異世界転移して最強のおっさん……の隣に住んでいる。

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第3章

ドラゴン

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【フィルデン・仮設応接所・面談開始】

 広場の一角、仮設の詰所にテーブルと椅子が並べられ、ユートと宮野が面談に臨んでいた。
 「ルーセ衛士団・初期構成員 募集」に対し、思った以上の人数が手を挙げた。

「……十数人以上来てるな。予想より多い」

「信頼されてる証拠だよ、ユート。さて、選ぶ側の責任、重いぞ」

「わかってる。戦えることより、“守ること”に向いてるかを重視する」


---

●レオン(元・王都兵士・25歳)

 筋肉質で整った顔立ち、礼儀正しく口数少なめ。

「戦う力はあります。けど、戦争じゃなく、“守るための剣”を持ちたかったんです。
 王都ではそれが許されなかった。だから、ここでやり直したい」

→ ユートと無言で頷き合う。「採用候補、第一号」


---

●フィオナ(30代女性・元旅芸人)

 背は低め、快活で誰とでも話せる。子どもに人気。

「剣は振れないけど、人の顔と名前を覚えるのは得意よ。
 “怖くない見張り役”も、必要でしょ?」

→ ユート「うん、めっちゃ必要だね」


---

●グラフ(中年男性・鍛冶師見習い)

「昔なら剣も振れたが、今は膝が……でも、夜の見回りくらいならできる。
 ただの荷運びじゃつまらんからな。人の役に立ちたい」

→ 宮野「経験は何よりの力です。よろしくお願いします」


---

【選考の結果】

正式衛士:5名(レオン、フィオナ、グラフ 他2名)

支援員:3名(詰所当番、記録係、食事係)

今後増員予定・“街の成長とともに”段階的に拡充する方針



---

 街の中央寄りに簡易な木造詰所が建てられ、
 その玄関には小さな看板が掲げられた。

> ルーセ衛士団 ~街と共に歩み、街を守る者たち~



 徽章(バッジ)は、光を模した輪の中央に小さな木の芽――
 「希望と再生」を象徴するユートのデザインだった。


---

【衛士団・初仕事】

 そして数日後。
 ある朝、街の出入り口にて――

「おい、あの荷馬車、なんか様子おかしくないか?」

「見張りに偽って、物資を持ち出してる可能性が……」

 ルーセ衛士団、初の実働任務。
 街の治安を守るため、静かに、しかし確かに動き出した。


---
【フィルデン・街外れの門前・朝】

 衛士団詰所からの報告を受け、レオンを先頭にフィオナ、若手団員のナッシュが街の門へと向かう。

「件の荷馬車は……あれか。荷の積み方がおかしいな」

「本来の許可品目と違う気がする。誰かに確認を――」

「ナッシュ、周囲を見て。フィオナさん、僕と話しかける。柔らかくな」

「任せて。旅芸人は“笑って疑う”のが得意よ」


---

 荷馬車の男は最初、しどろもどろになりながらも弁明を続けた。
 しかし証明書に記された物資と内容が食い違っており、結局――

「申し訳ありません、ちょっと“余分に”積んで……でも盗んだわけでは……!」

 フィオナが優しく、しかししっかりと笑って諭す。

「なら堂々と手続きしてね。
 フィルデンは“ごまかすより、正直な方が得をする”街なんだから」

 レオンが背後で静かに手を当てる。

「荷は一時預かり。確認後、違法性がなければ返す。
 逆に、故意なら――街の掟に基づき、然るべき対応をとる」


---

【その日の午後・広場】

 「初の衛士団出動」として、住民の間でも話題となっていた。

「やっぱり“守る人”がいるって違うな……」

「昨日まではただの賑やかさだったけど、今日はなんか安心感あるな」

「フィオナさんが来てくれるなら、子どもも怖がらないわ」


---


 仮設執務室の窓から、ユートはその様子を眺めていた。
 人々の笑顔、小さなトラブルが“静かに解決された”という安心。

(力じゃない。“信頼できる秩序”が、街を街にしていく)

「ありがとう、みんな……」

 ルーセ衛士団の旗が、初めて風にはためいていた。


---


「次は、“育てる街”に進まないか?」

「育てる……?」

「ああ。子ども、学び、文化。
 生きるだけじゃなく、“未来を考える街”を作ろう」


---

【フィルデン・広場横の空き地】

 ある日、宮野がユートを連れて広場の脇の空き地に立った。
 そこにはまだ何もない。ただ風と、通りかかる子どもたちの声があるだけ。

「ここに、“学び舎”を作ろうと思う」

「学び舎……学校?」

「そう。と言っても、最初は読み書きと数の基本、
 あとは“この街で生きるための知恵”を教える場所だな」

 ユートは頷く。

「フィルデンがずっと続いていくなら、ここで育った子どもたちが“次の柱”になる。
 ――未来の街づくり、か」



---

 同じ頃、セリナも新しい提案を持ってユートの元を訪れていた。

「あの……“香り”で、子どもたちに“感覚を育てる遊び”を、できないかなって……」

「感覚を……?」

「はい。いろんな匂いを嗅いで、どんな気持ちになったかを話すとか。
 “香り”って、記憶にも、心にも、すごく響くんです」

 ユートは目を細めた。

「いいな、それ。学び舎の横に“香りの教室”――子どもたち、絶対喜ぶ」


---

大工見習いの若者が、木造の小屋を建て始め

元旅芸人のフィオナは、絵本を読み聞かせる準備をし

鍛冶師のグラフは、「子どもに安全な道具」の試作を進めていた


「……誰かに言われたわけじゃないのに、みんな勝手に手伝い出してるな」

 ユートが苦笑する。

「それが“育つ街”ってやつなんだよ」と、宮野はにやりと笑う。


---


 ある日曜の朝。広場に置かれた丸太椅子に、子どもたちが並ぶ。
 セリナが優しく香草の束を差し出し、問いかける。

「これは“モルサの葉”。どんな匂いがするかな?」

 「森のにおい!」「雨のにおいだ!」
 子どもたちは目を輝かせ、思い思いに答えていく。

 それを見ていた住民がぽつりと漏らした。

「……この街、ほんとうに生きてるな」


---


【フィルデン・夕刻・広場】

 市場の片隅で、住民たちが笑い声を交わし、子どもたちが追いかけっこをしていた。
 “安心”という名の風が、確かにこの街に根を張りはじめていたそのとき――

「――ッ! 東の監視塔から信号弾! 赤――非常事態だ!」

 詰所の若い衛士が叫ぶと同時に、広場にいた人々の空気が一瞬で変わる。

「レオン副団長! 前線から魔物群の接近報告、続々入ってます!
 規模不明、ですが……すでに街の警戒圏内へ!」


---

【ユート、即応】

 詰所に駆けつけたユートは、報告書を一瞥し、即座に命令を下す。

「非常警戒レベル“橙”を発令。
 子どもと非戦闘員を中心広場の避難所へ誘導。ティナ、バルトは周辺支援。
 俺は直接出る。魔力量、問題なし。行くぞ!」


---

【レオン率いる衛士団、出動】

「前線班、ついてこい! 後衛は広場周辺の封鎖、第三小隊は逃走ルートを確保!」

 街の外、東の草原。
 そこには――確かに、黒い波のように押し寄せる魔物の大群があった。

 獣型、虫型、飛行型――
 大小入り混じるその数、ざっと200以上。

「……これは、“ただの群れ”じゃない。統率されてる……!」


---

【ユート、戦闘開始】

 魔法陣を展開。杖は要らない。
 ユートの手から放たれたのは、超高密度の土槍の連射――

 ドォン!ドォン!ドォン!

 突撃する先頭の魔物たちを、次々に貫く。
 だが、次から次へと現れる敵、敵、敵――

「数が……多い!」


---

【バルトとティナ】

「俺は正面からぶっ飛ばす! ティナ、右側抑えろ!」

「了解! けど無茶しないでよ!」

 二人はまさに“街の盾”だった。衛士団と連携し、街への突破を阻止していく。


---

【フィルデン・街中】

 避難誘導は順調。
 セリナは子どもたちを抱き寄せ、震える彼らに静かに声をかけていた。

「大丈夫、ユートさんがいます。……あの人は、“この街を守る”って決めたんです」


---

【フィルデン郊外・戦場・黄昏】

 土煙と血の匂いが風に混じり、夕陽が空を赤く染めていた。
 ユートの土槍が連続で大地を突き破り、魔物たちを串刺しにしていく。

「――まだ来るか……!」

 背後ではレオン率いる衛士団が防衛線を維持し、ティナが弓を引きながら叫んだ。

「ユート! 東の森、空――何か降りてきた!」

 ユートが目を凝らす。
 遠く、赤黒い翼を広げた巨大な影――

 「ドラゴンだ……!」

 森の木々がなぎ倒され、大地が揺れる。
 それを見た魔物たちは――恐怖に駆られたように、フィルデンの方向へ一斉に突撃し始めた。

「そうか……これは、“襲撃”じゃない――“逃走”だったのか!」



 空気が一変する。

 ユートが魔力を解放し、両手を広げると同時に、
 地面から無数の土杭、槍、そして斬撃のような地割れが展開される。

 「弾幕展開――“絶地連槍陣”!」

 目にも留まらぬ速度で放たれる攻撃の雨。
 空からはティナの精密射撃が支援し、地上ではバルトが獣のように突撃を繰り返す。

「下がってろ衛士どもォォ! 俺とティナとユートで終わらせる!!」


 狂乱した魔物たちは、三方向からの絶え間ない攻撃に一体また一体と倒れていく。
 それはまるで“圧殺”だった。

 ユートが息を吐いた瞬間――

 最後の一匹が、バルトの剣によって首を跳ね飛ばされた。

 重く長い静寂が戦場を包む。


---

【フィルデン・夜・広場】

 「魔物の大群、迎撃完了――被害なし!」

 レオンの報告に、街中から歓声が上がる。

 セリナは小さく胸をなで下ろしながら、
 ユートの背中を遠くから見て、呟いた。

「本当に……この街を守ってくれるんだ……」



(ドラゴンか――ただの通過にしては、警戒すべき存在だな。
 だが、今は――守れた。それでいい)

 ユートは、血と土にまみれた手を広場の水桶で洗いながら、
 夜空を見上げる。

(フィルデンは、まだ始まったばかりだ。なら――どんな脅威でも、俺が止める)


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