異世界転移して最強のおっさん……の隣に住んでいる。

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第2章

裏切

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【王都・王城・戦略会議室】

 ルシアンが届けた地図と血染めの羊皮紙が、王城内の重厚な会議卓に広げられていた。

 王太子セレイン・フォン・アルデシア。
 グレイス伯爵。
 第一王衛隊隊長。
 王宮魔術師団副長。
 そして、情報部長。
 国の中枢に関わる人物たちが、今この場に揃っていた。

 その中心で、セレインは地図を見下ろしながら、静かに声を落とす。

「……この通路網。確かに、かつて王都を築いた初代王が作った“旧地下拠点”だ」

「ですが、正式には“埋没済み”と記録されているはずです」

 魔術師団副長が驚きを含んだ声で言う。
 グレイス伯爵が腕を組んで答えた。

「“表向き”はな。実際には、当時の緊急退避路や隠し物資庫として一部は維持されている。
 だが、それを“敵”が使っているとすれば――話は別だ」

 ルシアンが前に出て、補足する。

「問題はここです。この印。
 古い地図のこの位置――現在の王城の真下と一致しています」

 会議室が一瞬、凍りついた。

 セレインは、声を潜めるようにして言った。

「……つまり、“王城の地下”に敵が潜んでいる可能性があると?」

「はい。そして昨夜、ユートが接触した女幹部はこう言いました――
 “今度は、あなたが誰かを守り損なう番だ”と」

「……挑発だな」

 グレイス伯爵の目が細くなる。

「殿下、我々はこのまま黙って様子を見るべきではありません。
 ただちに“王都地下通路”の封鎖と捜索を行うべきです」

「異議ありません。だが――慎重に行う。
 内通者がいる可能性がある以上、極秘裏に」

 セレインは静かに立ち上がり、扉の方を向いた。

「……ユートを呼べ。
 この作戦、彼に任せたい」


---

【王都・ユートの家/その夜】

 日が沈みかけた頃、また王城の使者がやってきた。

「ユート殿、王太子殿下より、直接の招集です。
 内容は――“特殊任務”とのこと」

 ユートは、窓辺で地図を見直していた手を止め、立ち上がる。

「……来たか。ついに“本丸”だな」

 その眼差しは、冷静さの中に鋭い光を宿していた。

「ティナ、バルト、今夜は戻れなくなるかもしれねぇ。
 ミリアさんには、今後の事を頼んである。……後は、俺がやる番だ」

 外套を羽織り、扉を開く。

「行ってくる」


---

【王宮・執務室・直通書庫】

 ユートが通されたのは、王城でも限られた者しか入れない、王族直轄の書庫。

 そこにセレインとルシアン、そして情報部長がいた。

 セレインが静かに告げる。

「ユート――君に、“極秘任務”を命じる」

「内容は、王城地下への潜入と調査。
 敵が内部に通じているルートを利用し、密かに活動している可能性がある」

 ルシアンが補足する。

「正面から兵を入れれば、気づかれる。“潰す”ことはできても、“掴む”ことはできない。
 ……そこで、君のような【一人で潜入し、戦闘も情報収集も可能な人物】が必要だ」

 ユートはすっと、地図の一点を指差す。

「ここ――“王城の地下庭園跡”から、通じてるルートがあるはずだ。
 まずはそこを探る。準備が整い次第、出る」

 セレインは、深く頷いた。

「頼む。君だけが、この任務を遂行できる」

「任された。絶対に――奴らの“根”を断つ」

【王城地下・通路入口】

 真夜中、王城内の誰も近づかない“地下庭園跡”。
 苔むした石壁と朽ちたアーチの奥、古文書の地図にだけ記されていた扉があった。

 ユートは静かにその扉を開ける。
 鈍い音と共に、封じられた通路が姿を現す。

 同行するのは3人。
 王宮魔術師団の補助魔術師ライゼル。
 衛兵隊の若き剣士ヴェイグ。
 そして、情報部付きの諜報員を名乗る黒髪の女――シェリア。

 ルシアンからの指示で、最低限の少人数での潜入が命じられていた。

(……静かすぎる)

 通路に入ってすぐ、ユートは何かが引っかかる感覚を覚えていた。
 妙に整った石壁。踏み固められた通路。
 “人が出入りしている形跡”が露骨だった。

「……何かいる。気配を消して進む」

 ユートの合図に、全員が頷いて前進する。
 魔法の光源を最小限に抑え、石段を下っていく。


---

【地下第2層・分岐通路】

 途中、空気の流れが変わる。

「……おかしい。右の通路、風の流れが逆になってる。
 本来はこっちが“行き止まり”のはず……」

 ユートが地図を再確認し、右へ進もうとしたそのとき。

「ユートさん。こちらへ」

 後方にいたシェリアが、左手の通路を指差した。

「そちらの方が足跡が新しいです。敵が逃げたなら、そちらかと」

「……」

 ユートの直感が鳴る。

(何か引っかかる。妙に“誘導が早い”)

 だが反論する前に、ヴェイグが先に走り出す。

「じゃあ、俺が先行します!」

「待――」

 その瞬間。

 ガシャンッ!!!

 足元が崩れる。
 ユートとライゼル、ヴェイグの三人が、一斉に落とし穴へと落下した。


---

【地下・罠の部屋】

 着地と同時に、ユートはとっさに〈風着地〉を使い、衝撃を殺す。

「くそっ……落としやがったか!」

 ライゼルとヴェイグは軽傷。即座に警戒体勢に入る。
 天井を見上げると、シェリアの顔が、黒いフードの影から覗いていた。

「……すみません。やっぱり、あなたは“勘が鋭すぎる”わ」

「……シェリア。貴様……!」

「そう。わたしは“ゼラスト派”の情報員。
 王城の情報部に潜り込んで十年。ようやく、王家の心臓に手が届きそうだったのに――
 あなたが現れるまでは、ね」

 シェリアの背後に、複数の気配が集まる。
 黒装束の刺客たちが、通路の奥から続々と現れる。

「ここで死んでいただく、ユート。
 あなたがいなければ、王女も王子も、すぐに手が届くのよ」

「……」

 ユートは目を伏せ、ゆっくりと立ち上がる。

「裏切り者が出るって、ルシアンが言ってた。
 ……やっぱり、お前だったか」

「残念だったわね。気づくのが遅いわ」

「いや。十分間に合う」

 ユートは手を広げた。

 ――次の瞬間、空間が唸った。

「全属性同時展開――来いよ、全員まとめて相手してやる!」


---

【王城地下・罠の部屋】

 ――ユートの足元に、六つの魔法陣が展開された。

「火球《フレイム・バースト》、風刃《ウィンド・カッター》、雷槍《サンダー・スピア》、
 氷刃《アイス・エッジ》、光撃《ホーリー・ブラスト》、重圧《グラヴィティ・フィールド》!」

 放たれる連続魔法。
 地が割れ、天井が焦げ、風がうなり、雷鳴が炸裂する。

 黒装束の刺客たちは一斉に武器を構えたが――遅い。

「ぐっ……がぁっ!!」

「ひ、一撃でっ――!」

 前衛が雷に貫かれ、後衛が火球に呑まれる。
 氷刃は通路を封鎖し、風刃が逃げ道を断ち切る。

 ――それはもはや“魔法”ではない。“戦場支配”だった。

 ライゼルが震えながら呟いた。

「な、なんなの……この人、一人で……戦場を支配してる……」

「そうだよ。……あれが、“ユート”だ」

 ヴェイグの声にも、驚愕と畏怖が滲んでいた。


---

 敵の数は多い。が、ユートの猛攻はそれを上回る。

 次々と放たれる魔法の嵐。
 圧倒的な火力と精密な制御。
 味方を巻き込まず、敵だけを確実に葬る魔力の弾幕。

「……化け物めっ!」

 シェリアが激昂し、黒い仮面を脱ぎ捨てた。
 その額に刻まれていたのは、禁呪の魔紋。

「――“闇の律動《ヴォイド・リズム》”!」

 空間が歪む。重力が逆転し、光が吸い込まれていく。
 シェリアの身体が、闇の魔力に包まれながら浮かび上がる。

 「……私は、“選ばれし再構築者”。王に代わる力を手にする者よ……!」

「だったら――その力ごと、叩き潰すまでだ!」

 ユートが突撃する。
 空間の歪みをものともせず、魔力を纏って突き進む。
 足元に魔方陣、空中に魔弾、周囲には魔力の加速円――全力戦闘モード。

 シェリアが黒槍を振りかざし、漆黒の稲妻を飛ばす。

「死ねっ!!」

「――後ろだ」

 瞬間移動。

 ユートの姿は、シェリアの背後にいた。

 「な――」

 容赦なく拳が叩き込まれる。
 風と火をまとったその一撃は、シェリアの防御魔法ごと身体を壁にめり込ませた。

「ぐ……ッ、が、あああああっ!!」

 崩れる石壁。爆ぜる魔力。
 そのまま床に転がり、シェリアは魔力の暴走により呻き声を上げる。

「……なぜ……王家の犬ごときが……!」

「俺は王家のために戦ってるんじゃねぇ」

 ユートが静かに歩み寄り、魔力を収束する。

「“守りたい人がいる”――
 そのために戦ってるだけだ」

 そして最後の一閃。

 「――眠れ」

 光の刃がシェリアの魔紋を打ち砕き、彼女の意識は闇に沈んだ。

【王都地下・最深層へ続く封印の門】

 瓦礫と戦闘の痕跡を背に、ユートは地下通路のさらに奥――
 かすかに魔力の流れが感じられる“封印の扉”の前に立っていた。

 両開きの石扉には、古代語でこう記されていた。

> 『秩序なき真理は破滅をもたらす。されど、秩序に囚われた真理は、真に至らず』



「……厄介な詩文だな。けど、魔力の封印はもう劣化してる」

 ユートは手をかざし、微細な魔力を扉に流し込む。
 古代構文式の封印が浮かび上がり、ゆっくりと開いていく。

 内側からは――“違う空気”が流れ込んできた。

 まるで、王都の地下とは思えない。
 重く、澱んだ魔力。そして異様な静けさ。

「……来いよ、“黒幕”」


---

【王都地下・最深層・旧魔導研究区画】

 その先は広大な空間だった。
 おそらくかつて、王国が禁忌の魔導実験を行っていた地下施設。

 崩れかけた魔導炉、割れた水晶管、黒ずんだ床。
 そしてその中央――禍々しい魔力の柱が、天井へと伸びていた。

 その前に、一人の男が立っていた。

 黒い軍服。白銀の髪。
 瞳は虚ろな深紅――まるで人間とは思えない冷たさをたたえていた。

「……ようこそ、“守護者”よ」

 声は低く、だがよく通る。

「貴様が……“ゼラスト派”の首魁か?」

「我が名は、ゼラスト・アイン・ノヴァ。
 旧王国の禁術開発責任者、そして――“王が捨てた真理”の継承者だ」

「……なるほどな。
 人の形をしていて、一番ヤベェやつって感じだ」

 ユートが魔力を練り上げるのに合わせて、ゼラストの背後に三体の異形の影が浮かび上がる。

 片目の巨人。歪んだ獣人。浮遊する骸骨機械――
 “人の枠”を超えた存在。

「それらは――召喚か?」

「いいや。**人を素材に再構築した“進化の器”**だ。
 “王”が恐れ、封じ、そして見捨てた禁術の成果だよ」

「……ふざけやがって」

 ユートはすっと足を引いた。
 その表情に、一切の甘さはなかった。

「悪いが、“人”を捨てた奴に、俺の魔法は使わねぇ。
 ――お前は、“叩き潰す”対象だ」

「ならば、見せてもらおう。王も恐れた“適合者”の力を――」

 ゼラストが手をかざす。

「我が使徒よ、試練をもってこの者を裁け!」

 三体の異形が一斉に動いた。

 最終決戦前の大乱戦――始まる。

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