異世界転移して最強のおっさん……の隣に住んでいる。

モデル.S

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第2章

模擬戦その後

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【王宮・模擬戦場 控えの間】

 模擬戦を終えたユートが控え室に戻ると、エドワード・フォン・グレイス伯爵がすぐに現れた。

「見事だった、ユート。殿下も満足されたようだ。……おかげで私も命拾いした」

「そりゃよかったな。伯爵が頭下げるとこなんて、あんま見たくねぇし」

 伯爵は苦笑しながら、懐から一つの袋を取り出す。
 ずっしりと重そうな革袋――中にはかなりの金貨が入っているようだった。

「これが礼だ。殿下からの分も含めて、正当な報酬として受け取ってくれ」

 だが、ユートは即座に手を振った。

「いや、いらねぇよ。今回は“貸し”でいい」

 伯爵の眉がわずかに動く。

「……いいのか? これは王家からの正規の……」

「金のためにやったわけじゃねぇ。伯爵が困ってたから手を貸しただけだ。
 それに、ああいう場で戦うのも、たまには悪くない」

 その言葉に、エドワードはしばし無言となり、やがて笑う。

「本当に、君という男は……変わらん。分かった、その貸し、しかと覚えておこう」

「よろしく頼むぜ、伯爵さま」


---

【王都・冒険者地区 ユートの家・夜】

 その夜、静かな時間が流れていた。
 模擬戦の疲れも抜けぬまま、ユートは湯上がりの体をタオルで拭いていると――扉を叩く音。

 コンコンコン。

 少し間を置いて、再び。

 コン……コン。

「……またか?」

 玄関を開けると、そこに立っていたのは、昼間剣を交えた男――ルシアン・ファーレンだった。

「悪い、夜分に。少し、話がしたくてな」

「……入れよ。立ち話もアレだろ」


---

【ユートの家・簡素な客間】

 二人は木のテーブルを挟んで腰を下ろす。
 ルシアンは少し考える素振りを見せ、それから真正面から問いかけた。

「君の……剣術スキルのレベルを聞いてもいいか?」

「……スキルレベル、ね。ずいぶんとストレートだな」

「正直、気になって仕方がない。あれほどの動き……俺と同等、もしくはそれ以上の反応速度だった。
 なのに、何か違和感があった。だから、どうしても知りたかった」

ルシアンの問いに、ユートはしばらく無言で天井を見上げた。

「……なるほどな。お前が気になってるのは“俺の技”じゃなくて、“スキル”の方か」

「ああ。俺の剣術スキルはレベル10だ。それを踏まえて、あの模擬戦……どうしても腑に落ちない」

 ユートは立ち上がり、右手を軽くかざす。

「ステータスオープン」

 青白い光のパネルが、視界にのみ広がる。
 他人には見えない。自分にだけ開示される、情報の塊。


---

【ステータス(抜粋)】
火Lv10
水Lv10
風Lv10
土Lv10
剣術Lv5
……他、多数


---

 ユートはパネルをじっと見つめてから、静かに言った。

「剣術スキルは、レベル5。」

 ルシアンの表情が一瞬固まる。

「……たったの、5……?」

「そう。正真正銘、5だ。
 お前の言う通りなら、スキルだけで言えば、お前の半分。……けど、戦いってのは、数字じゃ測れないだろ?」

 ルシアンは何かを飲み込むようにして、頷いた。

「確かに。技の鋭さや動きの冴え……スキルだけじゃ説明がつかないものがあった。
 ……だが、それでも理解しがたい。なぜ、そこまで戦える?」

「簡単だよ。俺は……“本業が魔法使い”だからさ」

 ルシアンが目を見開く。

「……魔法、使いなのか?」

「ああ。火も水も風も土も、全部レベル10。
 剣はあくまで“補助”だ。敵が接近してきた時に、最低限応戦できるようにってな」

 ルシアンは一瞬、言葉を失い――それから、静かに息を吐いた。

「……納得した。つまり君は“魔法で戦う前提の体術”に、剣術を合わせているわけだな」

「そんな大層なもんじゃねぇけどな。まあ、考えて動いてるってだけだ」

「だがそれこそが、最も重要なことだ。……スキルに頼りきった者には、それができない」

 ルシアンの目が、少しだけ柔らかくなった。

「正直、君に敬意を抱かずにはいられない。
 また、戦える日が来ることを楽しみにしているよ」

 ユートは肩をすくめて、苦笑した。

「お前って、思ったより真面目だな」

「剣の道を真面目に歩んでるつもりだ。それだけさ」

「……じゃあ、次に会うときは俺の剣術もレベル6になってるかもな」

「ふふ、楽しみにしておく」


---
扉が静かに閉まり、ユートは深く息をついた。

「……ふぅ。妙に礼儀正しい剣士ってのも、疲れるな」

 気を抜いてソファに腰を落とす。
 ようやく静けさが戻った――と思った矢先。

ガチャリ。

「ただいまー!」

 勢いよく扉が開き、バルトの大声が夜の空気をかき乱す。
 その後ろから、ティナが肩から大きな布袋を下ろしながらついてくる。

「はぁ……もう、ちょっとは静かに帰ってきてよバルト……」

 ユートは振り返り、軽く手を上げた。

「おかえり。依頼、無事に終わったか?」

「ばっちりだ!ゴブリン掃討任務だったけど、俺たちにかかれば楽勝さ!」

 バルトがどっかりと椅子に座り、手をバンバンと膝に打ち鳴らす。

 ティナはユートを見て、小首をかしげた。

「……あれ? 今、誰かいた? すれ違ったような……」

 バルトも思い出したように、ユートの方を見て尋ねた。

「そうだそうだ。今すれ違った、あのシュッとした長身イケメン誰だ?
 なんかただ者じゃねぇオーラ出してたけど……っていうか、ちょっと怖かったぞ」

 ユートは軽く笑い、肩をすくめた。

「ルシアン・ファーレン。王太子の近衛騎士で、Sクラスの剣士。さっきまで家にいた」

「……は?」

 二人が固まる。

「……えっ、あの有名な“無敗の剣”の?」

「うそ、王宮の……って、なんでそんな人がここに来てるの!?」

 ユートは、あっけらかんと言ってのけた。

「模擬戦やったんだよ。王太子の前で。んで、気になったからって剣術スキルの確認に来たんだとさ」

 バルトは口を開けたまま硬直し、ティナも目をまんまるにする。

「……なにそれ、こわ……」

「さっすがユート……マジで関わるレベルが違う……」

 ユートはソファに沈み込みながら、天井を見上げて小さく笑った。

「たまには面倒な相手と話すのも、悪くなかったけどな。
 ……さて、お前ら。夕飯、どうする?」

「いやいやいやいや、まず説明からぁぁぁ!」

「ていうか模擬戦の話もっと詳しく聞かせてよー!」

 騒がしくなる部屋の中、ユートは肩を震わせて笑った。
 静かな夜は、結局、すぐに賑やかになったのだった。


【翌朝・ユートの家】

 朝の光が窓から差し込み、鳥のさえずりが響いていた。
 ユートは朝食のパンをかじりながら、ぼーっと湯気の立つスープを見つめていた。

 隣では、バルトが豪快にソーセージを頬張り、ティナがパンを裂きながらニュース紙を読んでいる。

「昨日の話、まだ信じられないんだけど……本当にルシアン・ファーレンがここに来たの?」

「目の前で見ただろ」

「いやだって、あの人、王城の中でも超高位の騎士でしょ? なんでユートの家に……」

「言ってもムダだぞ、ティナ。ユートはそういう星の下に生まれてんだよ」

「生まれてねぇよ」

 そんなくだらない会話をしていると――

コン、コン、コン。

 聞き覚えのある、控えめで正確なノックが響いた。

 ユートが眉をひそめ、立ち上がる。

「……またかよ。今度は何の用だ」

 扉を開けると、案の定、そこに立っていたのは――

「おはよう、ユート。朝早くから悪い」

 黒いマント姿のルシアン・ファーレンだった。

 ティナとバルトが同時に「うわっ」と声を上げる。
 ルシアンは二人に軽く目を向けて一礼した後、ユートに視線を戻す。

「今日は俺の用じゃない。王太子殿下が、直接ユートに会いたいと仰っている」

 パンをくわえたまま、ユートはルシアンを見上げた。

「……なんでまた? 模擬戦で満足したんじゃなかったのか?」

「そう思っていたんだが……どうやら、君に“個人的な話”をしたいらしい」

「個人的、ねぇ……」

 ユートはパンを飲み込み、少し考え込むように視線を泳がせた。
 バルトがヒソヒソとティナに話しかける。

「……ねえ、個人的って何?もしかして王太子、ユートのこと――」

「バカ言わないの。そういう意味じゃないでしょ。たぶん」

 ユートはため息をひとつついて、ルシアンに言った。

「分かった。じゃあ、支度する。すぐ行くって伝えてくれ」

「いや、今日は護衛も兼ねて俺がそのまま案内するよう言われている。すぐに出発できるか?」

「なら尚更、顔だけ洗わせてくれ」

 ルシアンがうなずき、ユートが寝癖のついた頭をかきながら奥に引っ込むと、ティナが小声でつぶやいた。

「なんか……またややこしいことになりそうね」

 バルトは頷きながら、真剣な顔で呟く。

「うん……ユートに平穏な日常が来るのは、いつなんだろうな」


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