異世界転移して最強のおっさん……の隣に住んでいる。

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第2章

オルディス家2

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【儀式室】

 あれほど禍々しい気配に満ちていた地下室は、今や静寂に包まれていた。

 魔法陣の周囲、朽ちた鉄檻の中――
 そこには、衰弱しきった人々が座り込み、虚ろな瞳でこちらを見ていた。

 「……生きてる。何人かは……まだ助けられる」

 ティナがそっと檻に近づき、鍵を壊して中の女性を支え起こす。

 バルトも無言で、次々と拘束を断ち切っていった。

 「くそ……こんなことを……!」

 拳を握りしめた彼の目には、怒りと悔しさが滲んでいた。



 ユートは回復魔法を慎重に行いながら、回復ポーションを少しずつ与えていった。
 少しずつ、囚われていた人々の表情に生気が戻っていく。

 「……ありがとう……助かった……」
 「おれたち、もう……てっきり……」

 嗚咽混じりの声が、ひとつ、またひとつと零れていく。



 十数名を救出し、ティナとバルトが支えるようにして地上へ運び出す。
 夜明けが近づき、ノルブの森の闇がわずかに薄まっていた。

 ユートは最後にもう一度、地下を見下ろした。

 「……これが、貴族が裏でやってたことかよ」

 その目に浮かぶのは怒りではなく、ただ……呆れと冷ややかな諦めのような色だった。


---

【王都・ギルド本部】

 ギルドに救出者を引き渡し、報告を終える頃には、朝日が差し込んでいた。

 グレイス伯爵は顔をしかめ、報告書に目を通しながら言った。

 「これが、オルディス家の“裏の顔”……完全に裁くには、もう一歩、証拠が必要だが……君たちの働きで、王都の被害は確実に止まった」

 ギルドマスターも深く頷いた。

 「君たちの勇気に、心から感謝する。……正式に、昇格と報酬を与えることになろう」


報告を終え、静寂が降りる。

 グレイス伯爵は椅子の背にもたれ、ユートたちを見つめながら言った。

 「君たちの働きは、王都にとって計り知れない価値があった。……報酬は、望むだけ支払おう」

 ユートは一歩、前に出る。

 「では――“黒き刃のアーゼル”を、解放してほしい」

 その名が放たれた瞬間、部屋の空気が凍りついた。

 「……!」

 バルトが目を見開き、ティナは眉をひそめる。
 そして、グレイス伯爵の表情も一瞬、鋭くなった。

 「……なぜ、奴を?」

 「……敵として戦った男です。戦ってすぐに分かった。動き、気配、剣筋、すべてが“本物”です。」


---

 アーゼル――かつて王都にその名を轟かせた近衛騎士。
 わずか十代でA級相当の実力を持ち、“黒き刃”の異名で恐れられた。

 だが、数年前。
 ある貴族派閥の粛清事件に巻き込まれ、“反逆者”として姿を消した。

 その存在が、オルディス家の私兵として地下で“鎖に繋がれた剣”として立ちはだかったのだ。


 「……彼は洗脳されていたわけでも、脅されていたわけでもなかった。
 ただ……自分の剣の意味を失っていた。だから俺と戦った。俺は、それでも……彼の剣に、誇りを感じた」

 「……ふむ」

 「罪を償うのは必要かもしれない。でも、鎖に繋がれて終わらせるには……あまりに惜しい」

 ユートは伯爵を真っ直ぐに見据えた。

 「俺の報酬は、彼の“自由”です。今後、どこで生きるかは本人次第ですが……少なくとも、“閉じ込める場所”じゃなく、選べる場所にいてほしい」



 伯爵はしばし沈黙し、机の上の書類に目を落とした。
 その眼差しは読み解けぬほどに深く、やがて口を開く。

 「……国には、罪も、誇りも、真実も、時に一緒くたになる。
 だが、今の私にできるのは、目の前にいる君の“覚悟”を信じることだろう」

 「アーゼルを解放しよう。……ただし、“自由”は、本人の手で掴むものだ」

 ユートは深く頷いた。


---

【後日・邸宅前】

 解放されたアーゼルが、ユートの前に現れる。

 黒衣をまとい、以前と変わらぬ鋭さを瞳に宿しながらも――その歩みには、どこか解放された空気があった。

 「恩を売られたな……」

 「恩だと思うなら、一つだけ。これから、どうする?」

 アーゼルは少し空を見上げた。

 「――もう一度、“剣”を握って、生きてみるさ」


---

【王都・ギルド前の朝】

 まだ太陽も昇りきらぬ早朝。王都の石畳に静かな足音が響く。

 ユート、バルト、ティナの三人が見送りに来た中、黒いローブ姿の青年が、軽く笑って手を振った。

 「……まさか俺が、見送られる側になるとはな」

 「行くのか、本当に」

 バルトが言うと、青年――かつて“黒き刃のアーゼル”と呼ばれた男は、静かに頷いた。

 「名前も変えた。これからは“リュシアン”として旅をする。しがらみのない、ただの冒険者としてな」

 「どこへ?」

 ティナが尋ねると、リュシアンは空を仰ぎ、どこか遠くを見つめた。

 「まずは南の街へ。それから、気が向いた方向へ。……本当に自由になった気がしてるんだ。お前たちのおかげでな」


 最後にユートの前に立つ。

 「……剣の重さ、ちゃんと覚えてるよ。お前の拳がなかったら、俺はまだ閉じ込められたままだった」

 「自由になったなら、もうその剣の先を誰にも奪わせるな」

 「……ああ」

 握手を交わす二人。
 その手は、互いの強さと過去の痛みを知る者同士の、静かで深い約束のようだった。


 「またな。どこかで会えたら、次は――共に剣を振るおう」

 それだけ言って、リュシアンは背を向け、ギルドの門をくぐっていった。
 その姿は、もう“黒き刃”ではない。ただ一人の、自由な旅人の背中だった。


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