異世界転移して最強のおっさん……の隣に住んでいる。

モデル.S

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第2章

これから始まる

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【王都地下・旧魔導研究区画・最深部】

 ゼラストが魔力柱に手をかざした瞬間、周囲の空間が軋んだ。
 床が震え、壁が溶け、空間そのものが歪み始める。

 「――見せてやろう。私が“人”という枠を超えてたどり着いた真理を」

 ゼラストの身体が、魔力柱と同化するように変化を始める。

 黒い外套が崩れ落ちる。
 白銀の髪が舞い上がり、背中から六枚の“魔力の翼”が現れた。

 皮膚は光のように輝き、眼には虚無の色。
 ――人でも、魔物でもない。神でも悪魔でもない。
 それは、“理の外”に立つ存在。

「完成体・ゼラスト……だと……」

 ユートは目を細めた。殺気も怒気もない。だが、確かに“死”がそこにあった。


 ゼラストが指を鳴らすと、空間に**魔力崩壊領域《フィールド・ゼロ》**が発動。
 ユートの詠唱魔法が、一瞬で打ち消された。

「ッ……!? 魔法が……消された……!」

「“術式”に頼る限り、私には届かない」

 ゼラストが歩くたびに、地面が砕け、空気が泣く。

「なら――近接で行く!!」

 ユートは即座に魔力を肉体へ集中し、身体強化に切り替える。
 火と風を纏って急接近。雷の拳を叩き込む!

 が――

 何も当たらない。

「……っ!?」

 拳が、剣が、魔法が、すべて“わずかに外れる”。

「視えた可能性は、全て拒絶する。それが私の領域」

 ゼラストが指先で触れるだけで、ユートの肩から血が飛ぶ。

「ぐっ……ああっ……!」

 魔力が乱れ、視界が霞む。

 攻撃が通らない。
 魔法も届かない。
 体も限界が近い。

 そして、ゼラストが宣告する。

「さらばだ、“希望”を騙る者よ」

 六枚の魔力の翼が輝きを放ち、空間を削る衝撃波が奔る――


---

ゼラストの六翼が唸りを上げ、空間を削り裂く。
 あらゆる魔法を拒絶するかのようなその存在に、ユートは膝をつきかけていた。

「……終わりだ、ユート。君の力は見切った」

 ゼラストが静かに掌をかざす。
 圧縮された空間魔法が形を取り始める。

 ――だが、その瞬間。

 「……まだ、だ」

 ユートが、ふらりと立ち上がった。

 その左手首に、黒い金属の指輪が嵌まっている。

 ――“魔力制限の呪い”。

 ずっと、抑えていた。
 制限しなければ暴走しかねない、過剰な魔力の奔流。

 けれど今――

「もう遠慮しねぇ。全部、出す」

 ギリ、と歯を食いしばり、指輪に力を込める。

 「――砕けろ」

 パキィン!

 魔力制限の指輪が砕け散った。

 次の瞬間、地面が震え、空間がうねる。
 ユートの全身から、膨大な魔力が噴き出した。

 ゼラストが目を見開く。

「なっ……この魔力量……!」


「火球《ファイアボール》」

 その一言で、数十の火球が一斉に展開される。
 それぞれが大人の頭ほどのサイズ、しかも高速連射!

 ズドォォォン!!

 火球が壁を焼き、床を砕き、ゼラストの翼を直撃していく!

「っく……なぜ、そんなに……!」

「何度も何度も、炎で戦ってきた。鍛えてきたのは――“シンプルな力”だ!」

 そして――

「こっからが本番だ。喰らえ……土魔法の本気を!」

 ユートが地面に両手を叩きつけた瞬間――

「連岩槍陣《グランド・スパイクバースト》!!!」

 地面が隆起し、大量の岩槍が怒涛の勢いで天へ突き上がる。
 スピード、硬度、数。すべてが“規格外”。

 ゼラストの足元から、横から、天井から――三方同時に岩槍の雨!

「ぐおおおおおおっ!!」

 ついに、ゼラストが悲鳴を上げた。
 その身体が次第に削られ、翼がもがれ、装甲が剥がれていく。

「止まるなッ!」

 ユートは連射を止めない。

「ファイアボール! ファイアボール!! ファイアボォォォォル!!!」

 連打、連打、連打。
 その数、百発を超える。燃え盛る火球が、ゼラストの身体を灼き尽くしていく!


---

 そして――

 ユートが地面に全魔力を集中させ、最後の一撃を練る。

「終わらせるぞ……これで!」

 地面が振動し、空間が捻じれる。

「土塊連鎖陣《テラ・ランペイジ》!!!」

 巨大な土塊が連続で生成され、上から、下から、横から、
 ゼラストを押し潰すように襲い掛かる。

「ぐあああああああああああっ!!」

 咆哮とともに、ゼラストの身体が土塊の嵐に飲み込まれ――

 ――轟音と共に、崩れ落ちた。


---

【王城・裏口・夜明け前】

 地下からの激戦を終え、ユートはついに地上へと戻ってきた。

 空にはわずかに朝焼けが差し始めている。
 王城の裏門にはすでに第一王衛隊が待機しており、王太子セレインとグレイス伯爵の姿もあった。

「ユート!」

 セレインが駆け寄る。

「よくぞ戻った。……ゼラストは?」

「倒しました。
 かなり手こずりましたけど、魔力の制限を解いて、
 “火”と“土”だけで押し切りました」

 ユートは力なく笑いながらも、確かな確信をこめて言った。

 グレイス伯爵が静かに深く頷く。

「……君がいてくれて良かった。本当に、心からそう思う」

 セレインもまた、深く一礼する。

「ゼラストの残党と地下の全構造は、こちらで引き続き処理する。
 まずは――君自身の身体を休めてほしい」

「了解。家に戻って寝かせてもらいます」


---

【王都・ユートの家・その日の昼】

 ミリアの煮込みスープの香りが家中に漂っていた。

 ティナがソファでのんびり座りながら、
 バルトが縁側で筋トレをしている。
 ユートは食後の紅茶を手に、静かに天井を見上げていた。

「……久しぶりに、静かな昼だな」

「ほんっとに。騒ぎすぎなんだよ、毎回!」

 ティナがあきれ顔で言いながらも、どこか安心したように笑っていた。

「そうかぁ……まあ、その方が平和でいいけどな」

 バルトが腕立てをしながらぼそりとつぶやく。

「でもさ……俺たち、やっぱスゲーのと一緒にいるんだな」

「ん?」

「ユートだよ。
 王都を救った英雄が、目の前で紅茶すすってるとか、冷静に考えておかしくね?」

「うるせーよ」

 ユートが苦笑しながらカップを置いた。

「俺はただの冒険者だ。……少なくとも、自分ではそう思ってる」

 ティナが小さく笑ってうなずいた。

「うん。それでいい。
 “ただの冒険者”の家が、こんなに落ち着くなんてね」


---

【王都・王城・別室】

 一方そのころ。
 セリーナは王城の奥深く――王族専用の静かな間にて、書を読んでいた。

 窓の外には、朝の光が差し込んでいる。

「……終わったのね。
 あなたは、また私の世界から遠ざかってしまうわね……」

 けれどその声には、寂しさと同時に、柔らかな笑みも浮かんでいた。

「……でも、また会える。きっと」


---

【エピローグ】

 戦いは終わった。
 しかし、静けさの中に流れるものがある。

 それは――
 “この世界に、また嵐が来るかもしれない”という、誰にも消せない予感。

 だが、たとえ何が来ようとも。

 ユートは、きっとまた立ち上がる。
 剣も、魔法も、そして意志の力も――全てを使って、守るために。

 ――物語は、まだ終わらない。



 爆風が収まり、土煙が晴れていく。

 中央に立つのは、息を切らせ、片膝をついたユート。
 周囲には、すでに活動を停止したゼラストの残骸。

 ……勝った。

 地響きの中、彼は立ち上がり、残った魔力で照明魔法を灯した。

「ふぅ……これで、やっと……“終わった”か……」

【王都・ユートの家・数日後】

 王都を揺るがした大事件から数日――
 ユートの家には、再びいつもの穏やかな日常が戻っていた。

「ティナ、お前これ……砂糖入れすぎ。甘さで目が覚めるレベルだぞ」

「んー? いいじゃん、疲れてるんでしょ? 甘いのが正義!」

 朝のテーブルに並ぶのは、焼きたてのパンと野菜たっぷりのスープ。
 そして――激甘の紅茶。

「うおお、このスープ……やっぱミリアさん、最高!! 三杯目いきまーす!」

 バルトが食卓で大声を上げると、奥のキッチンから声が返る。

「はいはい。バルトさん、その代わり洗い物はお願いね」

「……ッ! ミリアさん、それは罠ですよ!」

 スプーンを構えたまま凍りつくバルト。
 ユートはそれを横目に、ギルドから届いた通達書類に目を通していた。

「ふむ……王都の警備強化に、監視魔導塔の再稼働か。まあ、当然っちゃ当然か」

「それって、“地下の事件”の?」

「まあな。いろいろと余波が残ってるらしい。
 でもこっちには、もう関係ないさ。俺たちは――いつもの依頼をこなすだけだ」

 ティナが少し笑って、頷く。

「……そうだね。剣と魔法で、食って、寝て、笑って。
 冒険者って、そういうのが一番だよね」

「おー、異議なーし!」

 バルトが勢いよくスープをすすった拍子に、こぼしてミリアに叱られるのも、
 ユートが紅茶を飲みながらぼやくのも――全部、懐かしくて、愛おしい。

 世界の裏で何が蠢こうとも。
 この家には、今日も変わらぬ朝がある。


---

次の冒険がいつ来るかもわからないけれど――
今はこの日常こそが、何よりも大切な宝物だった。

―End of Arc―
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