異世界転移して最強のおっさん……の隣に住んでいる。

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第2章

上級ポーション

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【異世界・王都 ライネル商会・応接室】

 異世界へ転移したユートは、すぐさま王都へと移動し、ライネル商会の石造りの屋敷に足を運んでいた。
 白と金を基調とした店構えは、今日も客の出入りが絶えず、商人や貴族風の者が忙しく行き交っている。

 「ユート様、ようこそお戻りになられました」

 対応に出たのは、いつもの若い秘書官。
 軽く会釈をして、ユートを奥の応接室へと案内した。

 ほどなくして――ライネル商会当主、ライネル・ロッセが姿を現す。

 「これはこれは、ユート様。お元気そうで何よりです」

 「そっちも相変わらず繁盛してるみたいだな。例のポーション、売れ行きはどうなってる?」

 ライネルはにこりと笑い、帳簿をテーブルに置いた。室の扉が閉まり、ユートは深く腰掛けた。
 対面にはライネル当主、穏やかな微笑みを浮かべて帳簿を開いている。

 「さて、ユート様。お預かりしていた上級ポーション、20本中18本がすでに販売いたしました」

 「……相場通り?」

 「ええ。1本あたり金貨12,000枚、こちらの設定した最低落札価格で即決されております。予想以上に注目されておりまして、出品から数日のうちに入札が殺到しました」

 ユートは無言で頷いた。
 高額だとは思っていたが、想像以上の速さだ。

 「売上は……」

 「合計で金貨216,000枚、手数料を差し引きまして203,000枚ほどがユート様の取り分となります。お預かりの形で口座に保管しております」

 ユートは頷きつつ、声を潜めて聞く。

 「……で、例の“万能薬”は?」

 ライネルは苦笑いを浮かべる。

 「正直なところ、相場が存在しません。かつて同様の効果を持つ薬が市場に出回ったことがないため、幾らと提示してよいのか、我々も判断しかねております」

 「高くしすぎれば怪しまれる。安くすれば、奪い合いになるだろうな」

 「その通りです。ゆえに、今は一部の信頼できる貴族や商会筋に“存在だけを伝える”形で調整中です。慎重に参りましょう」

 「それでいい。……数日したら、また数本持ってくる」

 ライネルはうなずきながら、帳簿を閉じる。

 「ユート様のご判断に従います。何かございましたら、いつでも」

【王都・ゼネの研究所】

 小ぢんまりとした石造りの建物。
 中に入ると、いつものように薬草と蒸気の匂いが立ち込めていた。

 奥の扉を開けると、白衣姿のゼネが机の上に広げた資料を読み漁っている。

 「よぉ、元気そうだな」

 声をかけると、ゼネは顔を上げて眼鏡を押し上げる。

 「……ああ、ユートか。また“素材”を持ってきたのか?」

 「その通り。今回は命樹の芽を3つ、頼みたいのは上級ポーション30本分だ」

 ユートは丁寧に包んだ布を広げ、白く光る“命樹の芽”をテーブルに並べる。

 ゼネの目が細くなり、わずかに口角が上がった。

 「質は問題ない。これなら十分だな」

 「報酬も用意してある。金貨90枚、受け取ってくれ。いつも世話になってるし、追加の材料費も含めてな」

 ユートが差し出した袋には、刻印入りの金貨がぎっしりと詰まっていた。

 ゼネは一瞬驚いたように眉を上げたが、何も言わずに袋を受け取る。

 「……ふむ、あんたにしては気前がいいな。分かった、数日で仕上げて連絡する。品質は保証する」

 「頼んだ」

 軽く握手を交わし、ユートは研究所を後にした。
 扉が閉まる直前、ゼネがぽつりと呟いた。

 「これで……あの“奇跡の薬”の噂は、さらに広がるだろうな……」


【王都・ユートの家】

 木の扉を開けて中に入ると、いつものように香ばしいスープの匂いが漂っていた。
 広い居間のソファではバルトが腕立て伏せをしており、ティナは窓辺で日差しを浴びながら剣の手入れをしている。

 ミリアが台所から顔を出し、微笑んだ。

 「お帰りなさいませ、ユート様。お昼の準備、もうすぐできますよ」

 「助かる。腹ぺこでな……」

 ユートが靴を脱ぎながらそう答えると、バルトが立ち上がり、汗を拭って言った。

 「おかえり、ユートさん。例の貴族の依頼、大丈夫だったか?」

 「まぁ、なんとかな。……で、お前らの方は?」

 ティナがちょっと誇らしげに小さく胸を張って言う。

 「今朝、ギルドに顔を出して、Cランク向けの簡単な討伐依頼を受けたの。ゴブリンの斥候を掃除する程度だけど……」

 「依頼主は、街道沿いの農場の人だ。最近また、周囲にゴブリンが出始めてるらしくてな」

 バルトも真面目に補足する。

 ユートはふと考えた。
 たまには、何も考えず戦える“普通の仕事”も悪くない。

 「よし。俺も一緒に行くか」

 ティナが目を丸くする。

 「えっ、ユートさんも? でも、たぶん私たちだけでも……」

 「いいからいいから。俺だってたまには気分転換したいんだよ」

 バルトが少し苦笑する。

 「……まぁ、ユートさんが来てくれるなら、ゴブリンの方が気の毒かもな」

 そんな冗談を言い合いながら、三人は昼食を終えたあと、街道沿いの小規模な討伐に向かう準備を始めた。


---

【街道沿いの森・討伐任務後】

 陽が傾きはじめた頃、三人は森の中の小さな開けた場所に倒れたゴブリンたちを見下ろしていた。
 地面には数体の死骸。斥候らしく装備も貧弱で、まともに戦闘になったのはティナとバルトだけだった。

 「ふぅ、終わりだな」

 バルトが剣を鞘に納めながら言うと、ティナが小さくガッツポーズをして喜ぶ。

 「今回はいい動きができた気がする!」

 ユートは後ろからそれを見て、微笑ましく頷いた。

 「うん、二人とも上達してるよ。俺の出番は……まあ、なかったな」

 「そりゃそうですよ、ユートさんが本気出したら森ごと燃えちゃいそうだし」

 ティナが冗談めかして笑い、三人は並んで森を後にした。

 街道に戻ると、ちょうど馬車が通りかかり、御者の男性が話しかけてきた。

 「おや、あんたら冒険者かい? ならちょうどいい。最近、北の廃坑で変な光が見えたって話があるんだ。誰かが潜ってるのか、あるいは……魔物が巣を作ってるかもしれねぇって話だ」

 「廃坑……?」

 バルトが少し身を乗り出す。

 「一応、昔は鉱石を掘ってた場所だが、今は使われてなくてな。ギルドでも近々調査依頼を出すって話を聞いたぜ」

 「調査依頼、か……」

 ユートは、馬車が走り去るのを見送りながら、ぽつりとつぶやいた。

 「案外、面白いことになるかもな」


---

【王都・ユートの家/夜】

 日が落ち、暖かなランプの灯る家の中では、ティナがミリアと一緒に夕食の片付けをしていた。
 バルトはソファに腰を沈めて剣の研磨をしており、ユートはテーブルの上で地図を眺めながらぼんやりと考え事をしていた。

 そこへ――。

 コンコン、と扉が叩かれる音。

 「……こんな時間に?」

 警戒しつつドアを開けると、そこに立っていたのはギルド職員の一人。息を切らせており、明らかに急ぎの様子だった。

 「ユート様、急ぎの件です」

 「どうした?」

 「……北の廃坑の近くで、“魔力反応”が急激に高まったとの報告が入りました。現地近くの駐屯兵からの連絡で、光が夜空を走ったとも」

 「……魔力反応?」

 ギルド職員は真剣な表情でうなずいた。

 「現在、ギルドでは調査班を準備中ですが……正直、間に合わない可能性が高いです。ユート様、現地に向かっていただけませんか? 事が大きくなる前に」

 ユートは一瞬だけ黙り、ちらりとティナとバルトを振り返った。
 ふたりとも、すでに腰を上げている。

 「行こうか」

 「はい!」

 「了解だ、ユートさん」

 ――こうして、ユートたちは急ぎ、闇に包まれた北の廃坑へと向かうことになった。


---
【北の廃坑近く・深夜】

 空には雲が立ちこめ、月は薄く隠れている。
 森の木々は夜風に揺れ、まるで何かを警告するようにざわついていた。

 「……この空気、ただの魔物じゃなさそうだ」

 ユートは森の中に立ち、前方に広がる廃坑の崖下を見下ろした。
 かすかに、淡い青白い光が地面に滲むように走っている。

 「ユートさん、あれ……!」

 ティナが指差す先、崖の下の広場のような場所には、複雑な紋様が地面に刻まれていた。

 「魔法陣だな。しかも、動いてやがる……」

 魔法陣は静かに脈打つように光り、外周の文字が微かに回転している。
 それはただの記号ではなく――**術式の一部であり、何かを呼び出す“過程”**のようにも見えた。

 「……これって、誰かが使ったってことですか?」

 バルトが周囲を警戒しながら問うと、ユートは地面に片膝をつき、魔力感知の意識を広げる。

 「……最近描かれた痕跡がある。まだ“術者の気配”が残ってる」

 「じゃあ、まだ近くに?」

 「かもしれない。下手すると……今もどこかでこいつを遠隔で起動してるかもしれんな」

 ティナが不安げに魔導短剣を握り直す。

 「でも、誰が? なんのために?」

 ユートは静かに魔法陣の縁を指先でなぞりながら、ぽつりとつぶやいた。

 「……“召喚”に似てる。でも、呼び出すのは魔物じゃない。何か……封じられていたものだ」

 バルトが息を呑む。

 「封印を、解く……?」

 その瞬間、魔法陣が一瞬だけギラリと赤く光った。

 「……おい、やばいぞ。起動が早まってる。何かが来る」

 ユートは立ち上がり、二人に目で指示を出した。

 「準備しろ。こいつを止めるか、出てくる“何か”を迎え撃つか……その二択だ」


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