異世界転移して最強のおっさん……の隣に住んでいる。

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第2章

アルザ商会

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【翌日・正午前/東京・東新橋】

 オフィス街の喧騒の中、一際目を引く落ち着いた外観の9階建てのビル。
 ガラス張りの受付には控えめなロゴがある――《アルザ商会》。

 榊 春都は、フードを被ることもなく、スーツ姿のまま堂々と正面玄関から中へ入った。

 受付嬢が慌てて立ち上がる。

 「申し訳ありません、お約束は――」

 榊は立ち止まり、ただ一言。

 「アルザ商会の“中枢”まで案内しろ」

 受付嬢の表情が固まった。

 ――次の瞬間、館内のセキュリティが作動。
 扉が自動でロックされ、壁際のパネルが赤く点灯する。

 数秒後――両サイドの通路から黒服の男たちがぞろぞろと現れる。
 拳銃を携えた男、警棒を持った男、スーツのまま構える武闘派――合計10人以上。


---

 榊 春都は、右足を軽く踏み込んだ。

 ――その一歩で、目の前にいた警棒の男が吹き飛ぶ。

 拳すら振るっていない。ただ、風圧と殺気のみで“前提”を破壊する。

 「撃て!」

 銃声が鳴り響いた瞬間、榊はすでに左へ跳び、壁を蹴って天井近くまで跳躍。

 ――次の瞬間、彼は落下しながら3人の首を叩き落とすように殴り倒す。



 廊下。
 階段。
 会議室。
 社員食堂。

 どこにいても、立ちはだかる者すべてが倒れていく。

 「なんだこいつは!? 人間か!? 魔法か……いや術か!?……うわああっ!」

 叫び、逃げ惑う者。
 武器を構えるも、即座に壁に叩きつけられる者。

 榊 春都の進撃は止まらない。


---

【最上階・重役フロア】

 エレベーターは止められていた。
 だが、榊は階段を駆け上がり、足一つで分厚い防弾扉を蹴破った。

 高級ソファ、応接テーブル。
 その中央にいたのは、白髪に金縁メガネの男――アルザ商会の実質的な“運営責任者”である**星賀(せいが)**だった。

 「……来るとは聞いていたが、正面からとはな。完全に想定外だ。なるほど、“桁違い”の化け物だな、お前は」

 榊は何も答えず、机に拳を置く。机の脚が沈み、床が軋んだ。

 「お前らは“グラヴェリス”と何をしていた」

 「ふん……命令されて動いていたまでだ。“実験素材”が欲しいとさ。ポーション関連だと聞いている」

 「俺を素材にするつもりだったか」

 「我々には拒否権などない。“国家”の意志にはな……」

 榊はゆっくりと目を細めた。

 「なら、お前もここで一度“終わり”だ」


 星賀が緊急通報ボタンを押す寸前、榊の掌から放たれた強烈な衝撃波が机ごと彼を吹き飛ばした。
 部屋の壁にめり込み、動けなくなる。

 「次に会うときは、お前が“誰かの命令”を盾にできなくなったときだ。
 それまで、せいぜい反省してろ」


 全館が無力化されたあと、榊 春都はひとつの端末を回収し、USBにデータを抜き取る。

 そこには、“次に動く予定の対象”のリストと、暗号化されたメッセージ――

 >【コード名:カーミラ】【コード名:シーヴァ】
 >“対象B”の特性再確認中。近日中に“処理”の可否を再検討

 榊は静かにそれを読み、眉をわずかに動かした。

 (……次が本命か)

【都内某所・春都の隠れ家】

 重い扉を閉めると同時に、空気が変わった。
 音も光も外から遮断された小さな防音室。榊が“戦場の前”に使う、調査と準備の拠点だ。

 アルザ商会で回収した端末を、専用の解析ツールに接続する。

 「……自前で仕掛けたセキュリティにしては、ずいぶん素人臭いな」

 解読は30分もかからなかった。


---

【解析完了:暗号ファイル“XJ-0979”】

 中にあったのは、“対象A”と“対象B”というコードネーム付きの二人の情報。


---

■ コードネーム:カーミラ(対象A)
・都内在住の少女・13歳
・難病指定を受け、身体の再生治療の実験対象候補
・「再生因子の適応テスト済」
・成功すれば“新型ポーション”のプロトタイプ認可へ

■ コードネーム:シーヴァ(対象B)
・東南アジア系の男性・年齢不明
・特殊な治癒力と耐毒性を持ち、被験者として“処理”の検討対象
・“強化処置後の殺処分を含む”と記載あり


---

榊はファイルの最後にあった、幹部のメモに目を通す。

> 「春都の確保に失敗した以上、次は“実験段階”を強行する必要がある。
対象Aは今夜中に搬送される予定。再生試薬の“臨床使用”の前段階として、
“欠損状態”の再現を含めた処置が行われる。問題が起きれば処分も許容範囲」



 ――血の気が引くような文面だった。



 「……クソが」

 低く、押し殺したような声が漏れる。
 拳が机に叩きつけられ、金属の天板が歪んだ。

 (子供を――道具として使う気か。しかも“欠損再現”……最初から、壊すつもりだ)

 榊は即座に荷物をまとめ、隠していた転移用の魔法具を取り出す。


---

【行き先:地球のまま、都内の某研究施設】

 アルザ商会と密接な関係にある“搬送先”――
 その住所は、都内湾岸部にある、民間医療研究を装った地下施設だった。

 榊 春都は、時間をかけず、正面からではなく“夜の搬入口”を選ぶ。


【地下3階・搬送ルート】

 手術用ストレッチャーに、少女が眠らされていた。
 長い銀髪と、痩せ細った小さな体。目の周りには電極、左腕には拘束具。
 眠らされているはずの彼女が、微かに苦しそうに眉をひそめた。

 「……間に合ったか」

 榊は周囲を確認し、そっと拘束を外す。
 音も立てずに少女を抱き上げると、すぐさま退路へ向かう。


---

【15分後・都内某所・風間の隠れ事務所】

 薄暗いビルの一室。鉄製のドアをノックもせず開け、榊 春都が現れる。
 肩にはぐったりとした銀髪の少女――カーミラが抱えられていた。

 室内では、書類を広げながら電話していた裏のコーディネーター・風間が顔を上げる。

 「……やけに急じゃねぇか、榊さん」

 榊は無言で少女をソファに寝かせ、言った。

 「預かってくれ。この子の身元は表に出すな。ケガや状態のチェックはそっちで頼む。医者も信頼できる人間だけにしろ」

 風間の表情が硬くなる。

 「随分と重そうな橋、渡ってんな……。問題起きたら?」

 「俺が全部潰す。心配すんな」

 「了解。こっちで動けるラインは確保しとく」

 榊は最後に、カーミラの顔を一度だけ見た。
 薬で眠るその少女の額に、冷たい汗が浮かんでいる。

 「……もう少し、待ってろ。終わらせてくる」


---

【再突入――湾岸地下施設】

 深夜3時。
 照明を落とした地下搬入口の非常扉が、爆音とともに吹き飛んだ。

 「侵入者だ!セキュリティ作動させろッ!」

 警備隊が慌てて動く。十数名の私兵たちが銃を手に走り出し、戦闘態勢を取った。

 ――だが、その直後、床が“爆ぜる”ように隆起し、1人、また1人と吹き飛ばされた。

 「な、何が起きて――ぐっ!」

 誰も見ていなかった方向から、風のように滑り込む影。
 黒ずくめの男――榊 春都が、あっという間に敵の懐に入り、拳ひとつで壁に叩きつける。

 銃を撃つ隙もない。

 「人間じゃねぇ……なんなんだこいつは……!」

 叫びながらトリガーを引いた男の背後に、榊が“瞬間移動したように”現れ、肘で意識を刈り取る。

 廊下を抜けるたび、警備隊が待ち伏せているが――誰一人として彼の動きに反応できなかった。


---

【地下3階・中枢データルーム】

 機密エリアに到達すると、白衣を着た研究員たちが慌てて警報を連打していた。

 「や、やめろ! ここはお前が来ていい場所じゃ――!」

 榊は無言のまま、手をかざす。

 次の瞬間、周囲の照明が一斉に“バチバチッ”とショートを起こし、コンピュータ端末が爆音と共に黒煙を上げた。

 「何が起きた!? EMPか!? ウィルス!?」

 「違う、こんなタイミングでこんな正確な制圧なんて――ありえない……ッ!」

 研究員たちはパニックを起こし、逃げようとするが、榊が一歩進むごとに周囲のドアが自動で“開き”、閉ざされる。

 まるで――意思を持った何かが味方しているような異常な光景。

 最後に榊は、データサーバーへと手をかざす。

 「“消えろ”」

 静かに呟いたその瞬間――サーバーが内部から焼き崩れ、完全に破壊された。


---

 施設全体に火災報知器が鳴り響く。

 榊 春都はその中心を、静かに歩くように移動していく。
 彼の背後では、倒れ伏した私兵たちと、崩れた壁、真っ黒に焼けた装置が残されていた。

 「魔法」など、彼を見た誰も知らない。
 けれど、彼の行動を目撃した者は、こう言うだろう。

 ――“あれは人じゃない”と。


---

【都内・風間の拠点 午前4時過ぎ】

 まだ夜の気配が残るビル街。
 榊は血と煤の匂いを纏ったまま、無言で鉄の扉を開いた。

 「……戻ったか」

 机に肘をついていた風間が、眠気のない目で顔を上げる。
 部屋の奥――ソファベッドには、銀髪の少女が静かに横たわっていた。

 「熱は下がった。医者に見せたが、大きなダメージはなさそうだ。ただ薬のせいか、まだ目を覚まさない」

 榊はゆっくりと近づき、カーミラのそばにしゃがんだ。
 彼女の額に浮かんでいた冷や汗は引き、表情も幾分落ち着いて見えた。

 「……間に合って良かった」

 その言葉は小さく、誰に向けたものでもないようだった。

 「施設は?」

 風間が問う。

 「壊した。奴らは“何か”を作っていた……けど、もう全部灰だ」

 「よし。カタはつけたってことだな」

 風間は懐から煙草を取り出しかけて、結局やめた。

 「この子、どうする?」

 「――しばらくはここで預かってくれ。名前も身元も、どこにも出すな。起きたら……俺が話す」

 「了解だ。名前も偽名で処理しておく」

 榊はカーミラの手を、そっと両手で包み込むように握った。
 小さな手。だが、その手は、無理やり何かを背負わされかけていた。

 (……今度は、守る側だ)


---

【夜明け前の一瞬の静寂】

 窓の外に、かすかな朝焼けの兆し。

 榊 春都は立ち上がり、風間に一言だけ告げた。

 「ありがとうな、風間」

 風間は無言で手を振った。


---
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