命樹の芽はいくつかある。1つで何本作れる?」

「熟練した調合なら――1つの命樹の芽で、上級ポーション10本。濃度を調整すれば12本までは可能だが、品質は落ちる。……俺は10本に絞る」

「いいだろう。とりあえず10本頼む」

数日後……
出来上がった10本の内、9本を受け取る。


---

 こうして、再生ポーション計画は本格的に動き出した。

 命を取り戻す薬。
 希望を売る取引。

 その第一歩が、ここから始まった――。

    
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