異世界転移して最強のおっさん……の隣に住んでいる。

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第1章

ライネル商会へ

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王都の中心街、貴族街の手前に位置する、白石造りの立派な建物。
 扉の上には精巧な金の文字で『ライネル商会』と掲げられていた。

 ユートはラミアと並んでその扉をくぐる。
 中は静かで、豪奢だが嫌味のない内装。高級家具と魔法灯の光が品の良い空間を演出している。

 受付の女性がラミアの顔を見るなり、すぐに頭を下げた。

「ラミア様、お連れ様もどうぞ。ご案内いたします」



---

 通された部屋で待っていたのは、上品な中年男性だった。
 きっちりと手入れされた金茶の髪、落ち着いた物腰。
 ユートが以前“魔石”を預けた、ライネル・ロッセ商会の当主本人だった。

「ラミア殿、お久しぶりです。そして……そちらは、例の“品”の提供者か」

 ユートは軽く頭を下げる。

「名前は伏せておいてくれると助かる」

「もちろんです。過去の品に関しても、外部には一切情報を出していません」
 ライネルは穏やかに笑い、小さな袋を差し出した。

「さて、まずはこちらを。先日お預かりした宝石――“ローズグリモア”と“エーテルオパール”は、共に非常に価値の高い物でした。
 合計で金貨1640枚にて売れました。手数料を差し引いて、こちらが報酬の金貨1500枚になります」

「……想像以上だな。ありがとう」

 ユートは受け取った袋を腰に下げながら、改めて目を見据えた。

「――今日は、もう一つ。売りたい“もの”がある」

 その言葉に、ライネルの眉がわずかに上がった。

 ユートはラミアに目配せし、持参した封印付きの木箱をそっと開ける。
 中に収められていたのは、きらめく金色の液体――上級ポーション。

「……これは……」

 ライネルは目を見開き、思わず席から乗り出した。

「魔力濃度が異常に高い……これは、“癒しの頂点”に位置する薬……!」

「名は明かさない。作り方も話さない。だが、本物だ。
 3本売ってほしい。**買い手の選定と販売方法は任せるが、“出品者は匿名”で」

「……ふむ」
 ライネルは箱を閉じ、しばらく思案の表情を見せた後、深く頷いた。

「――承知しました。その条件で引き受けましょう。
 この薬は、真に必要とする者のもとへ届くべきです。……その願い、私の商会としても重く受け止めます」

 そして、少しだけ笑みを浮かべた。

「それに……この薬の存在が、本物だと証明されたとき――その“名もなき薬師”は、確実に伝説になりますよ」

 ユートは静かに微笑み返す。

「……それは望んでないさ。ただ、“必要な奴”に届けばそれでいい」

あと6本残っているが、これは仲間達のために取っておく。家に置いとくか…


---

【数日後・ライネル商会 応接室】

 ユートは再びラミアとともに、ライネル商会の応接室を訪れていた。
 商会内は以前と変わらず落ち着いた雰囲気だが、応接室に入った途端、ライネルの表情にはどこか高揚した空気がにじんでいた。

「お待ちしておりました。ちょうどよいタイミングで――例のポーション、3本すべて売れました」

「……どこへ?」

 ユートの問いに、ライネルは微笑みながら慎重に答えた。

「いずれも、王都の上層で信頼のある人物たちへ。
 一人は病で寝たきりだった騎士団長の家族、
 一人は治癒魔法では手が届かない火傷を負った魔術師、
 そして最後の一本は、詳細は伏せられましたが“貴族の子息の事故”への対応という話でした」

 ユートは黙って頷く。

「……それぞれ、確かな効果を実感し、感謝の言葉とともに多額の報酬が支払われました。
 一本につき金貨1万2千枚。合計で3万6千枚となります。
 手数料を差し引いて――お支払いは金貨3万2千枚です」

 そう言って、ライネルは封印された魔法袋を差し出す。

「……相場がない物だったからな。高すぎるかと思ったが……?」

「いえ、どの購入者も“安すぎる”と言っていたほどです。
 おそらく――この薬の価値は、これから跳ね上がるでしょう」


 ユートはしばし袋を見つめ、それから受け取った。

「……これで、何人かは救われたんだな」

「間違いありません」
 ライネルはまっすぐに言った。

「ついでに……少々、興味深い反応もありました」

「興味深い?」

「“ぜひ、継続して手に入れたい”と申し出てきた者が数名。中には、王都の大公家の側近も含まれております」

「……それ以上は深入りさせたくない」

「ご安心を。**“商会の倉庫に偶然保管されていた古代の薬”**という形で処理しています」

 ラミアがくくっと笑った。

「さすが抜かりないな、ライネル」


 ユートは小さく息を吐き、ライネルに言った。

「今のところ、追加はない。ただし――また作るかもしれない。その時は頼む」

「もちろんです。あなたが望む限り、全力で動かせていただきます」
 ライネルはそう言って深く頭を下げた。



 ユートは、王都の空を見上げる。

 金貨の重みよりも、誰かが笑顔を取り戻したかもしれないという、確かな実感があった。

 その価値は、彼にとって何よりの報酬だった。


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